神速艦隊

中支事変

事変の終結

国民党が瓦解したことにより中支事変は1932年の8月6日に終結した。
1年ほどの戦闘であったが国民党軍は40万人、日本、イギリス、奉天、雲南も合わせて30万人の死者を出す事態となった。
またこの中のおよそ2割は民間人であった。


汪兆銘はクーデター後に日本とイギリスなどに正式に降伏した。
南京より北側を奉天が、南京より南側を雲南が割譲した。
そして南京は日英が共同で統治しそのほかに青島、威海衛、杭州を日本が、深圳、泉州をイギリスが租借した。


中支事変が終結したことに伴い日本軍やイギリス軍は現地から撤退を始めていた。
すでに現地では奉天や雲南による統治が始まっておりわざわざ軍政を敷くほどでもなかったからだ。
ただ租借地や上海などには軍を駐留させる必要があり派遣軍の3割から4割は本国に帰還することはなかった。
これは海軍にも言え、第1航空戦隊を支那派遣艦隊とした。


「ひとまず終わってよかった」
堀を前に伏見宮はそう言う。
堀はその優秀さを買われ軍令部第二部（軍備担当）部長に就任していた。
「はい、これで我が国の基盤はさらに盤石になったことでしょう」
伏見宮はこれに頷く。
「その基盤を用いて我らの海軍をさらに強化することが出来る」
すでに軍令部は海軍省と次の建艦計画について協議を行っていた。
「そのことなのですが」
「何かあるのか？」
「はい、次の計画では”戦艦”を建造すべきかと」
その言葉を聞いて伏見宮はいきり立った。
「君がそれを言うのか！」
「申し訳ございません。言葉足らずでした。私が申しているのは”書類上の戦艦”であります」
「どういうことかね」
「このまま我々が空母を建造いたしますと当然アメリカは我が国と同数以上の空母を建造してきます。そうなるとせっかくの先進的な戦術が台無しになってしまいます」
そう言われてみると伏見宮も”確かに”と思った。
アメリカ海軍の仮想敵はイギリスと日本なのだ。
仮想敵が建造する艦を質、数で上回るように建造計画を立てるのはごく自然のことだった。
ではそうなると何が起こるか。
いくら国家の基盤が盤石であっても国力の面で日本はアメリカに3倍以上の差を付けられているのだ
まともに建艦競争をして勝てるわけがなかった。
「なるほど…それは君の言うとおりだ」
「はい。ですので”我々はあくまで戦艦を建造している”とアメリカに思わせてアメリカに戦艦の建造を強要するのです」
伏見宮はこれに天地がひっくり返るほど驚かされた。
確かにこれだとアメリカは無駄とまでは言わないが戦術的な価値が低くなるであろう戦艦に金を使い続けて空母やそれに付随する装備の研究費が縮小されることは目に見えていた。
「なるほど！ではそれで頼む！」
伏見宮は今度は大きく頷いた。