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第一話 旅の仲間と竜の遣い
しおりを挟むユスター暦1485年 8月6日 9:00
「アラン様 今日こそ 真剣勝負をなさいませ」オスカーの声が聞こえるが、熟睡をしていたアランにはただの音であり、意思を持った声には聞こえていない。
「失礼…」オスカーはアランの部屋に入って来た。
古代遺跡セレウキア…
宰相のクーデターから3年の月日が経った。生き残った近衛騎士団の一部と市民達は、世界を渡り歩いてきたオスカーの導きで、アトランゼ海からアフルガ大陸を回り、オージョウ大陸に渡った。上陸後、現地人から神の台地と呼ばれるリアロックに入る。そこには5000年以上前に人類が神と交信する場として築いた、セレウキアという古代遺跡がある。しかし産業革命を経験した人類にとって、忘れられた場所となっていた。
子供だったアランは15歳になるが、激戦を生き残った人々は、アランのことを「兄や王女を救えなかった」という汚名を決して口にはしておらず、むしろ「市民を見捨てなかった若き騎士」と称えている。しかし彼は目標であった兄が行方知れずになり、目標がないからか勤勉さを怠っている。
「いや…俺は戦争が嫌いなんだよ 平和だ 平和主義‼」アランはベッドから起き上がらない。
「ケイン様はアラン様と同じ15歳で 近衛騎士の剣を授かりましたぞ 今こそアラン様も 才能を開花させる時です」オスカーはアランの手を握り、無理矢理起こした。アランの顔はまだ眠そうだった。
アランは渋々と服を着替えて腰に剣をさした。最上級騎士の剣だ。セレウキアの南端にアランとアランの母、オスカーが住むイスカードの住居が在る。そこにはとても広い空き地があり、端には1機のメカノイドが置いてある。オスカーのメカノイドだ。オスカーは空き地の中央にアランを立たせると、自分のメカノイドを起動させた。
「アラン様 行きますぞ」オスカーのメカノイドは生身のアランに向けて剣を振り下ろした。
「シクロタプス」アランはめんどくさそうに言うと、アームノイドの火柱が生じた。女王となったマリオンから与えられた力、最上級騎士のザ・ナイトが現れる。オスカーには近衛騎士に負けないくらいの実力があるが、彼の一振りは容易く回避された。
「よし 勝負アリ」
アランはアームノイドを剣に収めて、直ぐに帰ろうとする。
「アラン様 貴方はクーデターの前に たった12歳で既に 四大元素を操る剣技を付けた 天才なのですぞ」
後を追うオスカー、そんな彼の背後から声がした。
「すいませーん 入っても良いですか?」若い女性の声だ。オスカーが振り向くと、アランと同じくらいの年頃の男女が3人立っていた。腰に剣を下げている。
「若い方達 今は騎士様が特訓されているのです 危ないから来るのは後になさい」オスカーは両手のひらを3人に向けて止める仕草をする。
「頼もう」3人の中で一番背の高い少年、黒く鋭いが危険は感じさせない目を持ち、長い髪を後ろで束ねた少年が大きな東洋の剣の鞘を左手で握り持ち上げた。
「その剣は?」オスカーは目を大きくして少年の剣を見つめた後、3人の顔を一人ひとりじっと見た。
「貴方達は騎士様?」オスカーは恐る恐る訪ねた。
「そう 俺達も騎士ですけど…どうです 最上級騎士を継承する アラン・イスカード君と 力比べをするとか?」もう一人の少年が言った。間違いない、3人とも王より与えられた神の剣を持っている。
「たとえ才能があっても 使わなくっちゃ0点でしょ?」少女は首を傾げ、微笑みながらオスカーを見た。
「アランさま~大変です 騎士が 神の剣を持つ3人の騎士が 襲ってきました」既にアランは自室に戻り、ベッドに寝転んでしまっていた。
