信濃の大空

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ラインの守り

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1945年1月22日。
日米がしのぎを削る太平洋の反対側のアルデンヌでは、兵士たちは休養を楽しんでいた。
昨年行われたヒュルトゲン攻勢で損害を負った部隊の補充、休養を同時に行うためどちらも積極的に攻撃しないアルデンヌは最適だった。
「今日の映画は良かったなぁ。やっぱりラブロマンスはいいな。なんて名前だったか。」
金髪の兵士が青い瞳の兵士に聞く。
「『カサブランカ』だな。アメリカに帰ったら家族で見たいもんだ。」
「こっちの戦争は直に終わるさ。来月にはドイツ本土まで攻撃するらしいからな。あとは、残った日本を叩き潰せば済む話だ。」
遠き祖国を思いながら彼らは兵舎までで唯一の橋を渡ろうとした。
「おい、なにか聞こえないか 。」
金髪の兵士がそう言ったので耳を澄ます。
なんだ?
なにか低い唸り声のようなものが聞こえる。
あたりを見ても月明かりが地面の雪を照らすばかり。
いや、少し赤く輝いている。
「なんで...燃えてるんだ?」
兵舎の方角に先程までなかった炎が立ち上っていた。
どこからか銃声が聞こえてくる。
だが、そのあとに大きな爆発音が聞こえまた静寂に戻る。
「戦車だ...ドイツ軍だ!」
叫び声をかき消す程のキャタピラの音がはっきりと聞こえてきた。
「死ね!ドイツ軍共!」
金髪の兵士が半ば錯乱状態で銃口を戦車に向ける。
その直後、橋が吹き飛び静寂を取り戻した。


「パイパー戦闘団、敵を撃破!攻撃を続行!」
ドイツ西部方面軍総司令部はその報告を歓喜で持って受け入れた。
「素晴らしい。ディートリヒ将軍の作戦指揮のおかげだな。」
ルントシュテットは鼻高々に言った。
「このまま、アントワープまで占領し連合軍の補給状況を悪化させる。その後は5年前と同じことをやるだけだ。」


ディートリヒは前線から送られてくる報告に少し焦っていた。
「進撃速度が少し遅いな。」
「どうやら、橋が破壊されていた影響で2時間の遅れが発生しています。」
2時間。
通常の作戦ならそこまでの誤差だ。
だが、この作戦はいかに早くアントワープに到達するかが鍵になる。
2時間の遅れはかなり痛い。
「ただ、総統閣下が作戦を延期なさった影響で燃料は十分な量確保されており米軍の一部が太平洋方面に引き抜かれたため、前線兵力は減少しています。あとはパイパー戦闘団にかけましょう。」
「だな。」
ディートリヒは頷いた。


「1分たりとも休むな!進撃せよ!」
パイパーはパンターに乗りながら檄を飛ばす。
今、対面している敵軍は対戦車砲を装備した砲兵部隊だ。
敵の対戦車砲により、すでに4号が3両破壊されている。
ただ、今攻撃を行っているのはティーガーⅡだ。
そのアハトアハトで敵の防衛陣地を粉砕していく。
すでにリエージュを超え、ブリュッセルに迫ろうとしていた。
「敵は全員殺せ。民間人も必要であるなら許可する。」
パイパーの冷徹な言葉は全部隊に通達され、実行されていく。


1月29日。
連合軍は太平洋戦線に精鋭部隊を送っていたため、戦力不足が深刻だった。
空軍による支援もあと1週間は望めそうもない。
ブリュッセルは陥落し、ドイツ軍の最終目標であるアントワープまであと50キロの地点まで進出していた。


2月2日。
「あれは…海か!」
パイパーが喜んで叫んだ。
他の場所からも歓声が聞こえてくる。
すぐに、市内に潜伏していた敵軍を殲滅しアントワープはドイツの占領下になった。


その後、ヒトラーはフランスの再攻略を命令。
5年前と同じくマジノ線を迂回し、フランス領内に雪崩れ込もうとした。
だが、それは連合軍の航空兵力やフランス国内に駐留していた部隊の抵抗にあい頓挫。
戦線は奇しくも25年前のそれと瓜ふたつとなった。
この攻勢で、連合軍側は15万を超える兵士が捕虜ないし戦死、戦傷となった。
一方ドイツ軍も戦車総計200両を喪失し、4万の死者を出した。
ただ、ドイツが確たる勝利を得たのは確かだった。
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