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建造と改装、そして開発

油圧式射出機

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扶桑・伊勢型戦艦の改装が乙案でまとまったのは良かったが、肝心の射出機に問題が発生した。
従来の日本の射出機は火薬を爆発させ、その勢いでもって機体を押し出す方式を採用していた。
この方式は水上偵察機などには有効だったが、乙案が搭載する予定の航空機は魚雷や爆弾を積む。
その航空機を火薬の爆発で押し出すのは誘爆の危険性や機体の損傷の可能性があまりにも大きいため行われていなかった。
それを解決するために現場の技術者達がひねり出した答えが油圧式射出機だった。
油圧なら爆風などはないため安全に航空機を押し出せる。
それに加えこの油圧式射出機は空母にも搭載でき、空母艦載機の滑走距離が短くなり結果的に艦載機数の増大が期待できた。
だがその油圧式も一筋縄ではいかない。
技術的に困難だったからだ。
一応、艦政本部が試作に成功していたが信頼性をお粗末な現状だった。
そのため彼らは海軍上層部に開発支援を依頼した。
大半の将校が資金不足など理由を付けて断るなかある大将だけは積極的だった。
それが第1号艦の建造を担当している艦政本部の中村良三大将だった。


「井上くん。君から大臣に開発支援を言伝してくれないだろうか?」
中村は長門にまで井上を説得する。
「射出機などあっても変わらないでしょう。」
井上はあくまで射出機など不要であるという姿勢だった。
確かに攻撃機を射出機で発進させるとなると火薬式ではなにかと不都合だろう。
だがそもそも攻撃機は空母や陸上基地からの発進し、戦闘機や偵察機の発進には火薬式で支障が無かった。
この考えは依頼を断った将校に共通して言えることだった。
また乙案に攻撃機を搭載するということも井上は初耳だった。
「どこまで行っても強情だな。私は第1号艦の時、君の頼みを受け入れたぞ。それなのに私の頼みは受け入れないのか。」
そう言われると井上もバツが悪くなる。
「…わかりました。一応大臣に話を通しておきます。ですが、確証は持てません。」
その後、井上から油圧式射出機の話を聞いた山本は二つ返事で支援を約束した。


「思いのほか早く出来上がったな。」
中村はまず1938年中に満足のいく射出機が完成したことに驚いた。
「大将のおかげでアメリカの高品質な油が手に入ったんです。それで試作品の油をアメリカの物に変えてみたところ思いの外動きました。もちろん国産の油でも動くように改良していかなければなりませんが今はこれで十分でしょう。」
そしてこの技術者の言葉に日本の石油化学産業の遅れを痛感した。
だが油圧式射出機は完成した。
まず龍驤に試験的にこれを搭載し最後の確認を行った後、各空母や火薬式射出機を搭載している艦艇に搭載する予定だった。
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