「よいしょ‼ 貴方が最上級騎士のアラン・イスカードね」少女が微笑みながら眠そうな顔のアランをのぞき込んだ。顔は笑っているが、心の中には別の感情がありそうで危険な雰囲気を持つ。
「先ずは自己紹介ね 私は天空騎士のエミリ エミリ・ランバートよ」
「俺はムサシ・ホクト 金剛武士だ」
「俺様は影の騎士を受け継いだ男の シュウ・セルバンテスだ」
3人は剣を抜き、ベッドに座っているアランの眼前に剣先を突き付けた。
「い~っ」古代遺跡に隠れ住み、ただ毎日を無駄に過ごしていたアランは、思わぬ客人に驚いた。
「アラン様 本気を出す時が ついに来ましたな」オスカーは得意げに言う。
4人の騎士とオスカーは、広場に向かった。
「この広さでアームノイドが暴れたら 周囲の人達に迷惑がかかる エミリ シュウ シールドで周りを囲ってくれ」
ムサシと名乗る少年が刀を抜いた。
「行くぞ アラン・イスカード シクロタプス‼」勇ましい声とともにアームノイドの火柱が降りる。ムサシは黒く長い髪を揺らしながら、白い球体に包まれる。そのまま上昇すると球体から腕、脚が現れ装甲が装着される。金剛武士のアームノイド、カブトだ。
「シ …シクロタプス‼」状況がまだ把握出来ていないアランは、慌てて剣を抜く。
2人のアームノイドが現れた後、エミリと名乗る少女とシュウと名乗る少年も剣を抜き「シクロタプス」と唱えた。
広場には神が作り、王が与えた騎士の力、アームノイドが4騎も現れた。
その荘厳さにオスカーは感動した。
「今こそ 今こそ 国を奪った宰相共と戦える」
王都ガルスダット…
「あの様な未開の地に 最上級騎士の少年が隠れ住んでいたなんて?」女性の声だ。
「まさに驚きですな 王の目を持つ陛下も 世界中に部下を持つ私も 見抜けぬのは…」
思わぬ事態を楽しむ様な男の声がする。二人は女王として戴冠式を終えたマリオンと、クーデターの首謀者である宰相ベルメッドだ。
二人が居るストルジャー城の王の間には、オージョウ大陸のリアロックの光景が上空から映し出されていた。
時空を司る王の剣には「王の目」と呼ばれ、アームノイドの火柱よりもずっと高い位置から世界を見渡す能力がある。しかしその力を有する者は所詮は人間であり、全ての時間や幾多の世界を知るどころか自分の居る世界でさえ見えないところがある。
「父 ハイラム10世は私に王の剣を渡す前に 天空の騎士の世代交代を済ませていました ヒノクニの刀や影の騎士の剣が行く先も 国王は予言していたようですね 3年経った今 謎の船が彼ら乗せて 最上級騎士の場所まで 辿り着きました」女王マリオンは、この事実を宰相が知っていたのかが気になる。
「私は世界統一を目指す宰相です しかし私にも 彼ら動きは予測が付きません 今のところ あの船には陛下も私も知らない何かがある 興味深い話ではないですか」ベルメッドは未知の事態をも対応できる力がある。
古代都市セレウキア…
「俺は手加減をしない 本気を出せ」ムサシが乗るカブトは、右手に太刀を左手は逆手に持たせた短刀を具現化させた。2本とも小刻みに震え甲高い音を出す。高振動を持つ刃の切れ味は普通の刃物の切れ味よりも遥かに高い。
「に 二刀流? しかも2本とも金剛武士の刀とは違う刀を具現化とは…ムサシという騎士様 武人は 若いが相当な腕を持っておられる」
オスカーは驚く。
神の剣を授かる者でも、練度がなければ自分の持つ剣をただ大きくした物しか具現化出来ない。それ以外の武器を具現化させるのには、少し努力がいるのだ。
カブトは右手の太刀を振り上げると、ザ・ナイトとの間合いを詰めた。直ぐに太刀を振り下ろすが、アランも直ぐに最上級騎士の剣ではない、別の武器のライトニングソードを具現化させた。これは彼が幼い頃に、最初に使えるようになった剣だ。
