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第六話 竜騎士と竜殺しの銃
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竜騎士と竜殺しの銃
ユスター暦 1485年9月1日 5:00
「おい アラン ちょっと良いか?」
その声はムサシだった。パジャマ姿のままのアランが眠い目を擦ってドアを開くと美しい朝日の光が緑色の瞳に入って来た。ホライズン号は雲の上から照りつける朝日を浴びていた。
「眩しい」アランは腕で光を遮る。
「これから行くペイジーは 竜騎士との戦いになる お前が渡された竜殺しの銃 俺に使わせてくれないか?」ムサシは静かな口調で言っている。
「これはルトプスが 俺に竜騎士と戦えって…」
「そんなのは分っている」ムサシは急に大きな声で言った。今まで抑えていた竜騎士への憎しみが、もう限界に来ていることはアランも承知だ。竜殺しの銃はシュウの言う通りに、まだ渡していない。
「あいつを倒すのは俺の役目だ 俺の故郷を占領したあいつ」ムサシは背中に位置する船の壁をドンと叩いた。
「あいつは宰相のクーデターより前に首都のウルム・ジレフから出兵したんだ そして俺の故郷 ヒノクニを襲ってきた 俺はヒノミヤコから逃げる時 あいつのアームノイド ドラヘンリッターを見た」
「父上は逃げる俺に この刀を渡した それで時間稼ぎに武人を束ねる将軍として 最後の意地を見せたんだ 一太刀で殺られたよ 船の甲板で母上も父の最期を見届けたら自害した」ムサシは拳を握りしめたままだ。怒りと悲しみに震えながら。
アラン達がオージョウにある古代都市セレウキアから出発して、ルトプスと戦ったのはムサシだった。彼を倒しても故郷を襲い、家族を奪った竜騎士への憎しみは変わらない。
「竜騎士は何故か知らないけど 俺に竜殺しの銃を託した…けど俺よりも親の敵討ちが先だよな 竜殺しの銃を撃ってみるか?敵討ちには練習が要るぞ」
アランが右手を出すと手のひらに収まるくらいに小さくなった竜殺しの銃が現れた。それをムサシの手のひらに置くと、スッとムサシの手のひらに消えた。
ホライズン号は竜騎士の領地である、マイサ・ザ・ロンダにたどり着いた。水がふんだんにある街だ。
朝食を摂る5人の前にシルフが現れた。
「オスカー 飲料水が足りないみたいなの 街へお水の買い足しに行ってくれないかしら?それとオスカー だけじゃ大変だから エミリとシュウも一緒に行って来て」シルフが話すと3人は特に疑問も持たずに街へ出ていった。
街の郊外には「ズロンドア湖」という、大きな湖がある。アランとムサシはその湖のほとりに立った。
「銃口 竜の炎 破壊 そんなイメージを念じるんだ」アランが教えると、ムサシは手を前に突き出した。しかし手のひらに銃の姿どころか、無から生じる生命の輝きも生じなかった。
「アラン 私掠戦が爆発して火球に飲み込まれるピンチに陥った時 お前はとっさに出したよな」アランは頷いた。
「エミリもシスターとの戦いでサーベルを具現化したが 人間は何か追い詰められないと 本当の力は出ないもんなのかな?」普段は愚痴を言わないムサシがぼやく。しかしアランは否定した。
「違うと思うぜ 俺は仲間を守りたいと思ったし エミリも…あいつも故郷の人たちを守りたいと思っていたと思う お前の故郷や人々 家族を奪われた気持ちを俺には分かるなんて言えないけど 怒りと守る気持ちは違うと思うんだ」
しばらくお互いが無言になった。
「ムサシ ごめん 言い過ぎたな」
無言のムサシの顔を見て、アランはすまなさそうに言った。
「いや いいんだアラン 俺の方こそスマナイな」
ムサシはそういうと、自分の右手でアランの左手を握り竜殺しの銃を返した。アランの左手に柔らかな光が灯った。
2人は船に戻り、オスカー達も戻って来た。一行は竜騎士の都ウルム・ジレフに向かうが、ホライズン号は急停止した。
「どうしたの シルフ?」エミリが操縦席から声を掛けると、シルフが船内に姿を表して前方の映像を見せた。ひとつのメカノイドが立っている。その騎士のメカノイドは全く音を立てずに近づいてきた。
「旅の騎士たちよ 我が名はツークギア 竜騎士様の風 竜騎士様は黒の台地でお待ちです 今よりこのツークギアがご案内します」
機械仕掛けのメカノイドが音を立てない事に驚く4人だったが、シルフは勝手に返事をした。
「分かりました ツークギアさん 着いていきます」
一行は黒の台地に降り立った。その前には10000の騎士達、メカノイドが集まっていた。ベイオール・ド・テシウスが率いる竜騎士団の騎士達だ。
