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第十九話 水無月の嫉妬
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「お前を迎えに行ったら、
ここだと教えてくれた。
こちらの女将には私もツテがあってね」
水無月さんはやっぱり、無機質な声色で言葉を綴る。
部屋の隅に置かれた安楽椅子に座り、きつい眼差しをこちらに向ける。
「俺は今からお茶のお点前をすることになっちゃって、
着物に着替えなきゃならないんですけど……。
だから、あの……」
部屋から少しだけ、出ててほしいんですけど?
そんな期待を込めて、視線を送るが、
水無月さんのコールドアイに、
俺が固まった。
なに? なんでそんなに機嫌悪いの?
「脱げよ、瑞樹。
ここでその一部始終を見ていてやるから」
それは低くドスの効いた声色で……。
「なんでそんな……」
俺は水無月さんの切れ具合に、
口ごもる。
「何なら俺が脱がせてやろうか?
さっきのあいつみたいに」
水無月さんのアクアブルーの瞳が、
欲情の焔に揺れている。
「なんでここで、
かずは君が出てくるかな?」
俺の背中に変な汗がにじみ出ている。
「ほう、かずはというのかあのクソガキはっ!」
クソガキって……。
「同門の弟弟子なんですよ。
ただそれだけです」
俺は事実を述べたが、
水無月さんは引き下がらない。
「いいや、あいつの視線はそんなんじゃない。
明らかにお前を……。
気付かないというのなら、私が再現してやる。
だから脱げよ」
水無月さんのその言いように、俺もブチ切れた。
「あ~あ~そうですか、じゃあ脱ぎますよ。
この間だって一緒にフィットネスジムに行ったし、
そもそも男同士ですからね、
こっちもあんたの視線なんて……」
っとそこまで言いながら、『気にしません』とは言えなかった。
ちくしょう……情けないことに、
シャツのボタンを外す手が、めちゃくちゃ震えてる。
クソっ! 上手く外せない。
「どうした? はやく脱げよ、瑞樹」
煽るように投げかけられる言葉に
「うるさいっ! 今脱いでいるだろ!」
そう返して、俺はシャツをバサリと乱暴に脱ぎ捨てた。
露わになる俺の上半身に、水無月さんがひゅっと喉を鳴らした。
そんな、食い入るように見るんじゃねぇっ、バカっ!
男の裸なんてそんないいもんじゃねぇぞ!
「きれいだな。細くて華奢で、透き通るように白い」
水無月さんがそう言って少し目を細めた。
「ああそうかい、そりゃあどうも」
俺は鼻の頭に皺をよせて、にくたらしげにそう言った。
男に対してきれい、だの、細くて華奢、だの、
一体何をとち狂った単語を並べてんだか。
それは褒め言葉じゃねえよ。
全部俺のコンプレックスだっつうの!
水無月さんの視線が、ゆっくりと俺の身体のラインを舐め上げていく。
首筋に、鎖骨に、背中に、腹に。
ねっとりとした絡みつくような視線が、
男の本能をむき出しにして、
容赦なく俺の身体を食らいつくす。
くそっ! この人に
ただ見られているだけなのに、身体が火照る。
膝が震えて、腰が砕けそうに……なるっ!
俺はそんな衝動に、きゅっと唇を噛んで耐える。
「瑞樹……エロいな。お前、見られて興奮するタイプか?」
俺の弱い部分を見透かしたように、
水無月さんが煽ってくる。
「ぬかせっ……この変態がっ!」
なんとか悪態をつくけれど、
言葉とは裏腹に、身体の芯が熱を持ってひどくつらい。
そんな視線を俺にくれるな。
あんまり俺を煽るな。
俺も男……だぞ?
俺はズボンを脱いで襦袢を身につける。
◇◇◇
着替えを終えたところで
ようやく水無月さんは表情を緩めた。
ふぅっと小さく息を吐き、
「悪かったな」
と小さく呟いた。
そして背後から俺を抱きすくめる。
「本音を言うと、私は今、大変嫉妬をしております」
少し拗ねたような口調だ。
「なんで嫉妬するんだよ?」
俺は素でそう質問した。
「そりゃ、好きな人が他の男と密室で‥…とか、普通に嫉妬するだろっ!
っつうかお前、いい加減気づけよなっ!
この超鈍感男っ!」
背後で水無月さんが盛大なため息をついている。
「意味がわかんねぇよ!
そもそもあんたが好きなのは俺じゃなくてっ!」
その言葉を発っそうとしたら、
心が引き攣れた。
「花子さん……なんだろ?」
ちょっと泣きそうになった。
しかし俺の言葉を聞いた水無月さんが、ぷっと噴き出した。
そしておかしそうに、いつまでもクスクスと笑っている。
「なっ……なんなんだよ!
何がおかしいんだよ!!」
知らず、俺は赤面してしまう。
「いや、瑞樹があんまり可愛かったもので」
そして水無月さんは
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「瑞樹、私はね、瑞樹のことも、
花子さんのことも……両方好きなんだ」
耳朶に甘く最低なセリフを囁いて寄こす。
水無月さんの言葉に、
俺は思わず口をポカンと開けた。
「こっ……このっ! ゲス野郎っ!!!」
真っ赤になって叫んでいる俺を、
なぜだか水無月さんは心底楽しそうに抱きすくめている。
「水無月、ここにいるのか?
家元の許可を頂いた。
お前をお茶席に案内するようにとのことだ」
襖の向こうで声がすると、
水無月さんが俺を抱く手を解いた。
呉里さんの声だ。
「わかった。すぐに向かう」
水無月さんはそう返事をして、再び俺に向き直る。
「じゃあ、瑞樹、お茶席でね。
瑞樹の点てるお点前を楽しみにしているよ」
そう言ってにっこり笑った。
「だが……」
そしてぐっと俺の腰を引き寄せた。
「あまり私を焦らすなよ。
そろそろ我慢の限界だ」
甘く、低く、耳朶に囁いて寄こす。
ここだと教えてくれた。
こちらの女将には私もツテがあってね」
水無月さんはやっぱり、無機質な声色で言葉を綴る。
部屋の隅に置かれた安楽椅子に座り、きつい眼差しをこちらに向ける。
「俺は今からお茶のお点前をすることになっちゃって、
着物に着替えなきゃならないんですけど……。
だから、あの……」
部屋から少しだけ、出ててほしいんですけど?
そんな期待を込めて、視線を送るが、
水無月さんのコールドアイに、
俺が固まった。
なに? なんでそんなに機嫌悪いの?
「脱げよ、瑞樹。
ここでその一部始終を見ていてやるから」
それは低くドスの効いた声色で……。
「なんでそんな……」
俺は水無月さんの切れ具合に、
口ごもる。
「何なら俺が脱がせてやろうか?
さっきのあいつみたいに」
水無月さんのアクアブルーの瞳が、
欲情の焔に揺れている。
「なんでここで、
かずは君が出てくるかな?」
俺の背中に変な汗がにじみ出ている。
「ほう、かずはというのかあのクソガキはっ!」
クソガキって……。
「同門の弟弟子なんですよ。
ただそれだけです」
俺は事実を述べたが、
水無月さんは引き下がらない。
「いいや、あいつの視線はそんなんじゃない。
明らかにお前を……。
気付かないというのなら、私が再現してやる。
だから脱げよ」
水無月さんのその言いように、俺もブチ切れた。
「あ~あ~そうですか、じゃあ脱ぎますよ。
この間だって一緒にフィットネスジムに行ったし、
そもそも男同士ですからね、
こっちもあんたの視線なんて……」
っとそこまで言いながら、『気にしません』とは言えなかった。
ちくしょう……情けないことに、
シャツのボタンを外す手が、めちゃくちゃ震えてる。
クソっ! 上手く外せない。
「どうした? はやく脱げよ、瑞樹」
煽るように投げかけられる言葉に
「うるさいっ! 今脱いでいるだろ!」
そう返して、俺はシャツをバサリと乱暴に脱ぎ捨てた。
露わになる俺の上半身に、水無月さんがひゅっと喉を鳴らした。
そんな、食い入るように見るんじゃねぇっ、バカっ!
男の裸なんてそんないいもんじゃねぇぞ!
「きれいだな。細くて華奢で、透き通るように白い」
水無月さんがそう言って少し目を細めた。
「ああそうかい、そりゃあどうも」
俺は鼻の頭に皺をよせて、にくたらしげにそう言った。
男に対してきれい、だの、細くて華奢、だの、
一体何をとち狂った単語を並べてんだか。
それは褒め言葉じゃねえよ。
全部俺のコンプレックスだっつうの!
水無月さんの視線が、ゆっくりと俺の身体のラインを舐め上げていく。
首筋に、鎖骨に、背中に、腹に。
ねっとりとした絡みつくような視線が、
男の本能をむき出しにして、
容赦なく俺の身体を食らいつくす。
くそっ! この人に
ただ見られているだけなのに、身体が火照る。
膝が震えて、腰が砕けそうに……なるっ!
俺はそんな衝動に、きゅっと唇を噛んで耐える。
「瑞樹……エロいな。お前、見られて興奮するタイプか?」
俺の弱い部分を見透かしたように、
水無月さんが煽ってくる。
「ぬかせっ……この変態がっ!」
なんとか悪態をつくけれど、
言葉とは裏腹に、身体の芯が熱を持ってひどくつらい。
そんな視線を俺にくれるな。
あんまり俺を煽るな。
俺も男……だぞ?
俺はズボンを脱いで襦袢を身につける。
◇◇◇
着替えを終えたところで
ようやく水無月さんは表情を緩めた。
ふぅっと小さく息を吐き、
「悪かったな」
と小さく呟いた。
そして背後から俺を抱きすくめる。
「本音を言うと、私は今、大変嫉妬をしております」
少し拗ねたような口調だ。
「なんで嫉妬するんだよ?」
俺は素でそう質問した。
「そりゃ、好きな人が他の男と密室で‥…とか、普通に嫉妬するだろっ!
っつうかお前、いい加減気づけよなっ!
この超鈍感男っ!」
背後で水無月さんが盛大なため息をついている。
「意味がわかんねぇよ!
そもそもあんたが好きなのは俺じゃなくてっ!」
その言葉を発っそうとしたら、
心が引き攣れた。
「花子さん……なんだろ?」
ちょっと泣きそうになった。
しかし俺の言葉を聞いた水無月さんが、ぷっと噴き出した。
そしておかしそうに、いつまでもクスクスと笑っている。
「なっ……なんなんだよ!
何がおかしいんだよ!!」
知らず、俺は赤面してしまう。
「いや、瑞樹があんまり可愛かったもので」
そして水無月さんは
ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「瑞樹、私はね、瑞樹のことも、
花子さんのことも……両方好きなんだ」
耳朶に甘く最低なセリフを囁いて寄こす。
水無月さんの言葉に、
俺は思わず口をポカンと開けた。
「こっ……このっ! ゲス野郎っ!!!」
真っ赤になって叫んでいる俺を、
なぜだか水無月さんは心底楽しそうに抱きすくめている。
「水無月、ここにいるのか?
家元の許可を頂いた。
お前をお茶席に案内するようにとのことだ」
襖の向こうで声がすると、
水無月さんが俺を抱く手を解いた。
呉里さんの声だ。
「わかった。すぐに向かう」
水無月さんはそう返事をして、再び俺に向き直る。
「じゃあ、瑞樹、お茶席でね。
瑞樹の点てるお点前を楽しみにしているよ」
そう言ってにっこり笑った。
「だが……」
そしてぐっと俺の腰を引き寄せた。
「あまり私を焦らすなよ。
そろそろ我慢の限界だ」
甘く、低く、耳朶に囁いて寄こす。
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