ライトニングソードがカブトの太刀を受け止めるが、カブトは左手に持つ短刀でザ・ナイトのボディに斬り付けた。軽くボディを擦られただけに見えるが、高振動の刃だ。ザ・ナイトの装甲がえぐれてしまう。これがアランにとっては、初めて受けたダメージだ。
「やられた‼」アラン自身も初めて悔しさを感じた。しかし直ぐに間合いを取り呼吸を整えた。そしてライトニングソードを上段に構えると、剣は電撃を激しく光らせた。
「いいぞ 本気になったな もっと見せろ」ムサシのカブトは両手にあった剣を納めると、今度は太く黒い刀を具現化させた。
「磁鉄鉱の刀だ 間合いは関係ないぜ」カブトが磁鉄鉱の刀を振り下ろすと、地面がひび割れて亀裂はザ・ナイトの足元まで届いた。
「おいおい ムサシ 遺跡が壊れるぞ」シュウと名乗る少年の乗るアームノイドがスピーカーを使って注意した。
バランスを崩すザ・ナイトに対して、再び間合いを詰めたカブトは左からボディを斬りつけて「胴抜き」をしようとした。しかしライトニングソードがそれを許さなかった。電流が磁鉄鉱の刀に及び、強力な磁場を作り砂鉄がふたつのアームノイドに集まったのだ。その為に足元が固まり、ふたつとも動きは取れない。
しかしアランはザ・ナイトの剣を黒潮の剣に変えて自分の足元に突き刺した。すると黒潮の剣から出てくる塩水で砂鉄が錆びつき、短時間で砂鉄を無力化させると飛び上がり、そのままカブトに斬り付けた。大きな衝撃がダメージとして受けたカブトは、アームノイドの形を維持できずに金剛武士の刀の中に納まってしまった。刀を両手に持った状態で地面を転がったムサシ。アランが勝利した。
「アラン様 お見事です 初勝利ですぞ」オスカーは両手を挙げて喜んだ。
「お前の実力は分かった 俺の負けだ」ムサシは立ち上がると、アランのザ・ナイトを見上げて言った。アランも直ぐに自分のアームノイドを剣に収めて、地面に着地した。
「いやー 偶然だよ 君のほうが強いよ」アランはムサシに勝ちを譲る。
「強力な磁場が生まれたのは お互いに読めない現象だった その中でお前は素早く対応して このカブトに一撃を食らわせた 間違いなく お前の勝ちだ」アランとムサシは目を合わせると笑いあい、お互いの肩を叩いた。
「一段落終わりね」エミリとシュウもアームノイドを剣に収めて集まった。
「騎士の皆様 本題に入りましょう」
4人に駆けつけたオスカーが、話の本筋に踏み込んだ。
エミリ、ムサシ、シュウがお互いに顔を合わせた後、エミリが話し始めた。
「3年前 宰相ベルメッドがクーデターを起こした後 世界の市民達は 圧政に苦しむことになったわ」
アランもオスカーも世界の動きから隔離されていたため、全く知らない情報だった。
「ベルメッドは アングランテのマリオン女王を影で操り 治安維持のために 市民から言葉の自由も行動の自由も奪ったわ 与えられた仕事を黙々として 家に帰って食事をして眠る 感情を出したら直ぐに憲兵隊が駆けつけるの だから皆はお人形ってわけ」
アランもオスカーも問題はアングランテだけでなく、世界の状態が悪化していることに驚いた。
「弾圧から逃れるために アメルック大陸に開拓に出た俺達にも あいつらは追いかけて来た 憲兵隊のメカノイドがうじゃうじゃ出てきて 農地も牧場もめちゃくちゃだ 橋だって壊しちまう 本当に最悪な連中だ」シュウは強い嫌悪を持って言った。
「それぞれ 国を追われた俺達は 宰相の騎士達と 戦う決心をした」ムサシは左手で自分の刀の鞘をグッと握りしめた。。
「ベルメッドは宰相の剣を持ち 竜騎士団 聖騎士団が味方についた これで神の剣は3本」シュウが指を3本にする。
「こっ近衛騎士団 近衛騎士だった俺の兄さんは 今どうしてんだよ?」アランは恐れつつ尋ねた。
「残念な話だけど…貴方のお兄さん 近衛騎士ケインさんは 宰相の配下よ」エミリは重い口調で告げた。
「兄さんが あの宰相に負けたのか?あんな奴の 手下になったってのか?そんな馬鹿なことあるか‼」
