17 / 118
17.男は黙ってショートケーキ!定番がいいの。
しおりを挟む
「はあ、君のおかげでひどくプライドが傷ついてしまった。
私はこの国の王太子だ。
私を傷つけること、
それはすなわちレッドロライン王家の威信を
傷つけることと同様の意味を持つんじゃないのか?」
エドガーが畳み掛ける。
ユウラは悔し気に唇を噛みしめた。
背後で赤服の乙女たちの瞳孔が開き、
そこはかとない殺気が漂う。
(ち……違う! 私のバカっ!
私が言いたいのはそうではなくて……)
エドガー・レッドロラインは内心頭を抱え込みたい衝動に駆られる。
「ああ、エドガー様、こちらにおられましたか」
そのときルーク・レイランドが何食わぬ顔で近づいてきた。
「エドガー様、あの……チャック開いてますよ?」
ルークが小声でエドガーに囁いて寄越す。
「〇×△っ!!!」
エドガーが声にならない悲鳴を上げる。
狼狽えたエドガーが、うっかりと挟んでしまったようだ。
そんなエドガーに赤服の乙女たちが、
クスクスと笑いを忍ばせる。
エドガーは羞恥に顔を赤らめ、
泣き出さんばかりになっている。
「そっ、それで貴様はこの私に一体何の用だ!」
上ずった声をあげる。
「カルシア様のご伝言で、
至急王宮に戻られるようにとのことです」
ルークがにっこりと、エドガーに微笑んだ。
這う這うの体でその場を立ち去ったエドガーを見送って、
ルークがユウラに向き直った。
「大丈夫? ユウラ・エルドレッドさん」
鳶色の髪に、同じ色の瞳。
美少年のような容姿に、白の隊長服。
「あなたは入学式の日にお会いした……」
ユウラの記憶が繋がった。
「ルーク・レイランドと申します。
以後お見知りおきを」
ルークがおどけて見せる。
その名前にユウラが戦慄を覚える。
「ルーク・レイランド……。
レッドロラインの鬼神……」
ユウラの唇が、その通り名を呟いた。
ルークは苦笑する。
「そんな大層なものではないよ。
ただのシェバリエ乗りだ」
ルークはそういって、
中庭に鎮座するシェバリエに目をやった。
レッドロラインの有する莫大な宇宙資源を巡って、
近隣諸国との小競り合いは絶えない。
2年前にも、小国の連合がレッドロラインに攻めてきた際、
初陣であったにもかかわらずルーク・レイランドは
エースパイロットとして、華々しい戦功をあげた。
その強さゆえに人々は口々にルークのことを『鬼神』と呼ぶ。
「このアカデミーに入学したということは、
君もシェバリエ乗りになりたいの?」
ルークがその鳶色の瞳にユウラを映す。
「ええ、なりたいです。
シェバリエを乗りこなし、この国を守りたい」
ユウラが憧れを込めた眼差しで、
ルークを真っすぐに見据えた。
「いい目をしているよね、君。
真っすぐで、淀みがなくて、潔い」
ルークはふと、遠目に去っていくエドガーを見やり、
少し目を細めた。
「しかし、それゆえに少し危なっかしいね。
国を守ることも大事だけど、
ちゃんと自分の命も大切にしなよ?」
そう言ってルークはひらひらと手を振って、背を向けた。
そんなルークの背中をきつい眼差しで見つめたのは、
ユウラではなくエマだった。
エマはそっと軍服の上着の上から、
首にかけたロザリオに触れる。
「エマさん?」
ユウラが気遣うようにエマを窺うと、
「ごめんなさい。なんでもないの」
エマが曖昧に笑った。
◇◇◇
「それでね、リズったら、
もう上級生のお兄様からロザリオを授かったのですって」
カフェでパフェを軽く平らげながら、ダイアナが口火を切った。
そういえば、アカデミーの正門前やら、エントランスやらで、
やたらと上級生が下級生を呼び止めていたな、とユウラは記憶を辿る。
「ロザリオを授かるっていうことは、
つまりその方から指導をして貰うってことよね」
エマが少し考え込むように、コーヒーを口に運ぶ。
「指導って、もう、エマちゃんたら、
そんな色気のな言い方をして~」
ナターシャが、軽く眉根を寄せる。
「クリスマスやバレンタインデーと同じで、
アカデミーに伝わる恋人たちのロマンチックな
祭典でしょ~?」
むーっと口を尖らせる。
「ナターシャ、
今すぐキリシタンの皆さんに土下座して詫びなさい」
エマが半眼になる。
「ふぇぇん」
ナターシャが情けない声を上げると、
「まあまあ」
ユウラが二人の間に割って入る。
「っていうことはよ?
