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第三十四話影武者の言い分⑭『憧憬』

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今夜は女王ロザリア陛下の帰還を祝う晩餐、
ということなのですが、今回の視察を兼ねた遠征では、
自国の領域で採れた宝石の大きな商いが成功したらしく、
そのことで尽力した方々への労いがこの宴の主な目的らしいです。

だから招かれた方々というのは、
いつもの夜会に来られるご婦人方とは
少し毛色の違う方々のようですね。

色とりどりのドレスを身に纏った貴族のご婦人方とは
一線を画した、スーツ姿の官僚の方々が多いように思います。

身分や家柄ではなく、政治という分野の実力主義の世界で、
第一線で活躍する方々というのは心からカッコいいと思いました。

そして即位してからわずか12年で、
そんな政治の土壌を作り上げたロザリア陛下の手腕が凄いです。
身分にこだわらず有能な人材を適材適所に用い、
活躍できる場所を与えることによって働く者の士気を上げ、
国に莫大な利益をもたらす取引を成功させ続けてきた。

そのことを成すには、きっと抵抗勢力もあったでしょうし、
現在も厳しい戦いの中にこの華奢な女王陛下は
身を置いていることでしょう。

しかし美しく嫋やかでいて、
この国を大陸最強の公国とならしめたロザリア女王に、
私は憧憬を抱かざるを得ませんでした。

「お手伝いありがとうね、ゼノア君」

そういってロザリア陛下は、こんな若輩者の私にも
気さくに声をかけて下さり、優しく労ってくださいます。

「接待役に駆り出しちゃってごめんなさいね。
気を使ってろくにお料理も食べてないんじゃないかしら?
お礼に、お料理とお菓子を折に詰めてあるから、
あとで東宮殿でミシェルと一緒に食べてね。
今日は特別にこの国一番の料理人に来てもらっての
晩餐だから、美味しいわよ」

感動で打ち震えている自分がいます。
こんな若輩者の私のことまで、気にかけてくださるのですか! 女王陛下! 
もう私はこの人に生涯の忠誠を誓います的なことを
思わず口走りそうになったではありませんか。
ああ、この人のもとで働く人はきっと幸せだろうなと、
そう思わずにはおれませんでした。

ロザリア女王は、集う一人一人に声をかけて回られています。
女王を囲んだ一団が、わっと笑い声を上げました。

自信に満ち溢れた若き官僚たちが、
今の私にはとても眩しく感じられました。

気が付けば、身分に囚われず、
実力をもって己が好む道を歩む術を持つこの人たちを
心から羨ましいと思っている自分がいました。

人質という鳥籠から、いつか解放されたなら、
私もこの人たちのように自由に羽ばたきたいと、
そう羨望している自分がいました。

おや、向こうからキレイどころの一団が
こちらにやってきましたよ?
ボンキュッボンのナイスボディーを騎士服で覆っています。
どこぞの歌劇団の方々ですか? と、
うっかり問いたくなっちゃいますね。

「初めまして、サイファリア国、王太子のゼノア様ですね、
お初にお目にかかります」

そう言って栗毛のお姉さんが声をかけてくださり、
握手の手を差し伸べてくださいました。

「はじめまして」

そうはにかんで答え、お姉さんの手を握りました。
少しどきどきしています。

「私たちはロザリア陛下の護身部隊のメンバーです」

女王陛下の護身部隊と言えば、
言わずと知れた騎士の中でもトップエリートです。
大人のステキな女性たちと知り合えたことに、
感動していたのですが、話題がいつの間にか
私の武勇伝へと移っていったので、若干肝が冷えました。

「近衛部隊の面々から聞きましたけど、ゼノア様ってばその外見に似合わず
鬼の強さなんですって?」

栗毛のお姉さんが興味津々といった体でその話題を切り出しました。
この人が護身部隊の長なんだそうです。
名前をアイリン・フォークスというそうです。

アレックが情報統制を敷いたにも関わらず、誰だ?
何故漏れた?

「あっ、私もミッドから聞きました。
サイファリアとの国境沿いで刺客に襲われたときに
とんでもない強さで、相手を伸していったとか」

このお姉さまは、コバルトブルーの長い髪を
ツインテールに結っている美人さんです。
名前をメル・シャルドというそうです。

ああ、ミッド……あいつ、ね。

その名前に少し顔が引きつるの感じました。
なんだか若干話を盛って得意げにこのキレイどころに
ペラペラと武勇伝を話しているところが
容易に想像できてしまい、イラッとします。

まあ、このお姉さま方も近衛部隊のメンバーなのですから
情報を共有しているのかな?
内部の詳しい事情はわかりませんが、
あまり詮索されるのは好ましくありませんね。

「私なんか全然ですよ? 実際刺客の皆さんを
秒でシメたのはアレックですから」

私は首をぶんぶん振って否定しました。
実際本当にピンチを救ってくれたのはアレックでしたしね。

「あの方は別格ですよぉ。この国のレジェンドであり、ラスボスですから」

そういってメルさんが、からからと笑いました。
そして笑い終えると、一瞬真顔になって私を見つめました。

「ねぇ、ゼノア様、これも余興です。この場で手合わせしませんか?」

「しませんっ!」

私は秒で答えたのですが、
お姉さんの眼差しはどうやらそれを許してくれなさそうです。
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