強くて頭が良くて、いつも自分に優しかった兄が、悪の手下になる現実をアランは認めなかった。
「落ち着いて マリオン様は女王のままよ ケインさんは女王を守るために あの男の下に着いているのかも知れないわ 分からないけど 王を守るのが近衛騎士の役目だから…」
エミリは声を低くして続けた。
「貴方のお兄さんを止められるのは 弟である貴方だけよ」
ムサシとシュウがアランを見るが、彼はまだ心の整理がつかない。
「お前が俺達に加われば こちらは神の剣が4本 向こうも宰相 竜騎士 聖騎士 そして近衛騎士で4本 互角に戦える」ムサシは右手を握った。
「俺達は宰相を倒す その為にお前と手を組みたい 分かるな」シュウは自分の右手で、アランの左肩をポンと叩いた。
「一晩考えな」シュウはそのままアランの肩を軽く揺すると手を離して背中を向けた。エミリとムサシもシュウと一緒になり、広場を出ようと歩き出した。
「一晩だと?今直ぐ出てやる アングランテに帰って 兄さんに会う」まだ感情が納まらないアランの両手を、オスカーは正面から握り説き伏せた。
「真偽をケイン様に会って 確かめましょう それが民のためならば 尚の事 3人の騎士様と共に 立ち上がりましょうぞ」
この日アランはリアロックから旅立ち、アングランテに向かう決意をした。
その夜、エミリ、ムサシ、シュウはアランの住む家に泊まることにした。
「お話は分かりました アランも最高位騎士であったお父様の名に恥じぬ 様 頑張るのですよ」アランの母、カトリーヌはアラン、エミリ、ムサシ、シュウに優しく接した。
「アランのお母さん 有難うございます 俺達絶対に 世界を変えます」軽い口調だったが、シュウは力強く応えた。
翌日…
出発の日、アランの母だけでなく遺跡の中に隠れ住んでいた人びとが、アランの出発に立ち会った。遺跡を出た場所に一隻の空中艇が停まっていた。鏡のように銀色に光る船体だ。
「俺達の船はこれ ホライズン号って言うんだ」シュウが自慢げに言う。
「この船は凄いのよ 飛行速度も高度も世界一」エミリも上々な言葉で説明する。
「その上 頼りになるナビゲーターが居る シルフ出てきてくれ」ムサシが船に向かって声を掛けると、船の出入り口に13歳程のアラン達より少し年下のような見た目の少女が現れた。
「はじめまして 私はシルフ ご覧の通り この姿はホログラムで 本体はこの船よ だからね この船の事は 何でも任せて」ホログラムのシルフが手招きをするまま、アラン、エミリ、ムサシ、シュウが乗船し船内の操舵室にある座席に座った。
「旅の準備は出来たけど…何でオスカーが 俺の隣りに居るんだ?」
アランの隣に何故かオスカーが座っている。実はオスカーもアランと一緒に旅に出るため、こっそり旅支度をしていたのだ。
「私にはアラン様 エミリ様 ムサシ様 シュウ様を お支えする義務があります アラン様 カトリーヌ様は騎士の妻として 母として 2人の大事な方を失ってしまった事に 心を痛めていらっしゃいます アラン様は必ずお母様をお迎えなさって下さい」オスカーはこれから始まる大冒険の危険さを教えている。
ホライズン号はリアロックを出ると、高度50㍍でオージョウ大陸の広大な原野を飛ぶ。
「ホライズン号の速度は 海上だと170ノット 陸上だと時速700kmで滑空するわ」エミリがホライズン号の舵を手放しにしながら説明した。操縦も索敵も、船内管理も全てシルフに任せてある。
「空だとどのくらいの速さなんだ?」アランは操舵室の窓を覗き込み、尋ねた。
「この船の先端は鋭いから 大気の流れは良い 時速1400kmだから 音速は軽く超えられるぜ」シュウは船の外側を描くように両手を振った。
「それも全て シルフの腕だ」ムサシは短く話す。