その方が自分より優れた方でなければいけないってことよね」
エマが考え込むように、片方の手で頬杖をついた。
「エマさんより、実力が上の男かぁ……」
乙女たちが考え込む。
そして無言になる。
「そんな人、この世に存在する?」
ダイアナが目を瞬かせた。
刹那、カフェの自動ドアが開き、
白の隊長服を身に纏った二人の男が入ってきた。
「でね、ここのザッハトルテが
乙なんだよ。君に分かる?
ザッハトルテの奥の深さがさ、
そりゃあ、もうマリアナ海溝より深いんだよ?
ねえ、ウォルフ?」
「分かるわけねぇだろ? ザッハトルテは深海魚かよ?
んなもんよりな、男は黙ってショートケーキだろうがっ!
イチゴの乗ったショートケーキ! 定番がいいのっ!」
その姿を一瞥したユウラが、
口に含んだ紅茶を一瞬噴き出しそうになる。
ウォルフ・フォン・アルフォードと、
ルーク・レイランドである。
「あっ、ユウラ」
ウォルフが目を瞬かせた。
当然の成り行きといったごとくに、テーブルをつなげて
ウォルフとルークを交えての茶会は続く。
私はこの国の王太子だ。
私を傷つけること、
それはすなわちレッドロライン王家の威信を
傷つけることと同様の意味を持つんじゃないのか?」
エドガーが畳み掛ける。
ユウラは悔し気に唇を噛みしめた。
背後で赤服の乙女たちの瞳孔が開き、
そこはかとない殺気が漂う。
(ち……違う! 私のバカっ!
私が言いたいのはそうではなくて……)
エドガー・レッドロラインは内心頭を抱え込みたい衝動に駆られる。
「ああ、エドガー様、こちらにおられましたか」
そのときルーク・レイランドが何食わぬ顔で近づいてきた。
「エドガー様、あの……チャック開いてますよ?」
ルークが小声でエドガーに囁いて寄越す。
「〇×△っ!!!」
エドガーが声にならない悲鳴を上げる。
狼狽えたエドガーが、うっかりと挟んでしまったようだ。
そんなエドガーに赤服の乙女たちが、
クスクスと笑いを忍ばせる。
エドガーは羞恥に顔を赤らめ、
泣き出さんばかりになっている。
「そっ、それで貴様はこの私に一体何の用だ!」
上ずった声をあげる。
「カルシア様のご伝言で、
至急王宮に戻られるようにとのことです」
ルークがにっこりと、エドガーに微笑んだ。
這う這うの体でその場を立ち去ったエドガーを見送って、
ルークがユウラに向き直った。
「大丈夫? ユウラ・エルドレッドさん」
鳶色の髪に、同じ色の瞳。
美少年のような容姿に、白の隊長服。
「あなたは入学式の日にお会いした……」
ユウラの記憶が繋がった。
「ルーク・レイランドと申します。
以後お見知りおきを」
ルークがおどけて見せる。
その名前にユウラが戦慄を覚える。
「ルーク・レイランド……。
レッドロラインの鬼神……」
ユウラの唇が、その通り名を呟いた。
ルークは苦笑する。
「そんな大層なものではないよ。
ただのシェバリエ乗りだ」
ルークはそういって、
中庭に鎮座するシェバリエに目をやった。
レッドロラインの有する莫大な宇宙資源を巡って、
近隣諸国との小競り合いは絶えない。
2年前にも、小国の連合がレッドロラインに攻めてきた際、
初陣であったにもかかわらずルーク・レイランドは
エースパイロットとして、華々しい戦功をあげた。
