信濃の大空

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あ号作戦前夜

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1944年、ミッドウェー海戦の大敗によって早期講和に失敗し、戦争の主導権を奪われた日本海軍は迫りくる米英の物量にじりじりと後退を余儀なくされていた。
そして、ついに前年に設定された絶対国防圏であるマリアナ諸島周辺に米軍の攻勢が行われようとしていた。
それに対応するため、豊田大将からこの作戦での機動部隊の指揮を委任された小沢治三郎第一航空戦隊司令官は呉にて最後の作戦会議を行っていた。
「ここは敵の攻撃範囲外から一方的に攻撃するしかないように思えるが、どうだろう?」
小沢は会議に参加している者たちにそう諮った。
「それでよろしかと。」
栗田健男がそれに同意した。
それを皮切りにほかの者たちも首を縦に振った。
2人を除いて。
「それはあまりに非現実的です。第一、航空機は搭乗員なしには動きません。長時間の飛行で疲労困憊の中、戦闘が始まればどんあ強者でもたちまち堕とされます。」
それを聞いた会議は静寂に包まれた。
そこに追い打ちをかけるようにもう一人の男が言う。
「われわれはガダルカナルでも同じことをして大損害を被りました。わざわざもう一度する必要はないでしょう。」
「ではどうすればいのだ!?」
小沢はこぶしを机にぶつけながらそう叫んだ。
「お任せを。すでに作戦案は考えてきました。こちらを。」
男は小沢に資料を手渡す。
「…本当にこの作戦を実行するのだな?」
「はい。」
「一歩間違えば機動部隊が全滅するぞ。」
「重々承知です。責任は私が取ります。」
「…わかった。この作戦で行く。阿部艦長、君は艦に戻って激励を。貴艦がこの作戦の要だ。角田二航戦司令官は詰めの協議を行いたいので少し待っていただく。それでは、各自持ち場に戻れ!」
「「「はっ!」」」
こうしてあ号作戦の下地は決められた。
日時は5月1日。
決戦までに残された時間を有効に活用するため、阿部俊雄大佐もとい、大和型三番艦『信濃』艦長は急いで艦にもどって訓練の指示をだした。
それは他の空母でも同様であり、艦隊には異様な雰囲気が立ち込めていた。


マリアナ諸島周辺には日本の基地航空隊が点在していた。
今は亡き山本五十六大将はこれと空母機動部隊を用いて米海軍に大打撃を与える作戦を立案していた。
それはこの作戦にも組み込まれていた。
ラバウルからの引き抜きも行われ、新米搭乗員にたいしては死んだ方が楽に思えるほどの過酷な訓練を施していた。
全ては決戦に勝つために。
次の世代にこの日本を残すために。
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