「しかし世界を旅して 現地人とワシだけしか知らないリアロックの遺跡にワシ等が居るがよく分かったな」
オスカーは腕を組む。
「シルフはね 何でもお見通しなの 私達が戦争で国を追われた時 私 ムサシ シュウを助けてくれたのは シルフよ 理由は教えてくれないけど…ひょっとしたら王様の目よりも 視野が広いのかもね でしょ?」エミリは真実を聞きたがるが
「私はほら…火事があると駆けつける 消防艇だったから 戦争だって燃えるじゃない ブラックナイトちゃんとか コロンビアさんとか うさぎちゃんとかが 教えてくれるし」シルフは笑顔で話ながら言葉を濁した。
「これからの進路は?」アランがシルフに尋ねると、シルフは世界地図を開く。大きなオージョウ大陸の上にホライズン号の現在位置、そして旅の準備をする港町のビルジーへの直線的な矢印が表示された。
「まずはビルジーで燃料補給と飲食物の確保 そして海を渡ってホリネス島でいったん休憩 そのあとはアメルック大陸に上陸して宰相の手先ドクトル・ノヴァクの群団を叩く」シュウが右手の拳を左手で受け止めた。
「そして さらに海を越えて アングランテの王都ガルスダットに降下する 宰相どもを追い出して 女王様を救出するの もちろんアランのお兄さんとも会えるわ」エミリは強い眼差しでアランノの目を見た。戦う覚悟を求めているのだ。
船旅を楽しむ時間はその後直ぐに終わってしまった。ホライズン号はゆっくり速度を落とすと、そのまま地上スレスレで留まった。
「どうしたの?シルフ まだビルジーまでは 距離があるわよ」操縦席に座るエミリが声を掛ける。
「騎士団がビルジーに上陸しているわ 数は4000の騎士 竜騎士団よ」シルフが情報をスクリーンに映した。
ビルジーの町を上空から撮っている映像には、緑色のメカノイドが大勢のメカノイドを連れて上陸している。赤い布地に黄色い縁のあるマントがユラユラと海風に揺られている。竜騎士団の旗だ。
「あいつらぁ‼」突然ムサシが怒り始めた。事情を知らないアランとオスカーは驚く。
「ムサシ 落ち着いて‼せっかくシルフが 竜騎士団には感知できない距離で船を止めているんだから 先ずは落ち着いて…作戦を立てようよ ねぇ」船外に出て刀を振り回しそうなムサシを、懸命にエミリは止めている。
「あいつの国はさ 竜騎士団に滅ぼされたんだと 昔の事は言わないけど とにかく憎いらしいぜ」シュウがアランとオスカーに話した。
「国か…そもそもムサシの国って どんな国なんだ?ヒノクニって国が東洋にある 位しか分からないんだよ」
アランの母国とムサシのヒノクニとでは、距離が離れていて、文化、人種、信仰、社会制度も全く違う。
アランの教育では宇宙のはじまりを具現化したものが王の剣で、それを持つアングランテ王国が絶対王政を世界に強いていると言われている。ヒノクニとの力関係自体が、アランには理解出来ない。アランの表情を見てシルフがアランの前に現れた。
「アングランテ王国が この世界で一番の強国である事は間違いないわ けどヒノクニは同盟国で属国ではないの」アランはますます首を傾げてオスカーの顔を見る。世界をまわったオスカーもこの話は上手く伝えきれていない様子だった。
「彼等には アングランテにある王の剣とは別の力を持つ存在が居て 元々金剛武士はその守護者なの」
シルフにはこの世界の情報が、全て集まっているとアランは聞かされていたが、その全てを知るには時間がかかる。
「アラン様 この世に在る力には 捉え方が多種多様で一つでない 私にはそうお伝えするしかありません」
オスカーは話をまとめた。まだ世界を真っ直ぐにしか、見ることしか出来ないアランだが怒るムサシが心配だ。
ムサシの激昂をエミリだけでは抑えられず、シュウも止めに入っている。
「何とかしなきゃな」
アランは立ち上がり船内のスクリーンに近づく。
