女王の剣と旅の騎士

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第二話 南国の騎士たち

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第二話 南の国と騎士達

ユスター暦1485年 8月9日 7:00

「アラン 見て見て‼ 外の海キレイヨ~」アランの部屋のドアをエミリが叩く。
アランが眠い目をこすりながら船の甲板に出ると、海は真珠のように輝くターコイズブルーで彩られてどこまでも広がっていた。アラン、エミリ、ムサシ、シュウははじめて、美しい海というものを知った。太陽の光が透明な水面を反射し、時々見える海の底には色とりどりのサンゴ礁が広がり、不思議な色の熱帯魚が舞い踊る。



アラン達がビルジーの町を出てから約2日が経つ。ホライズン号は燃料効率を考えた速度でオセアン・パシフィコの海面を進み、ホリネス島に到着した。この島にはどこの陣営にも属さない中立国があり、王がいる。しかし国王も民も開放的であり、大陸からの商人達とは良好な関係を持つ。

アラン達を乗せたホライズン号はホリネス島の都市、大樹の都へ到着する。
「ここは安全な街よ 楽しんで来てね」シルフが直ぐに船室のハッチを開けると皆を送り出す。
オスカーは真っ先に下船し、4人を先導した。砂浜との境にある街はとても豊かだ。家族や若い男女が笑顔で過ごし、子供たちは浅瀬で楽しげに遊んでいる。
「世界に こんなにも平和な場所が あるなんてな~」シュウは両腕を伸ばして背伸びをすると大きく息を吸った。戦場を経験した直後の彼らには、心の洗濯になる。
「この海は 自然の美しさと調和の取れた都市計画の象徴です ここを訪れる人々にとってはきっと良い思い出の地となります」
オスカーも若い頃に滞在していた時期があるのだ。
「皆さま この商店に入りましょう」オスカーは洋服屋に入った。店内には明るい色の花柄模様のシャツが並んでいた。
「俺の国の着物みたいな ガラだな…」
ムサシはシャツを手に取りじっと見た。
「みんな このシャツに着替えて 街を楽しみましょう」ムサシの心が癒やされればと気を使い、エミリは明るく声をかけた。
「そうだな」シュウも早速、好きな彩りのシャツを探し始めた。シュウの楽しそうな姿と故郷の文化を連想させる衣服を見て、ムサシがの表情が柔らかくなり微笑んだ。
「買うのは良いけど オスカー お金持っているのか?」アランはオスカーの肩を指でつついて尋ねた。オスカーは剣を下げたベルトの内側に手を入れると、刻印の入った金貨をアランの目の前に出した。



「アラン様 世界で不動の価値を持つ財産は黄金です 私はイスカード家の金庫にあった黄金を 勝手ながら持ち出して これまで交渉材料に使っていたのです」
金貨の価値は若い騎士達の予想よりも高い。服を買いそれぞれカラフルなシャツを着て丈の短いパンツを履く。リゾート地に来たのだから、軍服で街を歩くと目立つし、何よりも騎士達には休息が必要だった。
「金貨の価値は高いですな 食事も摂れそうですぞ」オスカーが4人の目の前に立つと、彼もまた派手なシャツにハーフパンツ姿だ。更に花で繋がれたレイを首に下げていた。60歳に近い年齢だが、派手な姿もこの地では自然に見えた。

5人は砂浜にテーブルのあるレストランに入ると、そこには肉、魚、果物が綺麗に並べられておりバイキング形式で食べ放題だった。
オスカーは食べる前に「マハロ」と言った。現地で食事の前に言う言葉だ。
「葉っぱに 魚が包まっているぜ」アランもシュウも見たことのない食べ物を、競うようにたくさん食べる。
「透き通って キレイな飲み物も 飲みたいわ」エミリはトロピカルフルーツに目を輝かせていた。
「侘び寂びという食文化とはまるで違うが 美味しく頂きました ご馳走様でした」ムサシは手を合わせ、ヒノクニの作法で食べおわる。一行は南の島特有の料理を楽しむ。