全員メカノイドのハッチを開け、顔を出してアラン達を見つめていた。憎悪は感じられないが、強い闘志を持った視線だ。
「私の役目はここまでです お互い真剣勝負で挑みましょう」そう言い残し、ツークギアは姿を消した。
アラン、エミリ、ムサシ、シュウが下船すると、10000の騎士達の先頭にひとつのメカノイドが現れた。竜騎士と同じ緑のボディカラーだが、赤い布地に黄色い縁が入った派手なマントをひるがえしていた。小さな器に強大なエネルギーを蓄積させている。上級メカノイドだ。彼もまたハッチを開けたままだ。そしてマイクを使わず大声で自軍の騎士達に語りかけた。
「偉大なる竜騎士 テシウス様に反抗する者どもが来たぞ」
「オーッ!!」騎士団達から挑発するような声が大地に広がった。彼らもマイクは使っていない。
上級メカノイドは続けた。
「あの者共の進軍を許すな テシウス様をお守りするぞ!!」
「オーッ‼」再び挑発的な声がする。
「竜騎士団の誇りにかけて!!」上級メカノイドが槍を真上に突き上げた。すると他の騎士達も
「竜騎士団の誇りにかけて‼」と復唱した。その声は先程の声よりも強く、大地を震わせた。そして一斉にメカノイドのハッチを閉め、起動させると槍の尖端をアラン一行に向けた。
「強力な統率力だけではありません あれは竜騎士様の信頼度 忠誠心です この戦いは激戦になりますぞ」オスカーは若い4人の騎士達に言った。
「分かっているよ オスカー」アランは仲間一人ひとりと目を合わせた。3人も強い決意を持って頷いた。
「シクロプタル‼」4人が叫ぶと火柱から、ザ・ナイト、エンジェル、カブト、シノビが現れた。
「一点突破だ ムサシ 俺が竜殺しの銃で竜騎士団めがけてぶちかます お前は先陣を切る 出来るか?」
「ああ 任せてくれ どれだけ過酷な戦場においても 一歩も後退せず進み続けるのは金剛武士である俺の仕事だ」
ムサシのカブトの手から大剣ハスノヒトフリが現れた。エンジェルはサーベルを、シュウのシノビは右手に短剣を、左手には風を操るタクトを手にして構えた。
「エミリ シュウ 大通りができたら密集隊形で突撃するぞ 足を止めたら終わりだ」
アランは右手に竜殺しの銃を具現化させ、引き金を引いた。
すると全てを焼き尽くす焼夷弾が放たれた。炸裂した炎は竜騎士達のメカノイドを飲み込みながら突き進み、突破口が開いた。
「行くぞ‼」アランが叫ぶと、カブトを先頭にザ・ナイト、エンジェル、シノビが続いた。
突破口はすぐに塞がった。メカノイドとアームノイドでは力量の差は大きいはずだった。しかし彼らは強力だった。
「こいつ等本当にメカノイドかよ?めちゃくちゃ強ええぞ それに速え‼」
シュウは死を恐れずにアラン達4騎のアームノイドを囲んでくる竜騎士のメカノイド達に恐怖した。
「本当にきりが無いくらい どんどん来るわ」エンジェルはジャンプするとアラン達の密集隊形を中心に、サーベルを振り回した。
ドクトルが物量だけで行った作戦ではない。絶対的な忠誠心と上級メカノイドの指揮力により、流動的に騎士達が動いていた。4人の騎士達の歩みが止まりそうになった時、アランは第二射を撃つ。気力と体力を使うが、仲間の3人も同じだ。密集隊形は崩さずに竜騎士団たちへ食い込んでいく。
その先には竜騎士、ベイオール・ド・テシウスが待っていた。
「ルトプスとの初陣から二ヶ月か…よくぞここまで短期間に成長したな 若き騎士達よ」
テシウスは青龍偃月刀の様な姿の竜騎士の剣の柄を強く握った。天空に剣先を向けると落ち着き、威厳のある声で言った。
「シクロプタル」
空から火柱が降りてくる。竜騎士団団長のアームノイド、ドラヘンリッターが出現した。緑色の体の表面には所々に鱗やヒレがある。まさに竜、世界各地の伝説に現れる竜が現れたのだ。
ドラヘンリッターはただ静かに立っているだけだったが、その姿は誰が見ても畏敬の念を持たせるのに十分だった。
「竜騎士様が出陣されるぞ 皆の者 もっと力を出せ‼」マントをひるがえす上級メカノイドが竜騎士団の先頭、アランたちの前に現れた。
「我が名はブラスト ルトプスと同く竜騎士様の手足となる男だ あの方の前に行くのなら 先ず私を倒せ‼」そう言うと、先頭のカブト、ムサシに斬りかかった。カブトは自分の刀、ハスノヒトフリでこれを止めた。ブラストのメカノイドが自分の剣にエネルギーを集中させると、合わせ刃を中心に爆発が起きる。だがブラストのメカノイドは無傷だ。ルトプスもだったが、上級メカノイドを操る者の強さは長い時間をかけた鍛錬と竜騎士、ベイオール・ド・テシウスへの忠誠心の現れだった。
「いかん このままでは足が止まって包囲 殲滅されますぞ」ホライズン号から見守るオスカーの危機感はアランも同じだった。ザ・ナイトは竜殺しの銃を構えた。
