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50.シェバリエ『ラルクアンシエル』
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「そういうわけで、
お前に預けている俺のシェバリエなんだけど、
どうなった?」
オリビアは現在レッドロラインの元帥の地位にあり、
有事の際には総指揮官を任されることが多い。
ゆえにそう簡単に持ち場である戦艦『Black Princess』を
離れることが出来ないのと、
優秀な技術者である戦艦『White Wing』の副艦長
エルライド・アンダーソンが、色々いじってみたいというので、
オリビアはしばらく自身の愛機である『ラルクアンシエル』を
戦艦『White Wing』に預けていたのだ。
「どうって……。
そりゃあ、エルライドが喜々として色々弄っていたさ」
ルークが気まずそうにオリビアから視線を逸らせた。
「それでエルライドが弄ってみて、ぶっちゃけどうなんだ?
俺のシェバリエは使えそうか?」
オリビアがルークを窺う。
「あの……えっと……使えそうっていうかね。
スペックはそりゃあ、
とても素敵なことになってるんだけどさ。
あれを実戦で使うとしたら、国際法上どうなんだろうっていう、
懸念がね」
ルークが歯切れ悪そうに、もごもごと言っている。
「うん……国際法はこの際もういいよ。
多分誰も守ってないだろうし」
そう言ってオリビアが遠い目をする。
(嫌だっ! アウトローの王道を行く、
親戚付き合いがホント嫌だっ!)
その目にうっすらと涙が滲む。
「そ……そうだよね、
あの人たちが法律とか守るわけないよね。
っていうか今回は文字通りの孤軍奮闘なわけだし?
まずは生き残ることを考えなきゃね。
後のことはこっちでなんとかもみ消すわ」
そう言って、
ルークがどこか引きつった笑みを浮かべた。
◇◇◇
「こんにちは、トマト運輸のものですが、
お届け物です」
ルークが率いる戦艦『White Wing』の乗組員たちが、
運送業者を装い、
戦艦『Black Princess』に一機のシェバリエを運び込んだ。
格納庫に収納されるそれは、この戦艦の主
オリビア・レッドロラインの愛機『ラルクアンシェル』である。
白を基調としたほっそりとしたボディーに、
胴体部分には黒の鎧を纏い、関節部分が金色に輝いており、
装備した盾には、獅子に牡丹の紋章が刻まれている。
「いつ見ても美しい機体ですよね~」
エルライドがライトアップされたその機体を見て、
思わず恍惚のため息を吐いた。
「っていうかさあ、これ、
シェバリエってバレない方がいいんじゃない?
間もなくこの戦艦は敵だらけになっちゃうわけでしょ?」
ルークが真顔でエルライドにそう言った。
「え?」
エルライドがいきなりのルークの申し出に目を瞬かせた。
(全長20メートル、本体重量12トンの
この鉱物をどうやって隠せと?)
「なんかさ、ポーズとか変えたら、
オブジェと勘違いしてくれないかな?」
ルークが真剣な顔をして、
目の前のシェバリエを見つめている。
格納庫に一体、
右腕を垂直に上げ、手首を手の平を下に向けるように直角に曲げ、
反対側の腕は肘を曲げ、膝から下を床と並行に曲げ、
反対側の片足で立っているシェバリエがいる。
「ねえ! エルライド!
これでどう?」
ルークがシェバリエのコクピットから声を張り上げた。
「どうって……」
エルライドは言葉に詰まる。
この話の主人公は双子であって、
六つ子ではない。
「ちょっと安定が悪いかな?」
ルークが首を傾げた。
「これでどう?」
今度は内またに座って、
指で胸の前にハート形を作らせる。
「嫌いじゃないですけどもっ!!!」
エルライドがうっすらと顔を赤らめて、
言葉を吐き捨てた。
「う~ん、難しいな」
そう言ってルークは、
何気にシェバリエに大仏のポーズをとらせた。
「おっ? いいんじゃないですか?
ちょうど大きさも同じくらいだし」
なぜだかそのポーズが、
エルライドの職人魂に火をつけたらしい。
その夜、戦艦『Black Princess』の格納庫に突如大仏が出現した。
「すごい! すごいよ、エルライド!
とても段ボールでできているとは思えない」
ルークが感嘆の声を上げた。
「ガンプラはね、塗装が命なんスよ。
その技術を駆使すれば大仏なんて朝飯前です。
ほうら、経年劣化だってこの通り!」
エルライドが渾身のドヤ顔を披露した。
◇◇◇
「おい、お前見たか?
格納庫にさあ、なんか一体変な大仏が混じってるんだけど……」
新しく戦艦『Black Princess』に赴任してきた士官たちが、
格納庫に保管されている明らかにあやしい大仏について話している。
(あんのバカどもっ……)
戦艦『Black Princess』に乗り込んだオリビアが
拳を握りしめてプルプルと震えている。
「あっ……あれはなあ、
これから向かう先の交渉相手先に渡す贈り物だ。
しょ……商談を有利に進めるためにだな、用意したっていうか」
士官を前に苦しい言い訳をするオリビアの声が、
上ずっている。
「なんでも先方はオリエンタルなものが、好きだというのでな。
床の間にでも飾ってもらうかな」
そう言ってオリビアは不自然に口笛を吹いて、
その場を後にした。
「こんなもん貰っても、先方も困るだろうよ?