食事が済んだあと5人が寛ぐ時間にシュウがアランに質問をした。
「なぁアラン お前の父ちゃんって最上級騎士だったんだろ 何で次男のお前が継いで 兄ちゃんは継がなかったんだ?」
「そりゃ 俺の兄さんは天才だったからな~」アランは自慢げに言う。大好きで尊敬する兄だった。
「俺の兄さんは 銃をはじめて持ったその日の夕方には 100㍍離れたターゲットを スコープ無しで撃ち抜いたんだ 本当に天才だよ」アランは右手で銃の形を作り、バンと撃つ仕草をした。
「私がはじめて銃を持った時なんて 重いし反動がキツいし 火が吹き出して…本当に怖かった その日に使いこなせるなんて ありえないわよ」エミリは4人の中では一番器用に物事をこなすが、ケインの能力に驚いた。
「俺はまだ 銃なんて持ったことがないけどな」剣一筋に生きるムサシにとっては、銃器は不必要な道具に過ぎない。遠い敵も気合いで倒すくらいの胆力がある。
「アングランテでは 騎士の家に生まれた子供は14歳になったら 王様から銃を授かる儀式があるんだ 普通は王様の前で皆が一斉に一発バーンって撃って終わりだ」アランは再び右手を銃に見立てて発砲する動作を取ると両手を広げて終了する仕草をした。
「けどその日だけ 王様は一人ひとりの訓練を見て回ったんだってさ 王様がたまたま最後に見た少年が兄さんで そのセンスを見込まれたんだ」
アランの緑色の瞳は見たことのない過去の出来事を、実際に見てきたように話す。



「腕もだけど 王様の目に入るタイミングが合うって 強運よね」確かにケインには才能も運もある。しかしそれ以上に努力もしてきた。
「そうだよな~その後兄さんは 射撃の才能をグングン伸ばして 1年後に近衛騎士の剣を授かったんだ」アランにとって、ケインは到底届かないくらいの存在だった。
「1年って まだ15歳だろ?」シュウは更に驚いた。
「兄さんが近衛騎士団を任された時は 俺の父さんは生きていたから 最上級騎士の剣は 俺が受継ぐ事になった もっと才能がある人は他にも居ると思うけどさ…世襲とか面倒くさいよな」アランには自分の受け継いだ使命が重かった。
「俺はその生まれに誇りを持って それに見合う努力をしてきたぞ」ムサシの刀は世襲が基本だが、実質的にはアングランテの王ではない存在が任命している。アングランテの王もそれを認めている。
「アラン様も天才なのです 確かに射撃であればケイン様はアラン様より上です しかしケイン様とアラン様が素手で戦ったら アラン様が勝つでしょうな」オスカーはアランの才能を一番良く知っている。
「素手でか?」ムサシは急に身を乗り出した。
「もちろんケイン様とアラン様が喧嘩をなさったことは 一度もありません 射撃の天才であるケイン様は…そうですな 空気の流れを読み取ることが上手でした アラン様は空気と交わることが上手だったのです」
空気の流れを読み取る。つまり風の動き、湿度、温度、空間に存在する要素を目だけでなく、研ぎ澄まされた感性で読み取るのだ。しかし『空気と交わる』という意味がシュウには分からなかった。
「空気と交わる そんな感性あるの?」シュウはイメージを把握出来ていないが、ムサシは理解しているように頷いていた。
「シュウ様 何故貴方様は 影の騎士を受け継いだのか 分かりますか?」オスカーはシュウの目をじっと見つめた。
「俺はヒノクニのお方にも アングランテの王様に会ったことがないから よく分からないけど 力があるとは聞かされた」目を合わされたシュウはてれるように言った。
「影の騎士様は 恐らくシュウ様が他の子供たちと遊ぶ時に 足の運びも手の動きも 重心の移動も 空気との交わりとして把握しながら 才能を知ったのだと思いますぞ」オスカーは説明をした。しかしその後の言葉は口にしていない。
『生まれてもいないシュウの才能を ずっと前に予言していた存在』の話だ。
「私の場合 伯父様から受け継いだけど 剣を握った時にハイラム王からのメッセージが聞こえたわ 国が乱れる時は必ず立ち上がりなさいって」
まだまだ開花していない才能、そして重い責任を理解しきれていない4人だった。

ホライズン号に戻る時、積み込む燃料や食料の手配をしたが、こちらは別の金貨が複数必要だった。
「この街を たった1日で出るのは 勿体ないな~」エミリがつぶやく。
「世界を変えた後に ゆっくり滞在すれば良いじゃないか」シュウは仲間たちの気持ちをまとめた。
「活気のある街は 昔も今も変わりません この国の王が宰相のクーデターの後も 優れた外交をしているのでしょうな」遠くなる街を見つめながらオスカーは4人に言う。
「私も船のメンテナンスを 確りしたわ 後は海を一気に渡るだけ」シルフがホライズン号を加速させ、ホリネス島を後にした。








    
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