すると「アラン 待ってくれ このメカノイドは手練れだが 今すぐ倒す お前の力は温存してくれ」
そう言うとカブトはハスノヒトフリを上段に構え、大きく振り下ろした。ブラストの乗る上級メカノイドはシールドを展開したが、突撃力のあるカブトの最大パワーの前では無力だ。直ぐに爆発をしてしまったが、アランは号令をかける。
「感傷は置いていけ 進むぞ‼」屍を越えて進軍する。
戦場の過酷さ、それを生き抜く騎士としての責任の重さを知った彼らは足を止めず、竜騎士の所までたどり着いた。
「着いたか…」
ドラヘンリッターは槍を具現化させ、両手で構えた。すると左右にメカノイドが控え、アランたちの背後、左右もメカノイドが囲った。逃げ場はないが、彼らは襲いかからない。一騎打ちを見守るためだった。
「最上級騎士が来るか 金剛武士が来るか?私は同時に相手しても構わんぞ」
アランもムサシもその強さをアームノイドを介して感じていた。二人がかりでも勝てるか自信がなかったのだ。その時、ムサシのカブトがハスノヒトフリを消した。
「どうした?ムサシ‼」アランは驚き思わず叫んだが、カブトは刀を消すどころか直立状態になった。
「俺は…俺の力では竜殺しは出来ない この勝負はお前に預ける」
「そうか…分かった やってやるさ」
圧倒的な力に恐怖したアランだったがそれを抑えて剣を構えた。
ザ・ナイトとドラヘンリッターの一騎打ちが決まると、竜騎士の左右に居た騎士達がハッチを開けて大声を響かせた。
「我等が竜騎士さま 最強の騎士 竜騎士さま その力をお見せ下さい」
アラン達を囲うメカノイド達、今にも爆発しそうな程に攻撃を受けたメカノイドもハッチを開けて大きな声を上げた。
ザ・ナイトとドラヘンリッターが構えた。二人と十字を描くように、二人の騎士が赤い布地に黄色い縁がある旗を右腕で上げて立つ。そして旗を下ろした。
先攻を取ったのはアランだった。ザ・ナイトは一瞬でドラヘンリッターに間合いをつめるとライトニングソードで斬りかる。大きな雷鳴が起こった。しかし爆発音や金属を切り刻む音ではない。
アランの剣はドラヘンリッターの左手でガシッと受け止められていたのだ。竜騎士の装甲はザ・ナイトのライトニングソードよりも硬く、その腕力もザ・ナイトよりも強かった。握られた刃は少しずつ右側へと傾けられ、剣を握るザ・ナイトの腕も右腕にひねられていった。
力の差は歴然だった。
「どうした 私の竜の鱗は竜殺しの銃を使わぬ限り 傷つきはしないぞ」竜騎士は言った。
ザ・ナイトはドラヘンリッターからスッと剣を抜き、そこから後ろへ、また後ろへと下がり距離を取った。そして右手を前に出すと竜殺しの銃を具現化した。
「我がドラヘンリッターの鱗は力の変換をすれば 騎士の中でも強固な刃を持つ金剛武士の剣よりも硬く しかもシノビの体よりも柔軟だ 一瞬で力をぶつけない限り鱗は砕けん 竜殺しのチャンスは一瞬だ」ドラヘンリッターは槍の柄尻を地面に立てて、仁王立ちになった。
アランは引き金を引いた。炸裂焼夷弾が放たれたが、ドラヘンリッターには命中しなかった。ドラヘンリッターは一歩も動いていない。竜殺しの銃は射撃時に大きな反動がある。しかもアランは竜騎士の力を恐れ、ザ・ナイトの手元を狂わせたのだ。これでは命中しない。
「なぜ私が竜殺しの銃を ザ・ナイトの継承者である君に渡したのか よく考えるのだ」竜騎士は問いかけた。
「マサトモの息子ムサシよ 君も考えたまえ」
「親の敵として 竜騎士を憎むムサシでなく俺に…」アランは小声で言うと考えた。見守るムサシも同じく呟いた。
「俺でなくアランに…」
「よいか 王の命令に逆らい 王と戦える唯一の騎士はザ・ナイトだ アンドルーの息子アランよ 私を倒せぬようではこの世は救えぬぞ 心してかかれ」竜騎士は教え諭す様に言った。
アランは銃の反動を抑え込むため、今度は両手で構えた。そして引き金を引き炸裂焼夷弾を放った。今度はドラヘンリッターの方向へ突き進む。するとドラヘンリッターはサッと焼夷弾を避けてしまった。
「ザ・ナイトよ 我が銃を正確に撃てるようになったことは褒めてやろう しかし自分の技とするには程遠い 君の特技は何だ?射撃か?」竜騎士の問いかけに、アランはハッと気が付いた。
「俺の特技は射撃じゃない 接近戦だ」アランはザ・ナイトを前へ駆けさせ、一気に間合いを詰めた。
「ゼロ距離射撃だ」ザ・ナイトはドラヘンリッターの鱗を着けたボディに銃口を肉迫させた。しかしその手首をドラヘンリッターは握ると上へと持ち上げて、ザ・ナイトのボディをドンと後ろに倒した。そして倒したザ・ナイトに自分の槍を突きつけた。
