30 / 67
ラインの守り
しおりを挟む
1945年1月22日。
日米がしのぎを削る太平洋の反対側のアルデンヌでは、兵士たちは休養を楽しんでいた。
昨年行われたヒュルトゲン攻勢で損害を負った部隊の補充、休養を同時に行うためどちらも積極的に攻撃しないアルデンヌは最適だった。
「今日の映画は良かったなぁ。やっぱりラブロマンスはいいな。なんて名前だったか。」
金髪の兵士が青い瞳の兵士に聞く。
「『カサブランカ』だな。アメリカに帰ったら家族で見たいもんだ。」
「こっちの戦争は直に終わるさ。来月にはドイツ本土まで攻撃するらしいからな。あとは、残った日本を叩き潰せば済む話だ。」
遠き祖国を思いながら彼らは兵舎までで唯一の橋を渡ろうとした。
「おい、なにか聞こえないか 。」
金髪の兵士がそう言ったので耳を澄ます。
なんだ?
なにか低い唸り声のようなものが聞こえる。
あたりを見ても月明かりが地面の雪を照らすばかり。
いや、少し赤く輝いている。
「なんで...燃えてるんだ?」
兵舎の方角に先程までなかった炎が立ち上っていた。
どこからか銃声が聞こえてくる。
だが、そのあとに大きな爆発音が聞こえまた静寂に戻る。
「戦車だ...ドイツ軍だ!」
叫び声をかき消す程のキャタピラの音がはっきりと聞こえてきた。
「死ね!ドイツ軍共!」
金髪の兵士が半ば錯乱状態で銃口を戦車に向ける。
その直後、橋が吹き飛び静寂を取り戻した。
「パイパー戦闘団、敵を撃破!攻撃を続行!」
ドイツ西部方面軍総司令部はその報告を歓喜で持って受け入れた。
「素晴らしい。ディートリヒ将軍の作戦指揮のおかげだな。」
ルントシュテットは鼻高々に言った。
「このまま、アントワープまで占領し連合軍の補給状況を悪化させる。その後は5年前と同じことをやるだけだ。」
ディートリヒは前線から送られてくる報告に少し焦っていた。
「進撃速度が少し遅いな。」
「どうやら、橋が破壊されていた影響で2時間の遅れが発生しています。」
2時間。
通常の作戦ならそこまでの誤差だ。
だが、この作戦はいかに早くアントワープに到達するかが鍵になる。
2時間の遅れはかなり痛い。
「ただ、総統閣下が作戦を延期なさった影響で燃料は十分な量確保されており米軍の一部が太平洋方面に引き抜かれたため、前線兵力は減少しています。あとはパイパー戦闘団にかけましょう。」
「だな。」
ディートリヒは頷いた。
「1分たりとも休むな!進撃せよ!」
パイパーはパンターに乗りながら檄を飛ばす。
今、対面している敵軍は対戦車砲を装備した砲兵部隊だ。
敵の対戦車砲により、すでに4号が3両破壊されている。
ただ、今攻撃を行っているのはティーガーⅡだ。
そのアハトアハトで敵の防衛陣地を粉砕していく。
すでにリエージュを超え、ブリュッセルに迫ろうとしていた。
「敵は全員殺せ。民間人も必要であるなら許可する。」
パイパーの冷徹な言葉は全部隊に通達され、実行されていく。
1月29日。
連合軍は太平洋戦線に精鋭部隊を送っていたため、戦力不足が深刻だった。
空軍による支援もあと1週間は望めそうもない。
ブリュッセルは陥落し、ドイツ軍の最終目標であるアントワープまであと50キロの地点まで進出していた。
2月2日。
「あれは…海か!」
パイパーが喜んで叫んだ。
他の場所からも歓声が聞こえてくる。
すぐに、市内に潜伏していた敵軍を殲滅しアントワープはドイツの占領下になった。
その後、ヒトラーはフランスの再攻略を命令。
5年前と同じくマジノ線を迂回し、フランス領内に雪崩れ込もうとした。
だが、それは連合軍の航空兵力やフランス国内に駐留していた部隊の抵抗にあい頓挫。
戦線は奇しくも25年前のそれと瓜ふたつとなった。
この攻勢で、連合軍側は15万を超える兵士が捕虜ないし戦死、戦傷となった。
一方ドイツ軍も戦車総計200両を喪失し、4万の死者を出した。
ただ、ドイツが確たる勝利を得たのは確かだった。
日米がしのぎを削る太平洋の反対側のアルデンヌでは、兵士たちは休養を楽しんでいた。
昨年行われたヒュルトゲン攻勢で損害を負った部隊の補充、休養を同時に行うためどちらも積極的に攻撃しないアルデンヌは最適だった。
「今日の映画は良かったなぁ。やっぱりラブロマンスはいいな。なんて名前だったか。」
金髪の兵士が青い瞳の兵士に聞く。
「『カサブランカ』だな。アメリカに帰ったら家族で見たいもんだ。」
「こっちの戦争は直に終わるさ。来月にはドイツ本土まで攻撃するらしいからな。あとは、残った日本を叩き潰せば済む話だ。」
遠き祖国を思いながら彼らは兵舎までで唯一の橋を渡ろうとした。
「おい、なにか聞こえないか 。」
金髪の兵士がそう言ったので耳を澄ます。
なんだ?
なにか低い唸り声のようなものが聞こえる。
あたりを見ても月明かりが地面の雪を照らすばかり。
いや、少し赤く輝いている。
「なんで...燃えてるんだ?」
兵舎の方角に先程までなかった炎が立ち上っていた。
どこからか銃声が聞こえてくる。
だが、そのあとに大きな爆発音が聞こえまた静寂に戻る。
「戦車だ...ドイツ軍だ!」
叫び声をかき消す程のキャタピラの音がはっきりと聞こえてきた。
「死ね!ドイツ軍共!」
金髪の兵士が半ば錯乱状態で銃口を戦車に向ける。
その直後、橋が吹き飛び静寂を取り戻した。
「パイパー戦闘団、敵を撃破!攻撃を続行!」
ドイツ西部方面軍総司令部はその報告を歓喜で持って受け入れた。
「素晴らしい。ディートリヒ将軍の作戦指揮のおかげだな。」
ルントシュテットは鼻高々に言った。
「このまま、アントワープまで占領し連合軍の補給状況を悪化させる。その後は5年前と同じことをやるだけだ。」
ディートリヒは前線から送られてくる報告に少し焦っていた。
「進撃速度が少し遅いな。」
「どうやら、橋が破壊されていた影響で2時間の遅れが発生しています。」
2時間。
通常の作戦ならそこまでの誤差だ。
だが、この作戦はいかに早くアントワープに到達するかが鍵になる。
2時間の遅れはかなり痛い。
「ただ、総統閣下が作戦を延期なさった影響で燃料は十分な量確保されており米軍の一部が太平洋方面に引き抜かれたため、前線兵力は減少しています。あとはパイパー戦闘団にかけましょう。」
「だな。」
ディートリヒは頷いた。
「1分たりとも休むな!進撃せよ!」
パイパーはパンターに乗りながら檄を飛ばす。
今、対面している敵軍は対戦車砲を装備した砲兵部隊だ。
敵の対戦車砲により、すでに4号が3両破壊されている。
ただ、今攻撃を行っているのはティーガーⅡだ。
そのアハトアハトで敵の防衛陣地を粉砕していく。
すでにリエージュを超え、ブリュッセルに迫ろうとしていた。
「敵は全員殺せ。民間人も必要であるなら許可する。」
パイパーの冷徹な言葉は全部隊に通達され、実行されていく。
1月29日。
連合軍は太平洋戦線に精鋭部隊を送っていたため、戦力不足が深刻だった。
空軍による支援もあと1週間は望めそうもない。
ブリュッセルは陥落し、ドイツ軍の最終目標であるアントワープまであと50キロの地点まで進出していた。
2月2日。
「あれは…海か!」
パイパーが喜んで叫んだ。
他の場所からも歓声が聞こえてくる。
すぐに、市内に潜伏していた敵軍を殲滅しアントワープはドイツの占領下になった。
その後、ヒトラーはフランスの再攻略を命令。
5年前と同じくマジノ線を迂回し、フランス領内に雪崩れ込もうとした。
だが、それは連合軍の航空兵力やフランス国内に駐留していた部隊の抵抗にあい頓挫。
戦線は奇しくも25年前のそれと瓜ふたつとなった。
この攻勢で、連合軍側は15万を超える兵士が捕虜ないし戦死、戦傷となった。
一方ドイツ軍も戦車総計200両を喪失し、4万の死者を出した。
ただ、ドイツが確たる勝利を得たのは確かだった。
10
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)

大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

風を翔る
ypaaaaaaa
歴史・時代
彼の大戦争から80年近くが経ち、ミニオタであった高萩蒼(たかはぎ あおい)はある戦闘機について興味本位で調べることになる。二式艦上戦闘機、またの名を風翔。調べていく過程で、当時の凄惨な戦争についても知り高萩は現状を深く考えていくことになる。
暁のミッドウェー
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。
真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。
一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。
そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。
ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。
日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。
その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。
(※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる