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83.作戦

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けたたましいサイレンの音が、非常事態を告げると、
少女たちがシェバリエの動きを止めた。

「これは……一体……?」

モニター画像の中で、さすがにエマが困惑したような表情を浮かべる。
機体から降りてはみても、工場区の整備士たちは自分たちに目もくれずに、
なにやら忙しそうに立ち働いている。

「すいません。いったい何が……」

ユウラが整備士の一人にそう尋ねたとき、訓練場に濃紺の隊服を着た、
長身の男が入ってきた。

その制服は戦艦『White Wing』の副館長であることを示す。

「あー、ごめんなさい。
 どうやらあなたたちをほったらかしに
 してしまっていたようですね」

青年はそう言って、片手を上げてユウラたちのほうに歩いてくる。

栗色の少し長めの前髪から、同じ色の瞳をのぞかせる青年に、
ダイアナとナターシャが思わず赤面した。

そんな少女たちの秋波などには、どうやら素で気づかないタイプのようだ。

「隊服から察するに、戦艦『White Wing』の副艦長だとお見受けしますが」

ユウラがエルライドにそう尋ねた。

「そうです。私は戦艦『White Wing』の副艦長、
 エルライド・アンダーソンと申します。
 以後お見知りおきを、ユウラ・エルドレッド様」

そういってエルライドはユウラの手を取って、その甲に恭しく口づけた。
少女たちが固まる。

「えっと、いや、あのっ! 
 これはあなたがウォルフ様の婚約者だというので」

エルライドが少女たちの反応に、軽くパニックを起こす。

「その行為は臣下の礼でしょう?
 それは王族に対して行うものなのでは?」

エマがそういって、少し目を細めた。

ユウラの脳裏に、ウォルフ=オリビア女装のウォルフの構図が浮かび、
高速で目を瞬かせる。
この秘密は国家規模で死守せねばならない事柄である。

「まあ、エルライド様は紳士でいらっしゃるのね、
 女性を王族のように大切に扱ってくださるなんて」

そう言って微笑むユウラの背に、嫌な汗が伝った。

「そんなことよりも、現在の状況は?」

ユウラが話題をそらした。

「状況を説明すると、現在レッドロラインは何者かに攻撃を受けて、
 交戦中なんです」

エルライドの言葉に乙女たちの表情が険しくなった。

「これから俺たちの乗る戦艦『White Wing』は
 交戦中のN91ポイントにある工業自治区に救援に向かうんですけど、
 あなた方はどうされますか?」

エルライドが少女たちを見回すと、エマが顔を上げた。

「私たちに何かお手伝いできることはありますか?」

エマがそう問うと、エルライドがにっと笑った。

「そういって頂けると助かるな~。
 えっと、もし良かったら、シェバリエに乗っていただけませんか?」

エルライドの申し出に、一瞬少女たちが固まった。
しかし、エマだけがぷっと噴き出して、
エルライドに微笑みかけた。

「計算ずくでございましょう? 
 レイランド教官の策ですわね」

エマの言葉に、エルライドが図星を指されて赤面した。

「それでわたくしたちが乗るシェバリエは
 どちらにあるのです?」

エマの言葉に、エルライドが苦笑した。

工場区の格納庫に収められていたシェバリエが急ピッチで、
戦艦『White Wing』に運ばれてくる。

エルライドについて、少女たちも戦艦『White Wing』に乗り込んだ。

格納庫に案内された少女たちが機体を見上げる。

「最新鋭の機体、シェバリエ、Rシリーズですわね」

エマがその機体を感慨深げに見上げた。

「ええ、そうです。
 俺たちが日夜心血を注いで作り上げた傑作です」

エルライドがそういって、エマの横に立った。

「そう、そんな大切なものを、
 あなたがたは、ひよっこのわたくしたちに
 託してくださるというの?」

エマが背に流れるプラチナブロンドの髪をひとつにまとめながら言った。

「あなたがたのシェバリエの訓練は一通り見せてもらいました。
 綿密なデータを参照した上での作戦ですから、ご安心ください」

エルライドは穏やかにそう言った。
しかしエマは、エルライドの言葉に身構える。

レッド・ロラインの鬼神、ルーク・レイランドが、
自分たちの力量を織り込み済みで立てたという作戦なのだ。

しかも開発したての、最新鋭の機体を与えるという。

「そう、それで、その作戦とは?」

さすがのエマも、その体が震えてしまいそうになるのを
必死にこらえた。

「俺たちWhite Wingと艦に搭載しているシェバリエ20機が、
 現在交戦中のN91ポイントに救援に向かうように見せかけますので、
 あなたがた4機には、別動隊として反乱軍が立てこもるターミナルの
 管制塔を制圧してほしいのです」

さらっとそう言ったエルライドの言葉に、
エマが青ざめる。

「たった4機で、反乱軍の拠点を制圧しろと、
 そうおっしゃるの?」

かすかに震えるエマの手に、ユウラが手を重ねた。

「この作戦が奇襲である以上、
 機体を増やすわけにはいかないわ。
 大丈夫、必ず私がみんなを守るから」

エマがユウラの手を握り返した。

「ええ、そうね。ユウラさん
 あなたがいれば大丈夫だわ」

エマが大きく息を吐いて、
その腰にある剣を引き抜いた。

そしてその剣に少女たちが剣を重ねる。

「我ら一同、生まれたときは違えども、
 同じ時その瞬間に共に死することを願わん」

少女たちは、お互いを見つめて微笑みあった。




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