その強さゆえに人々は口々にルークのことを『鬼神』と呼ぶ。
「このアカデミーに入学したということは、
君もシェバリエ乗りになりたいの?」
ルークがその鳶色の瞳にユウラを映す。
「ええ、なりたいです。
シェバリエを乗りこなし、この国を守りたい」
ユウラが憧れを込めた眼差しで、
ルークを真っすぐに見据えた。
「いい目をしているよね、君。
真っすぐで、淀みがなくて、潔い」
ルークはふと、遠目に去っていくエドガーを見やり、
少し目を細めた。
「しかし、それゆえに少し危なっかしいね。
国を守ることも大事だけど、
ちゃんと自分の命も大切にしなよ?」
そう言ってルークはひらひらと手を振って、背を向けた。
そんなルークの背中をきつい眼差しで見つめたのは、
ユウラではなくエマだった。
エマはそっと軍服の上着の上から、
首にかけたロザリオに触れる。
「エマさん?」
ユウラが気遣うようにエマを窺うと、
「ごめんなさい。なんでもないの」
エマが曖昧に笑った。
◇◇◇
「それでね、リズったら、
もう上級生のお兄様からロザリオを授かったのですって」
カフェでパフェを軽く平らげながら、ダイアナが口火を切った。
そういえば、アカデミーの正門前やら、エントランスやらで、
やたらと上級生が下級生を呼び止めていたな、とユウラは記憶を辿る。
「ロザリオを授かるっていうことは、
つまりその方から指導をして貰うってことよね」
エマが少し考え込むように、コーヒーを口に運ぶ。
「指導って、もう、エマちゃんたら、
そんな色気のな言い方をして~」
ナターシャが、軽く眉根を寄せる。
「クリスマスやバレンタインデーと同じで、
アカデミーに伝わる恋人たちのロマンチックな
祭典でしょ~?」
むーっと口を尖らせる。
「ナターシャ、
今すぐキリシタンの皆さんに土下座して詫びなさい」
エマが半眼になる。
「ふぇぇん」
ナターシャが情けない声を上げると、
「まあまあ」
ユウラが二人の間に割って入る。
「っていうことはよ?
その方が自分より優れた方でなければいけないってことよね」
エマが考え込むように、片方の手で頬杖をついた。
「エマさんより、実力が上の男かぁ……」
乙女たちが考え込む。
そして無言になる。
「そんな人、この世に存在する?」
ダイアナが目を瞬かせた。
刹那、カフェの自動ドアが開き、
白の隊長服を身に纏った二人の男が入ってきた。
「でね、ここのザッハトルテが
乙なんだよ。君に分かる?
ザッハトルテの奥の深さがさ、
そりゃあ、もうマリアナ海溝より深いんだよ?
ねえ、ウォルフ?」
「分かるわけねぇだろ? ザッハトルテは深海魚かよ?
んなもんよりな、男は黙ってショートケーキだろうがっ!
イチゴの乗ったショートケーキ! 定番がいいのっ!」
その姿を一瞥したユウラが、
口に含んだ紅茶を一瞬噴き出しそうになる。
ウォルフ・フォン・アルフォードと、
ルーク・レイランドである。
「あっ、ユウラ」
ウォルフが目を瞬かせた。
当然の成り行きといったごとくに、テーブルをつなげて
ウォルフとルークを交えての茶会は続く。
11
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる