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第四十九話悪役令嬢は覇王に生を誓う。

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「エリオットお姉さま。まだ起きていて?
 わたくし眠れないの。今夜は一緒に寝て下さらない?」

部屋のドア越しに、
セシリアのフリをしたゼノアの声がする。

「ゼノアっ! 来てはいけないっ!」

反射的にエリオットが叫んだ。

「ああん? 
 一体何をやっているんだっ! てめぇはっ!」

ゼノアがエリオットの部屋のドアを蹴破った。
エリオットの顔が青ざめる。

常ならぬエリオットの様子にゼノアが詰め寄り、
エリオットの両手を頭上で拘束し、その唇を強引に奪った。

「んんんっ!……んっぅぅぅ」

エリオットは涙を流しながら、頭を振ってゼノアに懇願する。

ゼノアはそんなエリオットに目を細めて、
エリオットの口からその劇薬を絡めとった。

キスから解放されたエリオットが叫んだ。

「いけないっ! ゼノアっ、それはっ」

エリオットの瞳が恐怖にひきつる。

「生きるって約束してくれる?」

ゼノアが腕を組んで、そんなエリオットを無機質な瞳で見つめた。
その眼差しにエリオットは戦慄を覚える。

「約束します……。だからお願いよ、
 今すぐにそれを吐き出して、ゼノア」

エリオットは泣きながら、ゼノアの足に縋りついた。
その様を見て、ゼノアはその口から、薬を吐き出した。

それを見届けてから、エリオットはその場に泣き崩れた。

「抱きしめてもいいですか?」

ゼノアが膝をかがめてエリオットに問うた。
エリオットは小さく首を横に振る。

ゼノアはそんなエリオットを見つめながら、その耳元に囁いた。

「却下」

その言葉とともに、ゼノアの腕が
エリオットを優しく後ろから包んだ。

「いけないわ……ゼノア。
 私にはあなたに抱きしめてもらう資格がない」

エリオットの肩が嗚咽に震えている。
ゼノアの瞳が哀しみに揺れている。

「お前はおかしなことを言うな。
 人を愛するのに資格がいるのか?
 では一体誰ならお前を愛する資格があるというのだ?」

エリオットは答えることができない。
ただその場に泣き崩れている。

「俺は、お前が生きていてくれて嬉しい。
 ただ、それだけだ」
 
その言葉に、エリオットがゼノアに抱きついて号泣した。
ゼノアはそんなエリオットの髪を優しく撫でて、口付ける。

「今夜のキスは、なんだか苦いな」

そういってゼノアがエリオットに、微笑んだ。

「悪魔ロットバルトにかけられた
 オデットの呪いを解くためには、
 まだ誰にも愛を誓ったことのない
 青年の愛の誓いが必要なんだっけ?」

その言葉に驚いたようにエリオットが目を見開いた。

「やめてくれない? 
 その『なにこの人ストーカーなの?』っていう視線、
 居たたまれないんですけど……」

ゼノアが鼻の頭に皺を寄せて言った。

「壁に耳あり障子に目あり、だ。
 このポンコツ悪役令嬢がっ!」

そういってゼノアがエリオットの額を人差し指で突いた。

「お前には国元に妹がいるのだったな。
 銀の髪のミシェルによく似た面影の……」

ゼノアが優しい眼差しをエリオットに向けた。

「アリスを知っているの?」

エリオットが問うた。

「まあな、エルダートンから請を依頼されることもあるからな。
 お前ん家はいわば俺のお得さんだ。
 お前は気付いていないだろうけど、結構出入りしてたんだぜ?」

ゼノアから初めて明かされる事実に、
エリオットが心底驚いている。

「そうだったの……」

そんなエリオットの瞳を、ゼノアが覗き込んだ。

「そのアリスも、お前には生きていて欲しいんじゃないのか?」

願わくば、エリオットにこの言葉が届きますように。
ゼノアはそんな祈りにも似た想いを、
胸に抱かずにはおれなかった。

「セシリアも、お前を助けるために、
 俺を呼び出してぶっ倒れてたし、
 ミシェルも俺を追わなかったのは、
 お前を助けたかったからだと思う」

ゼノアはその時のミシェルの
深く傷ついた眼差しを思い出した。

まあ、もっともミシェルあいつ
セシリアがなんとかするだろう。

「罪の意識っていうのは、
 なかなか消えないものかもしれないし、
 下手すると一生それを背負って
 生きていかなきゃならないものなのかもしれない。
 だけど、その贖罪の方法っていうのは、
 自分の命を絶つことではないと思うぞ」

ゼノアの言葉に、エリオットが泣くのをやめた。

「そうね、あなたの言う通りだわ。
 私はどうやら思い違いをしていたようね。
 私が命を絶ったところで誰も救われることはないもの」

エリオットが恥ずかしそうに下を向いた。

「そうだな。だが、お前が生きていてくれて
 救われる者たちは 必ずいるんだ。
 それに、よく覚えておけ、
 お前が命を絶ったら、この俺も死ぬぞ?」

その言葉にエリオットは戦慄を覚えた。
自身を見つめるゼノアの無機質な瞳が、
それが真実だと物語っている。

エリオットの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。

「ゼノア、それはやめて……。
 お願いよ」

エリオットは震えながら、
小さく首を横に振る。

「そう……だったら、俺のために生きて」

ゼノアがその耳元に囁いた。
エリオットは身じろぎをすることができない。

「そのかわり、お前への愛は俺が誓ってやるよ。
 まあ、もっとも、この俺がこそが
 悪魔ロットバルトなのかもしれないけどな」

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