「まだ分からんのか?君の特技は銃撃か?剣術か?」竜騎士の最後の質問に対して、アランは倒れたままのザ・ナイト中で考えた。
「俺は 今まで剣の腕を磨いた 一振りで相手を倒す技だ 刃だ 一筋だ」アランはなにかに気づき、そして念じた。するとザ・ナイトの右手に握られた銃は東国に伝わる古代の武器、柳葉刀へと姿を変えた。そしてドラヘンリッターを蹴り後ろへ引かせると直ぐに起き上がる。更に一気に間合いをつめた。
「竜殺しの銃じゃなく 竜殺しの剣だ これが俺の戦い方だ」アランは叫び、竜殺しの剣を真下へと振り下ろした。太刀筋には牙を出し、口を大きく開けた炎竜が見える。
そして剣と竜の鱗が擦れ、摩擦で火花をちらした。アームノイド、ドラヘンリッターは大きなダメージを受けて剣に納まってしまった。
戦場から音が止み沈黙する。メカノイドに乗る騎士達一人ひとりから希望が消え失せたような感覚が読み取れた。
生身の状態で直立したまま動かない竜騎士の前で、アランはザ・ナイトを剣に納めて竜騎士と対面した。エミリ、ムサシ、シュウもアームノイドを剣に納めて掛けて来た。
「ムサシ どうする?」アランはムサシを見て言った。
「いや これは俺の勝負じゃない それに竜騎士は周りにいる騎士達から絶大な信頼を得ている この国は平和だ…俺の恨みで竜騎士を倒しても 国や民に絶望をもたらす事になる 俺がヒノクニで味わった思いはさせたくない」ムサシはカブトを刀におさめたまま言った。
彼の中で一つの気持ちの整理ができた様だった。
「竜騎士よ なぜ俺の国を襲った?父とあんたは友だったはずだ」ムサシは竜騎士に尋ねた。
「私が君の国と民を焼き払い 君の父に手を掛け 母君を死に追いやった その事実は変わらない ただ 今この世界に起きている混乱を収束させるには 私が動くしか無かったのだ 宰相は…」
「そこからはこのツークギアがお話します」一つのメカノイドが近づくと男が降りてきた。この戦場の案内人の騎士だった。
「宰相殿はクーデターを起こす前に 竜騎士様にその計画を知らせました もちろん竜騎士様は反対され クーデターへの参加を断りました しかし直ぐに別の使者と名乗るドクトル・ノヴァクがやって来ました 彼は疑似アームノイドを納めた3本の異端の剣を持ち 意思なき者も3名連れて来ました そして竜騎士様が動かぬのなら この意思なき者達を動かす と言い決断を迫ったのです」
うつむいていたムサシは顔を上げ、ツークギアを見上げた。
「そうです 宰相がクーデターを興したあの日 ドクトルが10体の疑似アームノイドを操り 宰相の計画を成功させた話は皆様もご存知ですな 竜騎士様はヒノクニで疑似アームノイドが暴れるのを回避し なるべく少ない犠牲をもって かの地に騎士達を進めたのです」
「その犠牲として俺の親を…」
ムサシは言葉をつまらせた。それを見つめたツークギアは同情した目でムサシを一瞬見たが、直ぐに感情を抑えて言った。
「残念ですが 主の敗北を騎士 いや武人達に見せることで 彼らに武器を下ろさせました つらいお話ですが 民の安全の為に自分の命を捧げる事も 武人の努めなのです」
「それと…病を負った将軍に 戦場で散る花道を 竜騎士様は添えたのですよ」
「父上…」ムサシはうつむきながら小さい声で言った。
「騎士の剣を持つ人でも十分に戦えない心身なのなら 暴走する疑似アームノイドは抑えられない」エミリはそう言おうとするが、口を閉じていた。
皆を見回すと、ツークギアは再び姿を消した。
直立不動だった竜騎士、ベイオール・ド・テシウスはムサシに歩み寄り頭を下げた。
「金剛武士の刀を継ぐムサシよ 私の命は君に預けよう」
無言でムサシは頷いてそれに応えた。彼はもう、竜騎士に刃を向けようとはしないだろう。
ガルスダットのストルジャー城ではふたつの人影が居た。王女マリオンと宰相ベルメッドだ。「王の目」で、アラン、エミリ、ムサシ、シュウ達が竜騎士と黒の台地で戦う姿を見守っていたのだ。女王マリオンは言った。
「宰相 若い騎士達は確実に 貴方が制圧した領土を奪還しています シスター・ミリアムも竜騎士ベイオール・ド・テシウスも もう貴方には従わないでしょう 貴方は追い詰められています」
「それはどうでしょう?ドクトルが疑似アームノイドを 解放されたアメルックに再び送り込めば また民は混乱すると思いますぞ」宰相は答えた。
「そうですね これから市民 世界の国民達が圧政に対して 故郷をどう守るか 試される時ですね」
女王マリオンの表情、ブルーとヘーゼルカラーの瞳は険しい。人々が力に怯え、再び自由をかえしてしまうのか、あるいは命をかけてでも自由を守るのか?彼女には分からなかった。
しかし彼女にもアラン、エミリ、ムサシ、シュウ達は一歩ずつ王都へ近づいているという希望があった。
ユスター暦 1485年9月1日 5:00
「おい アラン ちょっと良いか?」
その声はムサシだった。パジャマ姿のままのアランが眠い目を擦ってドアを開くと美しい朝日の光が緑色の瞳に入って来た。ホライズン号は雲の上から照りつける朝日を浴びていた。
「眩しい」アランは腕で光を遮る。
「これから行くペイジーは 竜騎士との戦いになる お前が渡された竜殺しの銃 俺に使わせてくれないか?」ムサシは静かな口調で言っている。
「これはルトプスが 俺に竜騎士と戦えって…」
「そんなのは分っている」ムサシは急に大きな声で言った。今まで抑えていた竜騎士への憎しみが、もう限界に来ていることはアランも承知だ。竜殺しの銃はシュウの言う通りに、まだ渡していない。
「あいつを倒すのは俺の役目だ 俺の故郷を占領したあいつ」ムサシは背中に位置する船の壁をドンと叩いた。
「あいつは宰相のクーデターより前に首都のウルム・ジレフから出兵したんだ そして俺の故郷 ヒノクニを襲ってきた 俺はヒノミヤコから逃げる時 あいつのアームノイド ドラヘンリッターを見た」
「父上は逃げる俺に この刀を渡した それで時間稼ぎに武人を束ねる将軍として 最後の意地を見せたんだ 一太刀で殺られたよ 船の甲板で母上も父の最期を見届けたら自害した」ムサシは拳を握りしめたままだ。怒りと悲しみに震えながら。
アラン達がオージョウにある古代都市セレウキアから出発して、ルトプスと戦ったのはムサシだった。彼を倒しても故郷を襲い、家族を奪った竜騎士への憎しみは変わらない。
「竜騎士は何故か知らないけど 俺に竜殺しの銃を託した…けど俺よりも親の敵討ちが先だよな 竜殺しの銃を撃ってみるか?敵討ちには練習が要るぞ」
アランが右手を出すと手のひらに収まるくらいに小さくなった竜殺しの銃が現れた。それをムサシの手のひらに置くと、スッとムサシの手のひらに消えた。
ホライズン号は竜騎士の領地である、マイサ・ザ・ロンダにたどり着いた。水がふんだんにある街だ。
朝食を摂る5人の前にシルフが現れた。
「オスカー 飲料水が足りないみたいなの 街へお水の買い足しに行ってくれないかしら?それとオスカー だけじゃ大変だから エミリとシュウも一緒に行って来て」シルフが話すと3人は特に疑問も持たずに街へ出ていった。
街の郊外には「ズロンドア湖」という、大きな湖がある。アランとムサシはその湖のほとりに立った。
「銃口 竜の炎 破壊 そんなイメージを念じるんだ」アランが教えると、ムサシは手を前に突き出した。しかし手のひらに銃の姿どころか、無から生じる生命の輝きも生じなかった。
「アラン 私掠戦が爆発して火球に飲み込まれるピンチに陥った時 お前はとっさに出したよな」アランは頷いた。
「エミリもシスターとの戦いでサーベルを具現化したが 人間は何か追い詰められないと 本当の力は出ないもんなのかな?」普段は愚痴を言わないムサシがぼやく。しかしアランは否定した。
「違うと思うぜ 俺は仲間を守りたいと思ったし エミリも…あいつも故郷の人たちを守りたいと思っていたと思う お前の故郷や人々 家族を奪われた気持ちを俺には分かるなんて言えないけど 怒りと守る気持ちは違うと思うんだ」
しばらくお互いが無言になった。
「ムサシ ごめん 言い過ぎたな」
無言のムサシの顔を見て、アランはすまなさそうに言った。
「いや いいんだアラン 俺の方こそスマナイな」
ムサシはそういうと、自分の右手でアランの左手を握り竜殺しの銃を返した。アランの左手に柔らかな光が灯った。
2人は船に戻り、オスカー達も戻って来た。一行は竜騎士の都ウルム・ジレフに向かうが、ホライズン号は急停止した。
「どうしたの シルフ?」エミリが操縦席から声を掛けると、シルフが船内に姿を表して前方の映像を見せた。ひとつのメカノイドが立っている。その騎士のメカノイドは全く音を立てずに近づいてきた。
「旅の騎士たちよ 我が名はツークギア 竜騎士様の風 竜騎士様は黒の台地でお待ちです 今よりこのツークギアがご案内します」
機械仕掛けのメカノイドが音を立てない事に驚く4人だったが、シルフは勝手に返事をした。
「分かりました ツークギアさん 着いていきます」
一行は黒の台地に降り立った。その前には10000の騎士達、メカノイドが集まっていた。ベイオール・ド・テシウスが率いる竜騎士団の騎士達だ。
全員メカノイドのハッチを開け、顔を出してアラン達を見つめていた。憎悪は感じられないが、強い闘志を持った視線だ。
「私の役目はここまでです お互い真剣勝負で挑みましょう」そう言い残し、ツークギアは姿を消した。
アラン、エミリ、ムサシ、シュウが下船すると、10000の騎士達の先頭にひとつのメカノイドが現れた。竜騎士と同じ緑のボディカラーだが、赤い布地に黄色い縁が入った派手なマントをひるがえしていた。小さな器に強大なエネルギーを蓄積させている。上級メカノイドだ。彼もまたハッチを開けたままだ。そしてマイクを使わず大声で自軍の騎士達に語りかけた。
「偉大なる竜騎士 テシウス様に反抗する者どもが来たぞ」
「オーッ!!」騎士団達から挑発するような声が大地に広がった。彼らもマイクは使っていない。
上級メカノイドは続けた。
「あの者共の進軍を許すな テシウス様をお守りするぞ!!」
「オーッ‼」再び挑発的な声がする。
「竜騎士団の誇りにかけて!!」上級メカノイドが槍を真上に突き上げた。すると他の騎士達も
「竜騎士団の誇りにかけて‼」と復唱した。その声は先程の声よりも強く、大地を震わせた。そして一斉にメカノイドのハッチを閉め、起動させると槍の尖端をアラン一行に向けた。
「強力な統率力だけではありません あれは竜騎士様の信頼度 忠誠心です この戦いは激戦になりますぞ」オスカーは若い4人の騎士達に言った。
「分かっているよ オスカー」アランは仲間一人ひとりと目を合わせた。3人も強い決意を持って頷いた。
「シクロプタル‼」4人が叫ぶと火柱から、ザ・ナイト、エンジェル、カブト、シノビが現れた。
「一点突破だ ムサシ 俺が竜殺しの銃で竜騎士団めがけてぶちかます お前は先陣を切る 出来るか?」
「ああ 任せてくれ どれだけ過酷な戦場においても 一歩も後退せず進み続けるのは金剛武士である俺の仕事だ」
ムサシのカブトの手から大剣ハスノヒトフリが現れた。エンジェルはサーベルを、シュウのシノビは右手に短剣を、左手には風を操るタクトを手にして構えた。
「エミリ シュウ 大通りができたら密集隊形で突撃するぞ 足を止めたら終わりだ」
アランは右手に竜殺しの銃を具現化させ、引き金を引いた。
すると全てを焼き尽くす焼夷弾が放たれた。炸裂した炎は竜騎士達のメカノイドを飲み込みながら突き進み、突破口が開いた。
「行くぞ‼」アランが叫ぶと、カブトを先頭にザ・ナイト、エンジェル、シノビが続いた。
突破口はすぐに塞がった。メカノイドとアームノイドでは力量の差は大きいはずだった。しかし彼らは強力だった。
「こいつ等本当にメカノイドかよ?めちゃくちゃ強ええぞ それに速え‼」
シュウは死を恐れずにアラン達4騎のアームノイドを囲んでくる竜騎士のメカノイド達に恐怖した。
「本当にきりが無いくらい どんどん来るわ」エンジェルはジャンプするとアラン達の密集隊形を中心に、サーベルを振り回した。
ドクトルが物量だけで行った作戦ではない。絶対的な忠誠心と上級メカノイドの指揮力により、流動的に騎士達が動いていた。4人の騎士達の歩みが止まりそうになった時、アランは第二射を撃つ。気力と体力を使うが、仲間の3人も同じだ。密集隊形は崩さずに竜騎士団たちへ食い込んでいく。
その先には竜騎士、ベイオール・ド・テシウスが待っていた。
「ルトプスとの初陣から二ヶ月か…よくぞここまで短期間に成長したな 若き騎士達よ」
テシウスは青龍偃月刀の様な姿の竜騎士の剣の柄を強く握った。天空に剣先を向けると落ち着き、威厳のある声で言った。
「シクロプタル」
空から火柱が降りてくる。竜騎士団団長のアームノイド、ドラヘンリッターが出現した。緑色の体の表面には所々に鱗やヒレがある。まさに竜、世界各地の伝説に現れる竜が現れたのだ。
ドラヘンリッターはただ静かに立っているだけだったが、その姿は誰が見ても畏敬の念を持たせるのに十分だった。
「竜騎士様が出陣されるぞ 皆の者 もっと力を出せ‼」マントをひるがえす上級メカノイドが竜騎士団の先頭、アランたちの前に現れた。
「我が名はブラスト ルトプスと同く竜騎士様の手足となる男だ あの方の前に行くのなら 先ず私を倒せ‼」そう言うと、先頭のカブト、ムサシに斬りかかった。カブトは自分の刀、ハスノヒトフリでこれを止めた。ブラストのメカノイドが自分の剣にエネルギーを集中させると、合わせ刃を中心に爆発が起きる。だがブラストのメカノイドは無傷だ。ルトプスもだったが、上級メカノイドを操る者の強さは長い時間をかけた鍛錬と竜騎士、ベイオール・ド・テシウスへの忠誠心の現れだった。
「いかん このままでは足が止まって包囲 殲滅されますぞ」ホライズン号から見守るオスカーの危機感はアランも同じだった。ザ・ナイトは竜殺しの銃を構えた。
すると「アラン 待ってくれ このメカノイドは手練れだが 今すぐ倒す お前の力は温存してくれ」
