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出港
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先々月のパラオ大空襲を受け軍令部は米軍との決戦の時を6月中旬と想定しついに5月8日、小沢に出港命令が下った。
そして小沢率いる一航戦は12日にはリンガ泊地に入港したものの、道中米軍の潜水艦による攻撃を受け沈没した艦こそ出なかったが少なからず損害を受けていた。
また、湾外には多数の潜水艦が展開していることが確認され航空隊の湾外での訓練が不可能となった。
それは他の艦隊でも同じことが言え、乗組員たちはただ静かに時を待っていた。
角田もその一人だった。
「困ったものだ。これではろくに訓練もできん。」
角田は執務室の長椅子に座ってそう零す。
「仕方ない。今の内に英気を養うのが先決だろう。」
海軍兵学校が同期の阿部も角田の対面に座って答える。
「そうだな。なにせ我々が決戦でどう動くかによって勝敗が決まる。何としてでもミッドウェーの二の舞だけは避けなければ。」
「あぁ。だがやはりあの方が生きていればと思うと…。」
それを聞いた角田は少し呆れた声で言った
「お前はまだ引きずっているのか。確かに山口中将は名将だった。わたしもあの人が生きていればと思うことはいくらでもある。だが、故人は帰ってこない。いま私たちにできることは仇をとることくらいだ。」
阿部は少し暗い顔でつぶやく。
「分かっている。分かっていながらも俺がもう少しうまく説得ができていればと。」
すると角田は諭すように言った。
「おそらく、どんな演説家でもって彼を説得しようとしても彼は首を縦に振らなかっただろう。それが彼の決意であり、一種の人生のけじめだったのだろう。かという私も、隼鷹が沈めば私も運命を共にするだろうがな。まぁその内、お前もも分かるさ。」
「…そうか、そういうものか。」
そうしていると執務室に流れる重い空気をかき消すように電話が鳴った。
角田が電話を取り内容を聞くと受話器を置いて阿部にその内容を告げた。
「連合軍がビアク島に上陸を開始したそうだ。」
「そうか。あそこは絶対国防圏からはずれている。大勢に影響はない。」
「本来ならばそうだ。だが多田航空参謀は我が艦隊に攻撃を命令してきた。」
「どういうことだ?」
阿部は少し目を細めて問う。
「どうやら、実戦経験の少ない我が艦隊にすこしでもそれを解消したほしいようだ。」
「なるほどな。それなら合点がいく。」
「あと、これはおそらく副次的なものだろうが我が艦隊が出撃することで敵艦隊を誘引することも考えとしてはあるようだ。」
「我が艦隊を囮に使うのか?作戦とは真逆ではないか!」
少し興奮気味に阿部は言った。
「いや、今の我々はあくまで敵艦隊を誘導するための囮だ。決戦となれれば囮役は我々ではなくなる。」
それを聞いた阿部は少し落ち着いた。
「では、出撃の用意をしてくる。」
「あぁ。私もそうしよう。」
こうして空母『信濃』『隼鷹』『大鳳』を主軸とする二航戦は出港した。
大半の搭乗員は初の実戦でいろいろな感情が渦巻く中、訓練を思い出して戦いに全力を向けるのだった。
そして小沢率いる一航戦は12日にはリンガ泊地に入港したものの、道中米軍の潜水艦による攻撃を受け沈没した艦こそ出なかったが少なからず損害を受けていた。
また、湾外には多数の潜水艦が展開していることが確認され航空隊の湾外での訓練が不可能となった。
それは他の艦隊でも同じことが言え、乗組員たちはただ静かに時を待っていた。
角田もその一人だった。
「困ったものだ。これではろくに訓練もできん。」
角田は執務室の長椅子に座ってそう零す。
「仕方ない。今の内に英気を養うのが先決だろう。」
海軍兵学校が同期の阿部も角田の対面に座って答える。
「そうだな。なにせ我々が決戦でどう動くかによって勝敗が決まる。何としてでもミッドウェーの二の舞だけは避けなければ。」
「あぁ。だがやはりあの方が生きていればと思うと…。」
それを聞いた角田は少し呆れた声で言った
「お前はまだ引きずっているのか。確かに山口中将は名将だった。わたしもあの人が生きていればと思うことはいくらでもある。だが、故人は帰ってこない。いま私たちにできることは仇をとることくらいだ。」
阿部は少し暗い顔でつぶやく。
「分かっている。分かっていながらも俺がもう少しうまく説得ができていればと。」
すると角田は諭すように言った。
「おそらく、どんな演説家でもって彼を説得しようとしても彼は首を縦に振らなかっただろう。それが彼の決意であり、一種の人生のけじめだったのだろう。かという私も、隼鷹が沈めば私も運命を共にするだろうがな。まぁその内、お前もも分かるさ。」
「…そうか、そういうものか。」
そうしていると執務室に流れる重い空気をかき消すように電話が鳴った。
角田が電話を取り内容を聞くと受話器を置いて阿部にその内容を告げた。
「連合軍がビアク島に上陸を開始したそうだ。」
「そうか。あそこは絶対国防圏からはずれている。大勢に影響はない。」
「本来ならばそうだ。だが多田航空参謀は我が艦隊に攻撃を命令してきた。」
「どういうことだ?」
阿部は少し目を細めて問う。
「どうやら、実戦経験の少ない我が艦隊にすこしでもそれを解消したほしいようだ。」
「なるほどな。それなら合点がいく。」
「あと、これはおそらく副次的なものだろうが我が艦隊が出撃することで敵艦隊を誘引することも考えとしてはあるようだ。」
「我が艦隊を囮に使うのか?作戦とは真逆ではないか!」
少し興奮気味に阿部は言った。
「いや、今の我々はあくまで敵艦隊を誘導するための囮だ。決戦となれれば囮役は我々ではなくなる。」
それを聞いた阿部は少し落ち着いた。
「では、出撃の用意をしてくる。」
「あぁ。私もそうしよう。」
こうして空母『信濃』『隼鷹』『大鳳』を主軸とする二航戦は出港した。
大半の搭乗員は初の実戦でいろいろな感情が渦巻く中、訓練を思い出して戦いに全力を向けるのだった。
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