「俺達が大陸を出て海を渡る前に あのメカノイドの群れを叩く 先ずはそうだな ムサシ」アランは気を引きしめて、やや厳しさのある声でムサシに言った。
するとムサシがスクリーンの方を向き、力を抜いた。エミリとシュウもホッとした顔をして力を抜く。
「シルフ メカノイドは飛べないよな」アランはシルフのホログラムに向かって話しかけた。
「そうね…けどアームノイドも飛べるのは エミリのエンジェルだけよ」シルフは困った顔で応える。
「だからさ エミリは出来るだけ高く飛んで 竜騎士団の後ろを取る 俺達はホライズン号で上空から近付いて 一気に散開して メカノイドの頭を一番に狙う どうだ?」アランはムサシの目を見て言った。
「いいだろう だが頭を殺るのは俺だ それで良いなら お前の話に乗る」ムサシもスクリーンに近づいて、軍団を率いているメカノイドを手のひらで叩いた。
作戦は直ぐにはじめられた。セレウキアの遺跡を出発して、もう午後を回っている。日が沈む前に戦いを終わらせて、ビルジーに入る。今日はあの町で一泊になりそうだった。
「シクロタプス」エミリはアームノイド、エンジェル呼び、中に入る。竜騎士団との距離は十分にあり、彼らには火柱も音も分からない。
エンジェルは空高く飛ぶと見えなくなった。町を上から見ている船内の映像には、エンジェルが亜音速で竜騎士団の後ろに回り込んで行くのが分かる。
「行くぞ‼」アランはエミリの居ない操縦席を空にしたまま、ホライズン号に号令をかけた。
ホライズン号はメカノイドの攻撃が届かない高さで近付くと、ムサシを中心に、ザ・ナイトは右、左はシュウに分かれて降下した。
「シクロタプス‼」3人は上空でアームノイドを起動させた。三方から同時にアームノイドが現れのに、竜騎士団は一切攻撃して来なかった。3騎のアームノイドが着地したとき、竜騎士団は一斉にメカノイドの動力を起動させた。まだ攻撃はない。ムサシのカブト、アランのザ・ナイト、シュウのシノビは警戒しつつ、メカノイドにジリジリと近づいていった。
竜騎士団の陣…
「来たぞ 全員のエネルギーを我に送れ 3騎の真ん中は あのカブトだ 我との一騎打ちを臨んでいる」中心に居たメカノイドの男が司令を送ると、1つのメカノイドにエネルギーが集中していった。
「こんな力がメカノイドにあるのか?周りのメカノイド達から エネルギーがどんどん集まっている」アランは驚く。しかしホライズン号に控えていたオスカーから、3人に通信があった。
「あれはメカノイドですが 上級メカノイドです 仲間のメカノイドのエネルギーを集めて戦います」
「あんな小さな器に3000機のエネルギー入れたら破裂するだろぉ??」シュウはその無謀さも危険さも分かる。
「そうです 暴発しそうな状態ですが 技と腕さえあれば 火力はアームノイドど互角 お気を付けなさい」
オスカーは忠告した。
「面白い…」ムサシが操縦桿を握り直すと、赤熱する刀身を持つ刀を具現化させた。火の属性を持つ刀がエネルギーが集まる上級メカノイドへ斬り付けて、少しでも火花が生じたら辺り一面は火の海だ。
ムサシの操るカブトと強力なエネルギーを得たメカノイドが歩み寄る。その距離は近い。
「我の名はルトプス 竜騎士様の手足となる男だ 金剛武士よ この場は 我と貴公との一騎打ちとしたい 我を倒せば部下は軍を引く 民には一切手出しはせぬ」
「いいだろう お前等をいっぺんに焼き払うつもりだったが 一騎打ちだな…民にもお前の部下にも危害は加えない」カブトは水属性の刀、氷刃を具現化させた。
「ルトプス?」オスカーが大きな声を出した。
「知り合いか?」アランが尋ねるとオスカーが応えた。
「はい 私が世界を旅していた頃 東洋で出合った剣士の名が ルトプスという男でした」
「エミリ シュウ この戦いはムサシの好きにさせよう しかし市民と残りの騎士達には 被害を与えたくない」
