上 下
15 / 31
第1章 ソロキャンパー、大地に立つ(異世界の)

15、ソロキャンパー、海を楽しむ。

しおりを挟む

****



結果として宿は空いていなかった。
大人数だが今日も野営、いいんだけどね、好きだし。
てなことで、いつものようにサイトの構築。今回は砂浜、ビーチである。
砂浜はちょっと厄介で、タ―プを設営する時にペグがさせない。
なので大きめの石を砂に埋めたり、流木を十字に組んでペグの代わりにするんだけど、穴掘りがめんどくさいのだ。嫌いじゃないけど。

人数も増えたので、リゼルさんが持ってきていた天幕を拝借。
これ、要するに地球でいう『モノポールテント』なのだ。こいつを先に設営。
昨今流行りの『ディルノスク』のキャンバステントみたいでちょっとオシャンティー。
さっきも言った様にペグの代わりにロープで結んだ石で固定。だいぶ大きめの石で固定したので潮風で飛ぶ事は無いだろう。
で、そこに重ねる様にタ―プを張る。『オガワ張り』ってやつだね。
勿論風の抜けを考え潮風に負けないサイトを構築したさ。天気は晴れ、いまは地球時間で15時過ぎくらいだろうか。

火床まで準備した僕はある物を取りに行く。

「ジャジャーン!つ~り~ざ~お~」

どこかの猫型ロボットの真似をしながら釣竿を掲げる。
宿に売ってあったのだ。道糸やハリス、釣り針なんかとセットで大銀貨3枚。

狙うのは近くの磯。釣りやすい根魚を狙う。
ガラカブ(僕の住んでる地域では「カサゴ」の事をこう呼ぶ)に近い魚がいるんじゃないかと思ってさ。カワハギみたいのがいればもっといい。
食べられるかどうかは「サーチ」をかけてみれば分かるみたいだし、気楽に頑張ろうっと。



****



「お、また釣れた!」

7匹目だ、見た目は普通のカサゴに近いけれど色が青い。さっきも釣れたので一応サーチをかけたら「青カサゴ:食用・美味」と出た。
日本語に翻訳された名前は見た目のままだった。
他にも「クロハギ:食用・美味」だったり、「ニセベラ:食用・不味い」や、「ラルフグ:食用不可・猛毒・痺れる」が釣れた。
で、不味いらしい「ニセベラ」と、猛毒らしい「ラルフグ」は逃がしたさ。「ラルフグ」なんて持ったらホントに少し痺れたからね!

「釣れますか?」

「! エッ!?」

驚いて振り向くと青髪の男が立っていた。
釣りに集中していたとはいえ、気配を感じることなく声をかけられたのだ。

「釣れますか?」

「ま、まあ、そこそこですねぇ。夕飯のおかずになる位には釣れました」

「そうですか、今の内に楽しんでくださいね」

「?? そ、そうですね」

「それでは・・・、はぐれ人君」

「は、はい。失礼します」

最後の方は良く聞こえなかった。
それにしても気配が薄い男の人だった、ゆ、幽霊かな?
・・・それはないか。

「おお!?また来た!で、デカいっ!」



****



皆の夕飯分は釣れたのでサイトへ戻ることにする。途中の岩場にムール貝に似た貝がいたのでサーチ。
「黒鱗貝:食用・美味」10枚程採取する。

・・・これは、あれが作れるかな?
でも、パンがないな。「タック」のフライパンで代用するか。
今日のメニューを考えながらサイトに戻ると、皆は浜辺で遊んでいた。

!?!?

「え?ちょっと?なんで皆そんな恰好してるの?」

「「え?なにがですか~?」」

皆が皆、肌着、というより下着である。
確かに今日は暑かった、初秋に良くある夏日和だった。だからといって、年頃の女性達がこんなんで良いのか?いや良くない。
うん、これを止めるのは良くないな。僕の健全な精神に良くない。断じて良くない!

・・・眼福眼福っと。

アイーシャもタラちゃんも素晴らしいものをお持ちである。レッドアイは少々控えめだが肌の色も相まって中々に扇情的、リゼルさんは・・・希少価値だね、うん。

素晴らしい光景をバックに僕は夕飯の準備に取り掛かる。
今日はシーフード、主菜は2種類だ。


*********

【1品目:異世界の魚介を使ったパエリア】

材料:水2カップ・米2カップ、ボア肉100グラム程度、青カサゴ3匹・黒鱗貝5枚
   トマト缶1缶、異世界の野菜類、にんにく1片(みじん切り)
   オリーブオイル適量(多めが良い)、サフラン0.5g、塩コショウ適量・コンソメ

1、フライパンやパエリア鍋を火にかけて熱し、オリーブオイルを入れて広げます。
2、ボア肉を入れて塩コショウし、色が付く程度に炒め、いったん取り出します。
3、青カサゴ・黒鱗貝を入れて塩コショウし、色が付く程度に炒め、いったん取り出します。
4、オリーブオイルを足し、にんにくを入れて焦がさない程度の弱火で炒めます。
5、異世界の野菜を入れて中火で炒めます。
6、米を入れて炒めます。(インディカ米)
7、トマト缶と水、コンソメを加えます。
8、沸騰してきたら焦げないようにかき混ぜながら、サフランを加えます。
9、お米が半透明になってきたら海老とボア肉、青カサゴ、黒鱗貝をきれいに並べます。
10、15分から20分程度、様子を見ながら、スープが無くなるまで中火にかけます。
11、火を止めてからアルミホイルやフタをかぶせて5分程度蒸らして、できあがり。

