空母鳳炎奮戦記

第3航空艦隊

転換点

小沢はマドラスに帰還した。
榛名と鹵獲されたレゾリューションはマドラスで修理した後、本土に回航されていった。
「阿部艦長、よく攻撃隊を寄こしてくれた！あのままでは榛名は沈没していただろう。」
小沢が感謝を伝える。
「駆逐艦などを減らせたら御の字と思っておりましたが、結果的に良かったです。」
阿部は微笑みながら言った。


小沢は執務室で新たな構想を練っていた。
「今回、航空隊は30機だけだった。にも関わらず戦艦1隻を撃沈し被害が皆無とはな…。」
航空隊による夜襲はかなり効果があるかもしれない。
今回はたまたま榛名の火災を見つけられたということも大きい。
だがそれは潜水艦なり電探なりの情報で補填できる。
いや、それではもし敵戦闘機に狙われた時成すすべがなくなる。
…！なら電探を搭載した機体を開発すればいいのか！
「井上に言ってみるか。」
小沢は早速電報を飛ばした。
数日後には井上からいい返事が届いた。


このころ大本営は戦略の立て直しに追われていた。
アラスカ攻略のためにダッチハーバー攻撃に向かった第1航空艦隊の赤城、加賀、飛龍、翔鷹が5月6日に撃沈されたのだ。
飛龍が一矢報いてアメリカ空母を1隻撃沈したが大敗だった。
このによりアラスカ攻略は無期限延期となった。


「まさか1航艦が全滅とはな…。」
小沢は驚きを隠せない。
「近いうちに艦隊が再編されるそうです。鳳炎もおそらくは我々の手から離れるでしょう。」
草鹿の予想していた通り、中央から鳳炎と蒼鷹型1番艦である蒼鷹を交換するという旨の辞令が飛んできた。
蒼鷹型は艦載機数を60機程度まで引き上げた空母だった。
費用は瑞鷹型の20％増し程度なので費用対効果はかなり良い。
もっとも対空火力や対潜防御などはお粗末ではあるものの問題ではない。
対空火力は現在量産されている秋月型防空駆逐艦が、対潜防御はこちらも量産されている駆潜艇が担うからだ。
鳳炎のような単艦でもある程度戦える空母ではなく、艦隊運用を前提とした空母だったのだ。
大本営や軍令部にもその費用対効果が注目され高い評価を受けていた。
そのため開戦前から蒼鷹型を標準空母として量産が開始されていたのだ。



「寂しくなるな。」
小沢と草鹿は阿部のいる艦長室を訪ねていた。
「どこかの戦場でまた会うかもしれません。まぁ、会う前に戦争が終わってくれていた方がいいのですが。」
出港の時間となり阿部は小沢と草鹿と固く握手をした。
そして護衛艦艇を伴いマドラス、第3航空艦隊を後にした。