34 / 72
第三十四話影武者の言い分⑭『憧憬』
しおりを挟む
今夜は女王ロザリア陛下の帰還を祝う晩餐、
ということなのですが、今回の視察を兼ねた遠征では、
自国の領域で採れた宝石の大きな商いが成功したらしく、
そのことで尽力した方々への労いがこの宴の主な目的らしいです。
だから招かれた方々というのは、
いつもの夜会に来られるご婦人方とは
少し毛色の違う方々のようですね。
色とりどりのドレスを身に纏った貴族のご婦人方とは
一線を画した、スーツ姿の官僚の方々が多いように思います。
身分や家柄ではなく、政治という分野の実力主義の世界で、
第一線で活躍する方々というのは心からカッコいいと思いました。
そして即位してからわずか12年で、
そんな政治の土壌を作り上げたロザリア陛下の手腕が凄いです。
身分にこだわらず有能な人材を適材適所に用い、
活躍できる場所を与えることによって働く者の士気を上げ、
国に莫大な利益をもたらす取引を成功させ続けてきた。
そのことを成すには、きっと抵抗勢力もあったでしょうし、
現在も厳しい戦いの中にこの華奢な女王陛下は
身を置いていることでしょう。
しかし美しく嫋やかでいて、
この国を大陸最強の公国とならしめたロザリア女王に、
私は憧憬を抱かざるを得ませんでした。
「お手伝いありがとうね、ゼノア君」
そういってロザリア陛下は、こんな若輩者の私にも
気さくに声をかけて下さり、優しく労ってくださいます。
「接待役に駆り出しちゃってごめんなさいね。
気を使ってろくにお料理も食べてないんじゃないかしら?
お礼に、お料理とお菓子を折に詰めてあるから、
あとで東宮殿でミシェルと一緒に食べてね。
今日は特別にこの国一番の料理人に来てもらっての
晩餐だから、美味しいわよ」
感動で打ち震えている自分がいます。
こんな若輩者の私のことまで、気にかけてくださるのですか! 女王陛下!
もう私はこの人に生涯の忠誠を誓います的なことを
思わず口走りそうになったではありませんか。
ああ、この人のもとで働く人はきっと幸せだろうなと、
そう思わずにはおれませんでした。
ロザリア女王は、集う一人一人に声をかけて回られています。
女王を囲んだ一団が、わっと笑い声を上げました。
自信に満ち溢れた若き官僚たちが、
今の私にはとても眩しく感じられました。
気が付けば、身分に囚われず、
実力をもって己が好む道を歩む術を持つこの人たちを
心から羨ましいと思っている自分がいました。
人質という鳥籠から、いつか解放されたなら、
私もこの人たちのように自由に羽ばたきたいと、
そう羨望している自分がいました。
おや、向こうからキレイどころの一団が
こちらにやってきましたよ?
ボンキュッボンのナイスボディーを騎士服で覆っています。
どこぞの歌劇団の方々ですか? と、
うっかり問いたくなっちゃいますね。
「初めまして、サイファリア国、王太子のゼノア様ですね、
お初にお目にかかります」
そう言って栗毛のお姉さんが声をかけてくださり、
握手の手を差し伸べてくださいました。
「はじめまして」
そうはにかんで答え、お姉さんの手を握りました。
少しどきどきしています。
「私たちはロザリア陛下の護身部隊のメンバーです」
女王陛下の護身部隊と言えば、
言わずと知れた騎士の中でもトップエリートです。
大人のステキな女性たちと知り合えたことに、
感動していたのですが、話題がいつの間にか
私の武勇伝へと移っていったので、若干肝が冷えました。
「近衛部隊の面々から聞きましたけど、ゼノア様ってばその外見に似合わず
鬼の強さなんですって?」
栗毛のお姉さんが興味津々といった体でその話題を切り出しました。
この人が護身部隊の長なんだそうです。
名前をアイリン・フォークスというそうです。
アレックが情報統制を敷いたにも関わらず、誰だ?
何故漏れた?
「あっ、私もミッドから聞きました。
サイファリアとの国境沿いで刺客に襲われたときに
とんでもない強さで、相手を伸していったとか」
このお姉さまは、コバルトブルーの長い髪を
ツインテールに結っている美人さんです。
名前をメル・シャルドというそうです。
ああ、ミッド……あいつ、ね。
その名前に少し顔が引きつるの感じました。
なんだか若干話を盛って得意げにこのキレイどころに
ペラペラと武勇伝を話しているところが
容易に想像できてしまい、イラッとします。
まあ、このお姉さま方も近衛部隊のメンバーなのですから
情報を共有しているのかな?
