上 下
1 / 2

プロローグ 貿易港

しおりを挟む
宇宙暦0079年11月05日 4時00分

旧サンクトペテルブルグ アルハンゲリスク港…

「少佐、動力炉は3つです」暗闇で風を切る音を抑えながら何かが潜んでいる。複座型のホバークラフト、ファンファンだ。

アルハンゲリスク港にはドヴィナ川という大きな川があり、その河口に3年程前に閉鎖された工場がある。河口から閉鎖された工場を見つめているのは1機だけではない。他の8機は水面に着水して指令を待っている。

熱反応が表示されたモニターを見つめながら、連邦の若い士官が報告した。

「ザクか?」少佐と呼ばれている女性、イリーナ・スヴェトロワはヘッドホンを押さえながら、モニターの士官に尋ねた。

「はい。核融合炉の熱量から、ザクと思われます」3つの融合炉は色も数字も同じだ。

「アルハンゲリスク港が連邦軍の手に落ちているとも知らずに、呑気なものだ。まぁ良い…オデッサ作戦がバレる前に、口封じをしなくてはな」スヴェトロワ少佐にとって、サンクトペテルブルクは祖父の故郷だった。士官学校を卒業した時、軍人になる事を反対していた祖父と、この河口で和解した思い出の場所だ。ジオンへの憎しみは強い。

「ファンファン部隊は上昇。工場へミサイル攻撃をする。工場の瓦礫で動けなくなれば、モビルスーツは大きな的に過ぎない。地上部隊はザクのコックピットを狙え。ザクを3つ捕獲すれば、作戦成功の前祝いになる」オデッサ作戦の時代は連邦軍にはジムは殆ど配備されていなかった。損傷を最小限にして、ザクを奪えばそれを戦力へと変えられる。そのため、傷を付けて良いのはパイロットだけだ。

アルハンゲリスク港上空30000メートル…

港、河口、工場を全て見つめる目があった。ジオン軍の偵察機ルッグンだ。

「こちらリード、61式戦車が朝市準備のドサクサで、20両も陸に上げられましたよ。港の道路を爆撃しますか?」リード(読み取り)と名乗る男は明るい口調で敵の動きを報告している。

ジェット戦闘機が通常任務で飛ぶ高度は15000メートル程度だ。このルッグンはその倍の高さを飛んでいるため連邦軍には気づかれないが、ジェット機が安定して飛び続ける高さではない。パイロットの技術が優れているのだ。

「いや、あちらは隠密作戦のつもりだろう。我々も本隊が展開する前に撤退する。リードはそのまま観察を続けてくれ。ゴースト、クローク、準備は良いか?」ジオン軍モビルスーツ隊の隊長と思われる若い男はコックピットの加速器、モニター、武器システムのスイッチをオンにした。

「ゴースト了解」生真面目そうだが安心感のある男性の声がする。

ゴーストと名乗る男の名前はモクテスマ・アカト・トラカエ中尉だ。彼は陸戦型ザクの腕を上げて、マゼラトップ砲を工場の裏口に向けた。裏口は川から荷物を出し入れする為に設けられている。

「クローク了解。隊長ほど速度は出せませんが、大丈夫です」クローク(隠れ蓑)と名乗る若い女性、ソフィア・オルガス少尉もモビルスーツの操縦桿を握り応答した。彼女の乗るモビルスーツはザクではない。十字に動くモノアイを持つドム、プロトタイプドムだ。

「ルナイブス、行動開始だ」若い男性士官はモビルスーツの出力のリミッターを切った。核融合炉の熱量が一気に上昇する。ザクの起こせる出力は976kwだが、彼の乗るモビルスーツは1500kwと段違いに高い。ヨーロッパではまだ「白いモビルスーツ」と呼ばれているガンダムの出力でも1380kwだ。正体不明のモビルスーツの目が光る。それはモノアイの様な丸いカメラでもツインアイでもなく、不気味に赤黒い光を放つ一つの赤外線ライトの様に単調に光るだけだった。


ファンファン部隊…

「少佐、モビルスーツ2機の熱量が急上昇しました。ザクよりも高いです…ありえない!」指揮官を乗せたファンファンが計測していた3つのモビルスーツの熱量が変化して、モニターの数字が上がっていく。警戒音アラームがコックピットに響き出す。

「どういうことだ?奴ら、ジオンはザクよりも強力なモビルスーツを導入していたのか…」スヴェトロワ少佐が作戦中止を告げる前に、ファンファン部隊はミサイルを工場へ放ってしまった。18発のミサイルが工場へと突き進む中、砲弾がミサイルの1つに命中した。命中精度の悪いマゼラトップ砲だが、ミサイルによる集中攻撃に風穴を開けた。