大仏を飾れる床の間のある家って、どんだけでかいんだよ?」
オリビアの背中を見送った士官が目を瞬かせる。
「なあに、この戦艦が無事に目的地にたどり着くことはないさ。
この大仏はなあ、皇女の亡骸と共に
どっかの惑星のまわりを延々と公転し続ける運命なのさ」
格納庫に、士官の高笑いが響いた。
お前に預けている俺のシェバリエなんだけど、
どうなった?」
オリビアは現在レッドロラインの元帥の地位にあり、
有事の際には総指揮官を任されることが多い。
ゆえにそう簡単に持ち場である戦艦『Black Princess』を
離れることが出来ないのと、
優秀な技術者である戦艦『White Wing』の副艦長
エルライド・アンダーソンが、色々いじってみたいというので、
オリビアはしばらく自身の愛機である『ラルクアンシエル』を
戦艦『White Wing』に預けていたのだ。
「どうって……。
そりゃあ、エルライドが喜々として色々弄っていたさ」
ルークが気まずそうにオリビアから視線を逸らせた。
「それでエルライドが弄ってみて、ぶっちゃけどうなんだ?
俺のシェバリエは使えそうか?」
オリビアがルークを窺う。
「あの……えっと……使えそうっていうかね。
スペックはそりゃあ、
とても素敵なことになってるんだけどさ。
あれを実戦で使うとしたら、国際法上どうなんだろうっていう、
懸念がね」
ルークが歯切れ悪そうに、もごもごと言っている。
「うん……国際法はこの際もういいよ。
多分誰も守ってないだろうし」
そう言ってオリビアが遠い目をする。
(嫌だっ! アウトローの王道を行く、
親戚付き合いがホント嫌だっ!)
その目にうっすらと涙が滲む。
「そ……そうだよね、
あの人たちが法律とか守るわけないよね。
っていうか今回は文字通りの孤軍奮闘なわけだし?
まずは生き残ることを考えなきゃね。
後のことはこっちでなんとかもみ消すわ」
そう言って、
ルークがどこか引きつった笑みを浮かべた。
◇◇◇
「こんにちは、トマト運輸のものですが、
お届け物です」
ルークが率いる戦艦『White Wing』の乗組員たちが、
運送業者を装い、
戦艦『Black Princess』に一機のシェバリエを運び込んだ。
格納庫に収納されるそれは、この戦艦の主
オリビア・レッドロラインの愛機『ラルクアンシェル』である。
白を基調としたほっそりとしたボディーに、
胴体部分には黒の鎧を纏い、関節部分が金色に輝いており、
装備した盾には、獅子に牡丹の紋章が刻まれている。
「いつ見ても美しい機体ですよね~」
エルライドがライトアップされたその機体を見て、
思わず恍惚のため息を吐いた。
「っていうかさあ、これ、
シェバリエってバレない方がいいんじゃない?
間もなくこの戦艦は敵だらけになっちゃうわけでしょ?」
ルークが真顔でエルライドにそう言った。
「え?」
エルライドがいきなりのルークの申し出に目を瞬かせた。
(全長20メートル、本体重量12トンの
この鉱物をどうやって隠せと?)
「なんかさ、ポーズとか変えたら、
オブジェと勘違いしてくれないかな?」
ルークが真剣な顔をして、
目の前のシェバリエを見つめている。
格納庫に一体、
右腕を垂直に上げ、手首を手の平を下に向けるように直角に曲げ、
反対側の腕は肘を曲げ、膝から下を床と並行に曲げ、
反対側の片足で立っているシェバリエがいる。
「ねえ! エルライド!
これでどう?」
ルークがシェバリエのコクピットから声を張り上げた。
「どうって……」
エルライドは言葉に詰まる。
この話の主人公は双子であって、
六つ子ではない。
「ちょっと安定が悪いかな?」
ルークが首を傾げた。
「これでどう?」
今度は内またに座って、
指で胸の前にハート形を作らせる。
「嫌いじゃないですけどもっ!!!」
エルライドがうっすらと顔を赤らめて、
言葉を吐き捨てた。
「う~ん、難しいな」
そう言ってルークは、
何気にシェバリエに大仏のポーズをとらせた。
「おっ? いいんじゃないですか?
ちょうど大きさも同じくらいだし」
なぜだかそのポーズが、
エルライドの職人魂に火をつけたらしい。
その夜、戦艦『Black Princess』の格納庫に突如大仏が出現した。
「すごい! すごいよ、エルライド!
とても段ボールでできているとは思えない」
ルークが感嘆の声を上げた。
「ガンプラはね、塗装が命なんスよ。
その技術を駆使すれば大仏なんて朝飯前です。
ほうら、経年劣化だってこの通り!」
エルライドが渾身のドヤ顔を披露した。
◇◇◇
「おい、お前見たか?
格納庫にさあ、なんか一体変な大仏が混じってるんだけど……」
新しく戦艦『Black Princess』に赴任してきた士官たちが、
格納庫に保管されている明らかにあやしい大仏について話している。
(あんのバカどもっ……)
戦艦『Black Princess』に乗り込んだオリビアが
拳を握りしめてプルプルと震えている。
「あっ……あれはなあ、
これから向かう先の交渉相手先に渡す贈り物だ。
しょ……商談を有利に進めるためにだな、用意したっていうか」
士官を前に苦しい言い訳をするオリビアの声が、
上ずっている。
「なんでも先方はオリエンタルなものが、好きだというのでな。
床の間にでも飾ってもらうかな」
そう言ってオリビアは不自然に口笛を吹いて、
その場を後にした。
「こんなもん貰っても、先方も困るだろうよ?
大仏を飾れる床の間のある家って、どんだけでかいんだよ?」
オリビアの背中を見送った士官が目を瞬かせる。
「なあに、この戦艦が無事に目的地にたどり着くことはないさ。
この大仏はなあ、皇女の亡骸と共に
どっかの惑星のまわりを延々と公転し続ける運命なのさ」
格納庫に、士官の高笑いが響いた。
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