*本来ならば鶏肉を使いますが、今回はなかったのでボア肉。
*インディカ米を研がずに使うことで、べちゃつかないように。
*イカやエビがベストですが、今回はなかったので青カサゴ。
*ブイヨンがなかったので、今回はコンソメ。

*********


次は・・・。


*********

【2品目:異世界の魚介で作る贅沢アクアパッツァ】

材料:モッコロ鯛1匹、クロハギ2匹、黒鱗貝5枚
   にんにく2片(みじん切り)、白ワイン150cc、オリーブオイル大さじ2
   異世界の野菜類、ハーブ類

1、モッコロ鯛に塩胡椒をふって下味をつけておく。
2、焚火の上にダッチオーブンみたいな鍋を置きオリーブオイル大さじ1を熱し、鯛の両面をかるく焼く。
3、一度鯛を取り出し、オリーブオイル大さじ1を加えてにんにく、加えて弱火で炒める。香りが出たら異世界玉  ねぎを加えてさっと炒める。
4、鯛を戻し入れ、周りに黒鱗貝と他の野菜とを並べ、白ワインを注ぎます。アルコールを飛ばし、蓋をして弱火  で黒鱗貝の口が開くまで20分くらい蒸し焼きにする。
5、塩胡椒で味をととのえて出来上がり。

*アンチョビがあればベスト。手順3で使いましょう。
*本来なら魚は1匹ですが今回は多目に使います。

*********


今回は、公都で調達した野菜やワインが大いに役立ってくれた。
ちなみにモッコロ鯛は最後に釣れた魚、緑と紫のボーダー柄だった。もちろん「食用・美味」色はともかく大物だったさ。
併せてボア肉をステーキにする、大喰らいの肉食系がいるからね。
やはりタラちゃんの『無限収納インベントリ』はとても便利、量を気にせずに持ち運べるというのもだけど、生ものが腐らない、これがすごくいい。

「皆~!御飯が出来ますよ~!!」

そう呼びかけると、浜辺で遊んでいた皆がそのままの格好で帰ってくる。

「ちょ、ちょっと何か着てください皆さん!!」

「? なんですかぁ?」

『『なんでじゃ?』』

いや、なんでじゃなくて!

「その恰好でご飯食べちゃうんですか!?」

「え?いけないんですかぁ?」

「あたしも普通だと思うけど、ねえリゼルさん?」

「ええ、そうですね」

『『・・・ユズル、さてはお主・・・クフッ』』

イタズラを思いついたような顔でタラちゃんが笑う。

『『のう、ユズルよ』』

すっと、腕に柔らかい部分を押し付けてくるタラちゃん。圧倒的な質量が僕を襲う。

「ちょ、ちょ、ちょちょちょっと!」

『『おや??クフフッ』』

ナニがじゃ!じゃなくて!

「それ以上イタズラしたらご飯抜きますよ!!」

タラちゃんがスッと腕から離れる。ちょっと名残惜しいがそこは我慢だ!

『『アイーシャよ、ちょっと来い』』

「なんですかぁ?」

ヒソヒソ話が始まる。

『『今のかんじ・・・ユズ・・・思い切っ・・・いけ・・・と』』

「そ・・・ですか・・・なら・・・思いき・・・押し倒・・・」

また不穏な言葉が聞こえるが、とにかく夕飯だ!



****



どうも、こちらの世界の人の羞恥心は地球に比べて薄めみたいだ。下着程度なら見られてもかまわない感じ。
直接肌に触れるのはやっぱり恥ずかしいみたいだったけどね。

今は皆から少し離れた場所で、コーヒーと合わせて久しぶりの煙草を嗜んでいる。
気分を落ち着かせる儀式のようなものだ。別に他の物でもいいだろうけど、何となく揺れる紫煙を見つめるのが好きなので結局煙草を燻らせる。

「はぐれ人と冒険、そして幸せか・・・」

多分アイーシャがいう幸せは結婚なのだろう、違うかもしれないが。
周りの反応を見るにそんな感じだ。
アイーシャは素敵だと思う。一目惚れするほどの容姿だし、性格もいい。
ただ、まだ深い想いを抱くほどは付き合ってきていないし、何よりここは異世界だ。

実際日本に未練があるかと言ったらそこまである訳ではない、家族は5年も前に事故で死んだ。唯一の肉親だった伯父さんはこちらに骨を埋めた様だ。
それでも、まだ戻れるならば戻りたいという思いがあるのだ。同じくらいこの世界にも居たいと思うのだけども。

どちらにしても、僕がここに呼ばれた原因を突き止めないと前に進めない気がしている。
だからまずは原因探し、原因が分かってどちらの世界にも問題が無いようなら、こちらに骨を埋めてもいいかなと考えている。
そこまで進めば自分からのアイーシャへの想いも深まるかもしれないしね。

「まあ、なるようになるかな・・・っと」

明日は始発の船で海を渡る予定だ。
今日も早く寝ないとね。

日本の夜空より遥かに濃い星空と、その星空に浮かぶ三つの月を眺めながらそんな事を思うのだった。



『『ッ!! いかん!!避けるのじゃっ!ユズル!!』』



・・・え?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

処理中です...