マゼラトップ砲を構えながら、陸戦型ザクは川に潜んでいたファンファン部隊へと突進し2発目を撃った。その砲弾はスヴェトロワ少佐の乗るファンファンを焼け落としてしまった。

ゴーストは、はじめから指揮官の居場所を捕捉していた。上空から戦場を見つめていたルッグンは、9機のファンファンの中で、先陣を切るように1つだけ早いタイミングで動いていたことを見逃さなかったからだ。ルナイブスの適格で隙のない行動は強力なモビルスーツを得ることにより、より高い戦果を挙げられる。
実験的に使われていたプロトタイプドムだがファンファン部隊よりも上流から、水面をホバー移動してジャイアントバズーカを放つ。すると4機のファンファンが爆発した。
「クローク、合格だ」このジオン軍モビルスーツ隊をまとめている男はオルガス少尉に高評価を与えた。彼女がドムの操縦桿を握ったのは、この任務が最初だ。ホバリング機能を有したしたドムの最高速度は時速300キロメートルと言われている。

2機のモビルスーツが起こした攻撃に紛れて、ジオン軍の隊長が乗る謎のモビルスーツはファンファン部隊の背後に回っていた。そして銃を構えた。

実弾兵器ではない。加速された強力なエネルギー粒子が放出され、ファンファン部隊を消滅させてしまった。そのエネルギーは工場に残る重油を燃やし、工場の周囲が大火災となった。
地上部隊は火災から逃れる住人、商人の中へ溶け込みながら撤退していった。
「ビームライフルの火力は、まるで超新星爆発だな。このモビルスーツを得た今回より、私はコードネームをノヴァとする。ルナイブス、任務完了だ」ジオン公国軍大尉ラーセン・エリクソンは強力なモビルスーツを手に入れた。彼の部隊であるルナイブスは元々大西洋方面軍司令、カール・ベッカー中佐の指揮下だったが、オデッサ防衛戦のためにマ・クベ中佐の軍へと派遣されていた。

「ガルシアさん、ここに連邦軍が採用しなかったモビルスーツが放置されていたなんて、どこから拾って来た話ですか?」ルッグンの機内でタクール少尉は機内に居るもうひとつの影に話し掛けた。
「私は商人だよ。誰も気にしない情報から金になる物を売れば儲かる。それだけだ…」もうひとつの影の主は高齢の男性だ。地中海沿岸で食品の製造、販売を行うリケーサ商会の会長、ガルシア・デ・ラガン という人物だ。彼は第一次地球降下作戦が行われる前から、ビジネスチャンスのためにジオン軍と取引をしている。彼は「投資をするには現場を知る」という、商人としては当たり前の行動を取っているが戦線が膠着状態になっても、ジオンに支援を続けている。

地球連邦軍がオデッサ作戦を始動したのは11月07日だ。北極圏から連邦軍は既に上陸をしていたが、連邦軍の先行部隊は港町にある「廃工の火災」で行方知れずとなっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

名前を棄てた賞金首

天樹 一翔
SF
鋼鉄でできた生物が現れ始め、改良された武器で戦うのが当たり前となった世の中。 しかし、パーカッション式シングルアクションのコルトのみで戦う、変わった旅人ウォーカー。 鋼鉄生物との戦闘中、政府公認の賞金稼ぎ、セシリアが出会う。 二人は理由が違えど目的地は同じミネラルだった。 そこで二人を待っていた事件とは――? カクヨムにて公開中の作品となります。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

RAMPAGE!!!

Wolf cap
SF
5年前、突如空に姿を表した 正体不明の飛行物体『ファング』 ファングは出現と同時に人類を攻撃、甚大な被害を与えた。 それに対し国連は臨時国際法、 《人類存続国際法》を制定した。 目的はファングの殲滅とそのための各国の技術提供、及び特別国連空軍(UNSA) の設立だ。 これにより人類とファングの戦争が始まった。 それから5年、戦争はまだ続いていた。 ファングと人類の戦力差はほとんどないため、戦況は変わっていなかった。 ※本作は今後作成予定の小説の練習を兼ねてます。

サクラ・アンダーソンの不思議な体験

廣瀬純一
SF
女性のサクラ・アンダーソンが男性のコウイチ・アンダーソンに変わるまでの不思議な話

色即是空エテルネル(8/4更新)

狂言巡
SF
 格差があるが、皆誰しも超能力を持っている世界。平凡な女子小学生・星野夜空にだって使い道に寄れば便利な超能力を持っている。しかし彼女の周りは一風変わったヤツらばかりで……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...