そう言うとカブトはハスノヒトフリを上段に構え、大きく振り下ろした。ブラストの乗る上級メカノイドはシールドを展開したが、突撃力のあるカブトの最大パワーの前では無力だ。直ぐに爆発をしてしまったが、アランは号令をかける。
「感傷は置いていけ 進むぞ‼」屍を越えて進軍する。
戦場の過酷さ、それを生き抜く騎士としての責任の重さを知った彼らは足を止めず、竜騎士の所までたどり着いた。
「着いたか…」
ドラヘンリッターは槍を具現化させ、両手で構えた。すると左右にメカノイドが控え、アランたちの背後、左右もメカノイドが囲った。逃げ場はないが、彼らは襲いかからない。一騎打ちを見守るためだった。
「最上級騎士が来るか 金剛武士が来るか?私は同時に相手しても構わんぞ」
アランもムサシもその強さをアームノイドを介して感じていた。二人がかりでも勝てるか自信がなかったのだ。その時、ムサシのカブトがハスノヒトフリを消した。
「どうした?ムサシ‼」アランは驚き思わず叫んだが、カブトは刀を消すどころか直立状態になった。
「俺は…俺の力では竜殺しは出来ない この勝負はお前に預ける」
「そうか…分かった やってやるさ」
圧倒的な力に恐怖したアランだったがそれを抑えて剣を構えた。
ザ・ナイトとドラヘンリッターの一騎打ちが決まると、竜騎士の左右に居た騎士達がハッチを開けて大声を響かせた。
「我等が竜騎士さま 最強の騎士 竜騎士さま その力をお見せ下さい」
アラン達を囲うメカノイド達、今にも爆発しそうな程に攻撃を受けたメカノイドもハッチを開けて大きな声を上げた。
ザ・ナイトとドラヘンリッターが構えた。二人と十字を描くように、二人の騎士が赤い布地に黄色い縁がある旗を右腕で上げて立つ。そして旗を下ろした。
先攻を取ったのはアランだった。ザ・ナイトは一瞬でドラヘンリッターに間合いをつめるとライトニングソードで斬りかる。大きな雷鳴が起こった。しかし爆発音や金属を切り刻む音ではない。
アランの剣はドラヘンリッターの左手でガシッと受け止められていたのだ。竜騎士の装甲はザ・ナイトのライトニングソードよりも硬く、その腕力もザ・ナイトよりも強かった。握られた刃は少しずつ右側へと傾けられ、剣を握るザ・ナイトの腕も右腕にひねられていった。
力の差は歴然だった。
「どうした 私の竜の鱗は竜殺しの銃を使わぬ限り 傷つきはしないぞ」竜騎士は言った。
ザ・ナイトはドラヘンリッターからスッと剣を抜き、そこから後ろへ、また後ろへと下がり距離を取った。そして右手を前に出すと竜殺しの銃を具現化した。
「我がドラヘンリッターの鱗は力の変換をすれば 騎士の中でも強固な刃を持つ金剛武士の剣よりも硬く しかもシノビの体よりも柔軟だ 一瞬で力をぶつけない限り鱗は砕けん 竜殺しのチャンスは一瞬だ」ドラヘンリッターは槍の柄尻を地面に立てて、仁王立ちになった。
アランは引き金を引いた。炸裂焼夷弾が放たれたが、ドラヘンリッターには命中しなかった。ドラヘンリッターは一歩も動いていない。竜殺しの銃は射撃時に大きな反動がある。しかもアランは竜騎士の力を恐れ、ザ・ナイトの手元を狂わせたのだ。これでは命中しない。
「なぜ私が竜殺しの銃を ザ・ナイトの継承者である君に渡したのか よく考えるのだ」竜騎士は問いかけた。
「マサトモの息子ムサシよ 君も考えたまえ」
「親の敵として 竜騎士を憎むムサシでなく俺に…」アランは小声で言うと考えた。見守るムサシも同じく呟いた。
「俺でなくアランに…」
「よいか 王の命令に逆らい 王と戦える唯一の騎士はザ・ナイトだ アンドルーの息子アランよ 私を倒せぬようではこの世は救えぬぞ 心してかかれ」竜騎士は教え諭す様に言った。
アランは銃の反動を抑え込むため、今度は両手で構えた。そして引き金を引き炸裂焼夷弾を放った。今度はドラヘンリッターの方向へ突き進む。するとドラヘンリッターはサッと焼夷弾を避けてしまった。
「ザ・ナイトよ 我が銃を正確に撃てるようになったことは褒めてやろう しかし自分の技とするには程遠い 君の特技は何だ?射撃か?」竜騎士の問いかけに、アランはハッと気が付いた。
「俺の特技は射撃じゃない 接近戦だ」アランはザ・ナイトを前へ駆けさせ、一気に間合いを詰めた。
「ゼロ距離射撃だ」ザ・ナイトはドラヘンリッターの鱗を着けたボディに銃口を肉迫させた。しかしその手首をドラヘンリッターは握ると上へと持ち上げて、ザ・ナイトのボディをドンと後ろに倒した。そして倒したザ・ナイトに自分の槍を突きつけた。
「まだ分からんのか?君の特技は銃撃か?剣術か?」竜騎士の最後の質問に対して、アランは倒れたままのザ・ナイト中で考えた。