「分かったわ なら私も隠れる必要は
ないわね」エンジェルは竜騎士団の後ろに、音もせず上空から舞い降りた。
エンジェルに背後を取られた竜騎士団のメカノイド達だったが、微動たりともしない。統率の取れた部隊だ。
「エミリ シュウ 俺とムサシが戦ったときみたいに シールドを展開出来るな 頼む」アランは指示を出した。
「あんたは?」エンジェルの両手は、既にシールドを展開するための構えを取っている。
「俺はムサシが暴走した時に備える」
「戦えない奴には 手を挙げる男じゃないと想うけどな~」シノビもシールドを作る準備を始めた。
「そうか それでも立会人は要るよな」アランはザ・ナイトをアウトレンジで向き合う2人の騎士の間に立つ。音は一切しない。ルトプスを知るオスカーは緊張する。
「はじめ‼」アランは声を掛けると直ぐに後ろへ下がる。先ず初めに攻撃をしたのは上級メカノイドの方だ、バズーカ砲を構えると強力な熱線を発射した。強力な光と熱がザ・ナイトの目の前を通過する。その熱はコックピットまで伝わりそうなくらいに強い。
「いきなりかよ!」シノビのシールドに熱線が命中すると、シノビの両腕に強い振動と反動が起きる。
カブトは即座に右に避けたが、反撃はしない。踏み込むタイミングを見ているのだ。
ルトプスの上級メカノイドはすでに二発目の準備に入っている。エネルギーがルトプスの持つバズーカに集まり、そのピークに達した時、二発目の光線が走る。カブトは背を低くして光線の下を潜るように突進、ルトプスに肉薄した。そして氷刃による斬撃がルトプスのメカノイドに襲いかかる。とっさにルトプスは自機の左腕を犠牲にして、カブトの攻撃から逃れる。
左腕が凍結したルトプスのメカノイドだったが、ルトプスの闘志は変わらない。右手に握っていたバズーカをカブトに投げつけると、そのバズーカへ雷撃を誘導させて爆発を起こす。瞬時に取った行動とその効果は熟練度の高い騎士ならではであり、神の剣を与えられたムサシにも予測は出来なかった。
カブトの装甲が焼けてダメージを受ける。アームノイドは自己修復が出来るが、メカノイドはただの機械だ。左腕は凍結したままだった。
「次はどうする?竜騎士の手下よ」ムサシは挑発をした。左腕は氷付き、武器も失ったルトプスのメカノイドだったが、奥の手があった。ルトプスのメカノイドの胸部のハッチが左右に開くと、エネルギーの球体が現れてカブトへ飛び出した。カブトは氷刃でエネルギーを丸ごと凍結させると、そのままルトプスのメカノイドの開いた胸部を斬り付けた。
「俺の勝ちだ」ムサシは誇らしげに言うと、自らのアームノイドであるカブトを刀に収めた。
「スゲェ ムサシのカブトって シールドも使わずに 戦いきったぞ」アランは初めて剣を交えた相手の力量を改めて知り驚いた。
「金剛武士にはシールドはないんだ 避けるか刀で受け止めるかだけだ 俺は二回も喰らったけどな…」
彼の後方でシールドを展開していたシノビには、ルトプスの光線が二度も命中したためシュウは精神力を消耗してしまった。
凍り付いたメカノイドの中でルトプスの体も、低体温症を起こした。オスカーがムサシの目の前を通り過ぎ、ルトプスの体を引きずり出した。
「ルトプス 分かるか 俺だ オスカーだよ 今すぐに温めてやるからな」
オスカーはルトプスを担ぎ、ホライズン号に向かう。しかしルトプスはオスカーの足を止めた。
「オスカー こんな所でそなたと会うとは 皮肉だな 竜騎士様に仕える我と 若い騎士達に仕えるそなた…」
近づくアラン、エミリ、シュウだが、ムサシは離れた所で、厳しい表情をしながら彼らを見ていた。
「我は お前たちが世界を変える力を持つか見極める為に 来たのだ」
ルトプスはアランを見つめると右手を差し出した。手のひらには小瓶があった。その中には、見たこともない銃が沈んでいる。
