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第1章 ソロキャンパー、大地に立つ(異世界の)
20、ソロキャンパー、煩悩に苛まれる。
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『トローリング体験』で釣れたのは、2メートルを超す『マグロ』だった。
オオマの漁師もかくやと言わんばかりに2時間以上踏ん張りながら釣り上げたのだ。
甲板は割れんばかりの大喝采、目立つのが苦手な僕でも流石に胸を張ったさ。
途中で『M.C.レイモン』を一口飲んだのは内緒だけどね。
そうそう、釣れたマグロにサーチをかけたら『クロマグロ』って表示されてびっくりした。
マグロはマグロのままなんかい!って感じだ。
で、現在はさっきのおじさんと二人で解体中。
サイズがサイズなので乗客に振る舞う事にして、赤身を少しと、中トロ、大トロの部分を貰っておく事にした。
「そう、その部分は絶対下さい」
解体中のおじさんにトロの確保をお願いする。こればかりは譲れない。
「こんなとこ食べるのか?いつもは取れても捨てちまうとこだがなあ」
「フッフッフッ!ところがどっこいですよ!まあ一口!内緒ですよ?」
ナイフで大トロを少し切り分け、オジサンに食べてみてと促す。
「生でかよ?まあそんなに言うなら試してみっか・・・」
パクリと大トロを口に入れたオジサンが固まる。
「こいつぁ・・・、美味えな。なんちゅうか、舌の上で身がとろけて、脂の甘みが・・・、美味えな、とにかくこれは美味いぞ!」
「でしょ?」
ドヤ顔、この男圧倒的ドヤ顔である。美味いのはマグロであって、ユズルがどうこうした訳ではないのにさも自分が凄いとばかりにドヤ顔である。
「これは今度から捨てらんねえな。兄ちゃん教えてくれてありがとよ!」
「どういたしまして!」
僕はマグロの扱いをどう変えていくかブツブツと呟いているオジサンに別れを告げて、一旦部屋に戻ることにした。
「それにしても今日は暑いな・・・」
****
良い食材が手に入ったので今日のお昼は自炊にしよう。
この船、自炊もOKだし食堂もあるのだ。で、折角のマグロ、マグロ苦いかしょっぱいかってね、それは秋刀魚だ。
丁度お昼時なので、お米を炊きながら皆を呼ぶ。
いつもなら料理のレシピを説明しながら作るんだけど、今日は必要ないだろう。
だって炊きたてのご飯に乗せるだけだもんね。
そう『マグロ丼』だ!
久々登場の『バックリバーナイフ』でマグロを刺身にする、アバラに残った部分もこそぎ取る。部位ごとにご飯の上に並べながら気付いた。
今回で手持ちの醤油が終わってしまう。そう、この世界で醤油も味噌も見た事がないのだ。
かといって自分では作れないしなあ。
まあしょうがない、どこかで出会うかもしれないしね!
・・・でも赤身の『ヅケ』は作りたかったな・・・。
気を取り直して皆の前にマグロ丼を配膳、食べようかと顔を見廻すと皆の表情が冴えない。
「ん?どうしたの?」
『『そうじゃの、皆どうしたのじゃ?』』
「いや、火を通していないのですね・・・」
「そうですねぇ、生のお魚、ですかぁ」
「ね、生でイケっていうの?」
おい最後!その表現はちょっとマズくないか?その小麦肌でその表現しちゃう?倫理的に大丈夫?
「こっちには魚を生で食べる風習って無いのかな?」
「そうですねぇ・・・、ほぼ火を通しますね」
「じゃあ今日が初めてってわけだね!まあものは試し、食べてみてよ!絶対美味しいから!」
この男強引に押し通す道を選んだ様である。マグロをゲットした事で浮かれているのが手に取るように分かる。
ここで問題なのは「絶対」という言葉を選んでしまったこと!この言葉運びは危険ッ!下手したら相手に悪印象しか与えないッ!!
だが今回は「素材」のおかげで事なきを得ることになる!!ユズル首の皮一枚ッ!
「ま、まあ、ユズルさんがそこまで言うなら・・・」
皆が一口マグロ丼を口にする。
「「「これは!」」」
皆がまるで味○皇の様な表情を浮かべる。
余程美味しかったのだろう、表情は恍惚として、舌でとろけるトロの味を少しも逃すまいと猛然と食べ始めた。
それも当然である。釣りたての新鮮な魚介、美味しいのが当然である。勿論熟成させた身の美味しさも捨てがたいのだが・・・。
「これは美味しいですねぇ!!」
「まさか生の魚がこんなに美味しいとは・・・!」
「ね!今度からガンガン生でイケるね!」
おい最後!またか、またなのか?狙って言ってるのか?そのセリフ!R18やぞ!
まあ、美味しかったのならいいのだけどね。
「ね!美味しかったでしょ~?」
ッ!ドヤ顔!この男またしても圧倒的ドヤ顔である。合コンで嫌われるパターンの王道を進む様子である!
再度言っておく、釣ったのは確かにこの男、ユズルである。しかしその美味しさはその「素材」があってこそ!決してこの男の力だけではない!
船旅の楽しさに食べるものへの感謝を忘れているのであろうか!?
否!!!
他の4人にも責任はあった!船に乗ったこの日の外気温は35度!地球でいえば猛暑日!
甲板は太陽の照り返しで余計温度が上がっている。体感で40度程だろう。。
そして諸兄は覚えているだろうか?この世界の住人は羞恥心が薄いという事を!!
