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第四話 カフェにて

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「気になる?」

アルバートが意味ありげにシャルロットを窺うと、

「え?」

シャルロットは不安定な眼差しをアルバートに向ける。
その眼差しを受け止めたアルバートが一瞬言葉に詰まる。

(シャルロット……その表情かおは反則だろう)

そして軽く頭を振って平常心を取り戻そうと努める。

一瞬垣間見た、それは御三家の一角を務める女帝のそれでも、
クラスメイト達に見せる明るく活発な一人の少女としてのそれでもなかった。

それは紛れもなくシャルロットの女としての表情かおだった。

アルバートはシャルロットから少し距離を置き、

「甘いよ、さん。そう簡単に君に教えるとでも思った?」

いつもの飄々とした笑みを取り繕う。

「もう! 相変わらず意地悪なのね。
 いいわ! の恋愛事情なんて、別に聞かなくったって」

シャルロットは口を膨らませて、
アルバートを軽く睨む。

「君は僕にはとことん冷たいよね、ジークの話は親身になって聞くくせに」

アルバートはシャルロットに向かって、憎たらし気に鼻の頭に皺を寄せる。

「ではこのわたくしに、一体どうしろと?」

シャルロットもフンっ! とアルバートから顔を背ける。

「じゃあさ、ケーキセットで手を打たない?」

へそを曲げたシャルロットの前に、
アルバートが満面の笑みで提案する。

◇◇◇

放課後、アルバートとシャルロットは、
昼休みに話題になった例のカフェに入っていく。

「それで結局、エルザさんが誘ってくれたカフェなのね」

シャルロットはテーブルに運ばれてきた
三段重ねのアフタヌーンセットを渋い目で見つめる。

「おっ! イケメン店員はどれかな? と」

アルバートは悪びれもせず、キョロキョロと店内を見回す。

「他人の恋の橋渡しは、余計なことなんでしょ?」

シャルロットがぎろりとアルバートを睨みつける。

「フォローしきれないから、僕の把握している範囲でやってってこと!
 とめたところで、どうせ君は聞く耳をもたないだろうしね」

そういってアルバートはコーヒーを啜る。

「あなたのフォローなんて誰もお願いしていないでしょ?」

シャルロットが眉を吊り上げるが、

「だって貴族院相手に君だけじゃ役不足だろ?」

アルバートはしれっとシャルロットの痛いところを突く。

「ほら、これって御三家の威信に関わる問題だし、
 もはや君だけの問題じゃないっていうか」

取ってつけたように、アルバートがそう言うと、

「あなたは変わってしまった。昔は御三家とかそんなの関係なく、
 必ずわたくしの背中をあなたが守ってくれるものだと思っていたわ」

シャルロットが下を向く。

「大儀名分が必要なんだよ。
 君が僕をクラウディア様と呼ぶようになったから」

アルバートも寂し気な笑みを浮かべる。

「まあ、いいわ。今日はあなたの婚約のお祝いよ。
 だから今日だけは停戦ということにしてあげる。
 おめでとう! アルバート」

シャルロットが気を取り直すようにそういってアルバートに微笑みかけると、
いきなりアルバートがブチ切れた。

「はあ? 全然よくないね、
 おめでとう、アルバートって、君に僕の婚約を祝福されるだなんて、
 こんな屈辱はないよ」

アルバートの琥珀色の瞳が怒りに燃えている。

「ちょっとあなた、一体何を怒っているの?」

シャルロットが驚きに目を見開く。

「君は僕のことをよく鬼畜だ悪魔だと罵るけど、
 君も大概だよ。胸に手を当てて考えてごらん?
 本当に心当たりがない?」

シャルロットはアルバートの言葉通りに、
胸に手を当てて考え込むが、

「ない」

真顔でアルバートに答えた。

「もういい!」

アルバートは立ち上がりシャルロットの前に置かれた伝票を奪い取る。

「あっ、アルバート、それは今日はわたくしが支払いますわ」

シャルロットがアルバートの後を追いかけるが、
アルバートは足早にレジに向かい、無言で会計を支払う。

「夕暮れ時は危険だからね! 屋敷まで送っていくよ!!!」

アルバートは目を血走らせて、
強い口調でシャルロットを自身の車に乗せる。

しかし、その後は終始無言を貫く。

「ちょっと、アルバートあなた何をそんなに怒っているの?
 わたくしが何か気に障ることをしたのなら謝るわ。
 ごめんなさい」

シャルロットが愁傷気に頭を下げると、

「謝らないでくれる? 余計に惨めになるからっ!
 っていうか別に? 僕は全然怒ってなんかいないよ! それよりも室温これでいい?!!!
 春先とはいえ、黄昏時は気温が下がるからね!!!」

明らかに語気を荒げて不機嫌に、シャルロットを気遣う。

「あなた、言ってることと態度がひどく矛盾しているわよ」

シャルロットはただ、そんなアルバートに恐れを抱く。

刹那、シャルロットが小さなクシャミをすると、
アルバートは自身が来ていた上着を脱いでシャルロットに着せかけた。

「それを着ていて、風邪ひくよりはマシだから」

小さな声で呟いて、やっぱりアルバートはそっぽを向く。
その横顔が朱に染まっていたのは、夕焼けの所為?

「あっ、忘れていたわ。それで、結局あなたの婚約者って一体誰なの?」

屋敷に着いたシャルロットが改めてアルバートに問いかけるが、

「ケーキセットは僕が支払ったからね、教えてあげない」

アルバートは激しくへそを曲げている。

「だけど、そう遠くない日に君はそれを知ることになるだろう。
 覚悟してね、シャルロット」

アルバートがきつい眼差しをシャルロットに向ける。

「っていうか、どうしてわたくしが覚悟しなくちゃならないのよ?」

シャルロットは腑に落ちないと、目を瞬かせる。



 





 
 
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