信濃の大空

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最後の出撃

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坂井は柳谷と共に飛行甲板にいた。
「俺とお前しか出撃できないとはな。」
坂井の中隊はあの戦闘でも1機も被撃墜を出さなかった。
だが、坂井と柳谷の紫電改以外はなんらかの損傷を受けていて2時間以内での修理は不可能だった。
自分の育てた中隊が消化不良の内に活躍できないのは悔しくはあった。
それでも、良かったと思ってしまう。
仲間を失わずに済むのだから。
「中隊長。」
不意に柳谷が口を開く。
「最後までともに戦えて、私は誇りに思っています。そろそろのようです。いきましょう。」
突然そう言われて困惑するも、自分の機体に向かて行く柳谷を追いかけながら小さな声で言った。
「俺もだよ。」
操縦席に乗り込むとエンジンが聞きなれた音を響かせていた。
そして、出撃の合図が出た。
前から後ろへ流れていく風景を横目で見ていたら、ある一団が目に留まった。
それは自分の中隊員たちだった。
必死に帽子を振っている。
「ありがとうな、みんな。」
少しの衝撃が発艦を伝えてくる。
あれほどの巨艦である信濃がみるみる内に小さくなっていく。
全ての機体が発艦するまで空中で待機する。
その間に、戦友の仇が頭に浮かんだ。
「何としてでも、あいつを落とす!」
20分もすれば、大まかな編隊が出来上がっていた。
『全機、直進!』
ついに攻撃隊総指揮の山口が命令が聞こえ、機体を前に進めた。


「サザーランド、行くぞ!」
カールは唯一の中隊機になったサザーランドに呼び掛けた。
他の中隊員は着水して駆逐艦に救助され真珠湾へ帰還して行った。
残りたいと全員から言われたが中隊長であるカールがそれを黙殺した。
「本当に良かったんですか?彼らを帰して。彼らだって残りたかったようですし。」
サザーランドの問いにカールは断固とした声色で答えた。
「わざわざ残す理由もないし、残したくない。戦場にいれば航空戦に参加していないにしろ命の危険はそこら中にある。」
「なるほど。」
サザーランドは納得した様子で離れていく。
自分も愛機に乗り込む。
もうすでに出撃命令は出ていた。
なのであとは発艦するだけだった。
速度が増していく中、彼は悪魔の事を考えていた。
今度は鉢合わせないわけがない。
なら、絶対に俺のところに来る。
本音を言うと死にたくない。
今すぐにでも逃げたい。
だが、俺が逃げてきたから味方が死んでいった。
このまま逃げたらそいつらに顔向けできん!
確固たる意志を宿した瞳でその悪魔である坂井がいるであろう、空を睨んだ。
「いつでもかかってこい!相手になってやるよ!」
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