部屋に戻った事でその少ない羞恥心は簡単に脱ぎ棄てられていた。
そう、彼女等はうだるような暑さと残り少ない羞恥心を天秤にかけたのだ!
その結果こそが薄い羞恥心と同じ様にそこらに脱ぎ棄てられた彼女達の衣服!
水着、もしくは下着、どちらにせよ半裸に近い状態の美女4人に囲まれて調理をする事になったユズル、彼とて一人の男である。煩悩にまみれた男であるのだ!
普段は「僕エッチなことに興味ありませ~ん」な顔をしていても根はムッツリなのだ。
この据え膳だらけな状況で多少格好つけようとするのも仕方がない事であろう。
しかも昨日今日と格好いいところを見せ付けたばかり、下心満載でもバチはあたるまい!
・・・ちょっと調子に乗っても仕方なくない?これはそんなユズルの心の叫びであった。
今自分がおかれている状況にユズルは一人悶々としていた。
それはそうだ、周りを半裸の美女に囲まれて、その中にはちょっと気になる女の子までいるのだ。
「ちょっと、皆服着てくれません!?」
これも嘘だ。本当は眺めるだけでなく触ってしまいたい位である。
しかし、今のところは理性と煩悩のせめぎあいながらも理性が少しリードしている状態だ。
心を落ち着かせて、再度皆を見る。
アイーシャは白のフルカップ、リゼルさんは黒のチューブトップ、レッドアイは黄色のハーフカップか・・・、タラちゃんは、赤だと!?しかもホルターネック。
この世界下着は日本と変わらないのか・・・ウヘヘ。
って、落ち着けるわけがないだろ!なんだこの状況!
『『なんじゃ?この暑さじゃ。こうなるのも仕方あるまい?』』
「そうですよぉ。というかユズルさんこそ、服着たままで暑くないんですかぁ?」
「いや、そ、それはまあ暑い、けど・・・」
ふとタラちゃんがイタズラを思いついたような目つきをする。
『『そうじゃのう。この暑さ、下も脱ぎたいくらいじゃな!』』
「え?は?ちょっと!?」
確かに!!とでもいう様に皆が頷く。
『『なんての。ユズルの奴が困っているようじゃから、我慢しとくかの。クフッ」
やっぱりか!ほんと勘弁して!?只でさえギリギリで踏みとどまってるんだし!
『『アイーシャよ、ちょっと良いかの?』』
「なんですかぁ?」
タラちゃんが部屋の隅へアイーシャを連れていくと、なにやら密談が始まった。
『『今の・・・ぼん・・・いっぱ・・・今夜なら・・・じゃぞ?』』
「です・・・ねぇ・・・今夜こ・・・決め・・・私か・・・おし倒し・・・」
またも不穏な会話が途切れ途切れに聞こえてくる。
いや、まあ、分かるけど。アイーシャも最初から憎からず想ってくれている様だし、僕は良くある鈍感系主人公でもない。
むしろ据え膳食わぬは男の恥一派の一角に名を連ねる方だと自負している位だ。
だけどねえ。今は状況が状況だし、色恋はもう少し平和になってから考えたいなあ。
まあ、こんなこと言ってるけど実際その状況になったら実際理性なんて飛んじゃうだろうと思ってる。
まあ、僕がヘタレちゃうかもだけどね!
****
夜になって甲板に出てみると昼のうだるような暑さが和らぎ、心地のいい海風が吹いていた。
食堂で夕食をとった後、コーヒーでも飲もうかとこうして一人出てきたのだけど。
聞こえるのは波のさざめきと少しの人のしゃべり声。
海の果てに目をやれば3つの月に照らされる波間の向こうに水平線、その上には地球とは比べ物にならないほどの星空。
「月が3つ出ているのにこの星の輝きは凄いなあ」
お湯を沸かしながら呟く。
「そうですか?」
ビクッとして振り向くと、アイーシャがいた。
「私にはいつもの夜空なんですけどねぇ」
「うん。僕がいた日本ってとこはここまで星が見えることは無かったからねえ」
「そうなんですねぇ・・・、ねぇユズルさん?」
「ん?なに?」
「その・・・ユズルさんは、私のこと・・・どう思います?」
「え?どうって?」
そりゃ可愛いしもろ好みだしスタイルいいし声も素敵だし性格はまだ掴めてないけどよさそうだし今のところ非の打ちどころはないけどナニカ?
「その・・・、異性として・・・です」
「そ、そえは、可愛いと思ってるよ?」
やばい!噛んだ!噛んでしまった!
「でも、今はまだ、何というかこう、ね?状況が状況だし。まだ、ね?」
「それはこの先色んな問題が解決したならば、関係を進ませてもいいということでしょうか?」
おっと、斬りこんできたな・・・。
「それは、そうだね。それにこうやって旅を続けて行く中でもっとアイーシャの事知りたいと思ってるしね」
「そうですか!!では、もっと知ってもらいます!色んなことを!それこそ隅から隅まで!」
「は、はい、お、お願いします」
隅から隅までって、ああいかん、また煩悩が刺激されていくう。
「良かった!お話聞いてくれてありがとうございますぅ!ではまた明日、お休みなさい!」
「うん、お休みー」
・・・パタパタと部屋に戻るアイーシャを見送ると、今日の自分を振り返る。
正直格好つけようと思って空回りだったよなあ。でも煩悩には勝ったぞ!ギリギリだけどね!
今日押し倒されたら正直やばかった。
「それにしても、時々頭に響いたナレーションみたいなの、何だったんだろう?」
「あ、それ、私です」
・・・!!
あんたか色ボケー!
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