「貴公が最上級騎士か…今の貴公の実力では 竜騎士様の足元にも及ばぬ 竜騎士様は 竜殺しの銃を使いこなせるまでは来るな と仰った 励むがいい」アランは言われるがまま小瓶を受け取る。
「竜殺しだと ならば奴は何故それを 俺に渡さん‼」離れたところからムサシが怒鳴るが、その声はもうルトプスには聞こえなかった。助からないくらいに、衰弱しているのだ。
「武人が戦場で敗北した時 それは死である 戦場で戦った事のないお前達は それを見届ける必要がある」
日が沈む時、ルトプスは静かに息を引き取った。
ルトプスの亡骸を持ちながら、竜騎士団は戦場から撤退していった。
「アラン エミリ 俺達は町の宿で寝よう オスカー あんたもここを離れて 町で泊まってくれ…シルフは ムサシを頼む」
シュウはアランとエミリの肩をポンポンと軽く叩き、ビルジーの町へ歩いて行った。アラン達も後を追う。
「どうする?」
アランは道中で、ルトプスから譲り受けた小瓶をシュウに見せた。
「そいつは お前が持っておけ 間違ってもムサシに渡すなよ あいつが傷つくからな」シュウは誰よりも仲間思いだ。
「けど…」
「竜騎士が 何でその銃をムサシでなく アンタに渡したのか 分からないけど 少なくともムサシがアンタに 辛く当たることはないわ 今はそっとしてあげよう」エミリもシュウもムサシの過去は分からないが、人柄は信頼はしている。
誰もいなくなった戦場で、ムサシは一人寝転んだ。ホライズン号にも入る気はない。シルフは船の入口で心配そうに眺めていた。
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そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。
明日は来る
誰もが、そう思っていた。
ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。
風は時の流れに身を任せていた。
時は風の音の中に流れていた。
空は青く、どこまでも広かった。
それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで
世界が滅ぶのは、運命だった。
それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。
未来。
——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。
けれども、その「時間」は来なかった。
秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。
明日へと流れる「空」を、越えて。
あの日から、決して止むことがない雨が降った。
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。
その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。
明けることのない夜を、もたらしたのだ。
もう、空を飛ぶ鳥はいない。
翼を広げられる場所はない。
「未来」は、手の届かないところまで消え去った。
ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。
…けれども「今日」は、まだ残されていた。
それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。
1995年、——1月。
世界の運命が揺らいだ、あの場所で。
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