「俺は 今まで剣の腕を磨いた 一振りで相手を倒す技だ 刃だ 一筋だ」アランはなにかに気づき、そして念じた。するとザ・ナイトの右手に握られた銃は東国に伝わる古代の武器、柳葉刀へと姿を変えた。そしてドラヘンリッターを蹴り後ろへ引かせると直ぐに起き上がる。更に一気に間合いをつめた。
「竜殺しの銃じゃなく 竜殺しの剣だ これが俺の戦い方だ」アランは叫び、竜殺しの剣を真下へと振り下ろした。太刀筋には牙を出し、口を大きく開けた炎竜が見える。
そして剣と竜の鱗が擦れ、摩擦で火花をちらした。アームノイド、ドラヘンリッターは大きなダメージを受けて剣に納まってしまった。
戦場から音が止み沈黙する。メカノイドに乗る騎士達一人ひとりから希望が消え失せたような感覚が読み取れた。
生身の状態で直立したまま動かない竜騎士の前で、アランはザ・ナイトを剣に納めて竜騎士と対面した。エミリ、ムサシ、シュウもアームノイドを剣に納めて掛けて来た。
「ムサシ どうする?」アランはムサシを見て言った。
「いや これは俺の勝負じゃない それに竜騎士は周りにいる騎士達から絶大な信頼を得ている この国は平和だ…俺の恨みで竜騎士を倒しても 国や民に絶望をもたらす事になる 俺がヒノクニで味わった思いはさせたくない」ムサシはカブトを刀におさめたまま言った。
彼の中で一つの気持ちの整理ができた様だった。
「竜騎士よ なぜ俺の国を襲った?父とあんたは友だったはずだ」ムサシは竜騎士に尋ねた。
「私が君の国と民を焼き払い 君の父に手を掛け 母君を死に追いやった その事実は変わらない ただ 今この世界に起きている混乱を収束させるには 私が動くしか無かったのだ 宰相は…」
「そこからはこのツークギアがお話します」一つのメカノイドが近づくと男が降りてきた。この戦場の案内人の騎士だった。
「宰相殿はクーデターを起こす前に 竜騎士様にその計画を知らせました もちろん竜騎士様は反対され クーデターへの参加を断りました しかし直ぐに別の使者と名乗るドクトル・ノヴァクがやって来ました 彼は疑似アームノイドを納めた3本の異端の剣を持ち 意思なき者も3名連れて来ました そして竜騎士様が動かぬのなら この意思なき者達を動かす と言い決断を迫ったのです」
うつむいていたムサシは顔を上げ、ツークギアを見上げた。
「そうです 宰相がクーデターを興したあの日 ドクトルが10体の疑似アームノイドを操り 宰相の計画を成功させた話は皆様もご存知ですな 竜騎士様はヒノクニで疑似アームノイドが暴れるのを回避し なるべく少ない犠牲をもって かの地に騎士達を進めたのです」
「その犠牲として俺の親を…」
ムサシは言葉をつまらせた。それを見つめたツークギアは同情した目でムサシを一瞬見たが、直ぐに感情を抑えて言った。
「残念ですが 主の敗北を騎士 いや武人達に見せることで 彼らに武器を下ろさせました つらいお話ですが 民の安全の為に自分の命を捧げる事も 武人の努めなのです」
「それと…病を負った将軍に 戦場で散る花道を 竜騎士様は添えたのですよ」
「父上…」ムサシはうつむきながら小さい声で言った。
「騎士の剣を持つ人でも十分に戦えない心身なのなら 暴走する疑似アームノイドは抑えられない」エミリはそう言おうとするが、口を閉じていた。
皆を見回すと、ツークギアは再び姿を消した。
直立不動だった竜騎士、ベイオール・ド・テシウスはムサシに歩み寄り頭を下げた。
「金剛武士の刀を継ぐムサシよ 私の命は君に預けよう」
無言でムサシは頷いてそれに応えた。彼はもう、竜騎士に刃を向けようとはしないだろう。
ガルスダットのストルジャー城ではふたつの人影が居た。王女マリオンと宰相ベルメッドだ。「王の目」で、アラン、エミリ、ムサシ、シュウ達が竜騎士と黒の台地で戦う姿を見守っていたのだ。女王マリオンは言った。
「宰相 若い騎士達は確実に 貴方が制圧した領土を奪還しています シスター・ミリアムも竜騎士ベイオール・ド・テシウスも もう貴方には従わないでしょう 貴方は追い詰められています」
「それはどうでしょう?ドクトルが疑似アームノイドを 解放されたアメルックに再び送り込めば また民は混乱すると思いますぞ」宰相は答えた。
「そうですね これから市民 世界の国民達が圧政に対して 故郷をどう守るか 試される時ですね」
女王マリオンの表情、ブルーとヘーゼルカラーの瞳は険しい。人々が力に怯え、再び自由をかえしてしまうのか、あるいは命をかけてでも自由を守るのか?彼女には分からなかった。
しかし彼女にもアラン、エミリ、ムサシ、シュウ達は一歩ずつ王都へ近づいているという希望があった。
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