内部の詳しい事情はわかりませんが、
あまり詮索されるのは好ましくありませんね。
「私なんか全然ですよ? 実際刺客の皆さんを
秒でシメたのはアレックですから」
私は首をぶんぶん振って否定しました。
実際本当にピンチを救ってくれたのはアレックでしたしね。
「あの方は別格ですよぉ。この国のレジェンドであり、ラスボスですから」
そういってメルさんが、からからと笑いました。
そして笑い終えると、一瞬真顔になって私を見つめました。
「ねぇ、ゼノア様、これも余興です。この場で手合わせしませんか?」
「しませんっ!」
私は秒で答えたのですが、
お姉さんの眼差しはどうやらそれを許してくれなさそうです。
ということなのですが、今回の視察を兼ねた遠征では、
自国の領域で採れた宝石の大きな商いが成功したらしく、
そのことで尽力した方々への労いがこの宴の主な目的らしいです。
だから招かれた方々というのは、
いつもの夜会に来られるご婦人方とは
少し毛色の違う方々のようですね。
色とりどりのドレスを身に纏った貴族のご婦人方とは
一線を画した、スーツ姿の官僚の方々が多いように思います。
身分や家柄ではなく、政治という分野の実力主義の世界で、
第一線で活躍する方々というのは心からカッコいいと思いました。
そして即位してからわずか12年で、
そんな政治の土壌を作り上げたロザリア陛下の手腕が凄いです。
身分にこだわらず有能な人材を適材適所に用い、
活躍できる場所を与えることによって働く者の士気を上げ、
国に莫大な利益をもたらす取引を成功させ続けてきた。
そのことを成すには、きっと抵抗勢力もあったでしょうし、
現在も厳しい戦いの中にこの華奢な女王陛下は
身を置いていることでしょう。
しかし美しく嫋やかでいて、
この国を大陸最強の公国とならしめたロザリア女王に、
私は憧憬を抱かざるを得ませんでした。
「お手伝いありがとうね、ゼノア君」
そういってロザリア陛下は、こんな若輩者の私にも
気さくに声をかけて下さり、優しく労ってくださいます。
「接待役に駆り出しちゃってごめんなさいね。
気を使ってろくにお料理も食べてないんじゃないかしら?
お礼に、お料理とお菓子を折に詰めてあるから、
あとで東宮殿でミシェルと一緒に食べてね。
今日は特別にこの国一番の料理人に来てもらっての
晩餐だから、美味しいわよ」
感動で打ち震えている自分がいます。
こんな若輩者の私のことまで、気にかけてくださるのですか! 女王陛下!
もう私はこの人に生涯の忠誠を誓います的なことを
思わず口走りそうになったではありませんか。
ああ、この人のもとで働く人はきっと幸せだろうなと、
そう思わずにはおれませんでした。
ロザリア女王は、集う一人一人に声をかけて回られています。
女王を囲んだ一団が、わっと笑い声を上げました。
自信に満ち溢れた若き官僚たちが、
今の私にはとても眩しく感じられました。
気が付けば、身分に囚われず、
実力をもって己が好む道を歩む術を持つこの人たちを
心から羨ましいと思っている自分がいました。
人質という鳥籠から、いつか解放されたなら、
私もこの人たちのように自由に羽ばたきたいと、
そう羨望している自分がいました。
おや、向こうからキレイどころの一団が
こちらにやってきましたよ?
ボンキュッボンのナイスボディーを騎士服で覆っています。
どこぞの歌劇団の方々ですか? と、
うっかり問いたくなっちゃいますね。
「初めまして、サイファリア国、王太子のゼノア様ですね、
お初にお目にかかります」
そう言って栗毛のお姉さんが声をかけてくださり、
握手の手を差し伸べてくださいました。
「はじめまして」
そうはにかんで答え、お姉さんの手を握りました。
少しどきどきしています。
「私たちはロザリア陛下の護身部隊のメンバーです」
女王陛下の護身部隊と言えば、
言わずと知れた騎士の中でもトップエリートです。
大人のステキな女性たちと知り合えたことに、
感動していたのですが、話題がいつの間にか
私の武勇伝へと移っていったので、若干肝が冷えました。
「近衛部隊の面々から聞きましたけど、ゼノア様ってばその外見に似合わず
鬼の強さなんですって?」
栗毛のお姉さんが興味津々といった体でその話題を切り出しました。
この人が護身部隊の長なんだそうです。
名前をアイリン・フォークスというそうです。
アレックが情報統制を敷いたにも関わらず、誰だ?
何故漏れた?
「あっ、私もミッドから聞きました。
サイファリアとの国境沿いで刺客に襲われたときに
とんでもない強さで、相手を伸していったとか」
このお姉さまは、コバルトブルーの長い髪を
ツインテールに結っている美人さんです。
名前をメル・シャルドというそうです。
ああ、ミッド……あいつ、ね。
その名前に少し顔が引きつるの感じました。
なんだか若干話を盛って得意げにこのキレイどころに
ペラペラと武勇伝を話しているところが
容易に想像できてしまい、イラッとします。
まあ、このお姉さま方も近衛部隊のメンバーなのですから
情報を共有しているのかな?
内部の詳しい事情はわかりませんが、
あまり詮索されるのは好ましくありませんね。
「私なんか全然ですよ? 実際刺客の皆さんを
秒でシメたのはアレックですから」
私は首をぶんぶん振って否定しました。
実際本当にピンチを救ってくれたのはアレックでしたしね。
「あの方は別格ですよぉ。この国のレジェンドであり、ラスボスですから」
そういってメルさんが、からからと笑いました。
そして笑い終えると、一瞬真顔になって私を見つめました。
「ねぇ、ゼノア様、これも余興です。この場で手合わせしませんか?」
「しませんっ!」
私は秒で答えたのですが、
お姉さんの眼差しはどうやらそれを許してくれなさそうです。
1
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
〈短編版〉騎士団長との淫らな秘め事~箱入り王女は性的に目覚めてしまった~
二階堂まや
恋愛
王国の第三王女ルイーセは、女きょうだいばかりの環境で育ったせいで男が苦手であった。そんな彼女は王立騎士団長のウェンデと結婚するが、逞しく威風堂々とした風貌の彼ともどう接したら良いか分からず、遠慮のある関係が続いていた。
そんなある日、ルイーセは森に散歩に行き、ウェンデが放尿している姿を偶然目撃してしまう。そしてそれは、彼女にとって性の目覚めのきっかけとなってしまったのだった。
+性的に目覚めたヒロインを器の大きい旦那様(騎士団長)が全面協力して最終的にらぶえっちするというエロに振り切った作品なので、気軽にお楽しみいただければと思います。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる