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6.恋の特訓
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ウォルフの住まう屋敷は、王都の中心部に位置する王宮と
行政府の目と鼻の先にある。
王都の一等地に貴族や富豪が豪奢な居を構える住宅地が広がっており、
その一角にウォルフの屋敷、アルフォード家がある。
アルフォード家の敷地内には本館と別館が、
それぞれ対をなしてモダンでシンメトリーな空間を演出している。
この婚約を機に、ウォルフは今まで生活していた本館を出て、
ユウラと別館で居を構えることになった。
車が別館のエントランスの前の車止めに停まると、
ウォルフはユウラの手を取った。
「ようこそ、我が家へ。
婚約者殿」
そういってユウラを屋敷の中へとエスコートする。
「おかえりなさいませ、ウォルフ様、ユウラ様」
別館付きの使用人たちが、総出で二人を迎えた。
「今夜はもう遅い、両親への挨拶は明日にして、
今日はゆっくりしよう」
ウォルフは伸びをして、屋敷を見回す。
「今日からお前がこの別館の女主だ。
好きに采配を振るえ」
ウォルフはまるでこの日を待ち望んでいたかのように、
満足げにユウラにそう言った。
「采配を振るえと言われても……」
戸惑うユウラに、専属メイドが会釈した。
「それと俺の部屋の隣がお前の部屋だから。
コイツの荷物部屋に運んでやって」
ウォルフが使用人たちにそう指示をする。
エントランスの中央から回り階段を上がると、
ウォルフは部屋の前で、先ほど購入したナイトウェアの包みを
ユウラに渡した。
「お前は入浴が終わったらそれを着て、俺の部屋に来い!
いいな、逃げるなよ?」
ウォルフ・フォン・アルフォードの闇色の瞳が、
野生の光を帯びる。
「にっ……逃げないわよ。
敵前逃亡なんて……卑怯な真似……、
し……しないんだからっ!」
ユウラが赤面して、ウォルフにそう叫ぶと、
背を向けているウォルフが小さくガッツポーズを決めた。
婚約者にナイトウェアという名のユニフォームを手渡され、
ユウラ・エルドレッドの恋の特訓の火ぶたが今、切って落とされた。
「に……逃げたい。
今すぐに全力疾走でこの場所から逃げ出したい」
ウォルフの姿が見えなくなったところで、
ユウラが廊下にへたり込む。
「チートな婚約者の魔王感が半端ないんですけど……」
軽く涙ぐむユウラを専属メイドが支えて
バスルームに連行する。
ユウラはバスタブに身を沈め、考え込む。
「はあ? 特訓て何???」
湯舟には薔薇の花が浮かべられ、
芳香が仄かに浴室に漂う。
その足元にはキャンドルの火がゆらと揺れているが、
ユウラの視界には入ってこない。
「一体何をするの?」
ユウラは頭を抱え込む。
「そもそも、誰かを好きになるって、
特訓をしてどうこうなるわけ?」
ユウラの脳裏に様々な疑問符が過る。
ユウラは恋というものを、今まで経験したことがない。
花も盛りの16歳。
周りの友人たちは恋の話で大いに盛り上がり、
カフェテリアではコーヒー一杯で何時間でも、
そのことについて語り合えるらしいのだが、
ユウラには全く理解ができない。
そのくせ、下手に何かを質問しようものなら、
『ユウラ様には、すでに最高に素敵な
フィアンセがいらっしゃいますのに』
と決まってうっとりとした眼差しで、
こちらを見つめてくる。
「まったく意味が分からないんですけどぉぉぉ?」
ユウラがバスタブで雄たけびを上げるのを、
専属メイドたちが微笑ましく見守っている。
『どうやらお前の頭は6歳児のまんま、
ちっとも成長しとらんらしいな』
先刻ウォルフに言われたことが、ユウラの脳裏に過る。
「失礼なっ!」
ユウラのこめかみに青筋が走る。
ユウラは瞳を閉じて、ウォルフを思い浮かべた。
(ただ、さっきはちょっとドキドキしちゃったかも……)
少し長めの前髪から覗く、あの闇色の双眸に見つめられると、
なぜだか胸が騒めく。
「ないないないないないない」
ユウラは自身の危険思想を打ち消すために、
ブンブンと頭を横に振る。
「思い出せ! 私っ!
あいつは魔王だぞ? しっかりするんだっ!」
ユウラは自分で自分の頭を叩く。
しかし、追憶はなおも続く。
『ずっとお前のことが好きだった』
ユウラはその言葉とともに降りてきた
ウォルフの口付けを思い出した。
(うっわーーーー!)
ユウラの赤面が最高潮に達している。
そしてその人差し指が、ウォルフの触れた唇をなぞる。
ウォルフの口付けは、その言葉とは裏腹にひどく優しい。
温かで、繊細で、心から溢れてしまった、
たくさんの想いが滴っている。
(頭がボーっとしている)
その口付けに酔わない女性は、きっといないとユウラは思う。
ユウラはウォルフに渡されたナイトウェアを身に着けて、
その部屋のドアを叩いた。
「へえ、可愛いじゃん」
そう言って、ウォルフが微笑んだ。
ウォルフも色違いの自身と同じナイトウェアを身に着けている。
前髪を下ろし、濃紺のギンガムチェックのナイトウェアを着たウォルフに、
ユウラはドギマギとしてしまう。
ユウラは赤面して下を向いた。
「何? ドキドキしてるの?」
ウォルフが耳元に囁いた。
ユウラはナイトウェアの裾をきゅっと握りしめた。
「ほう、良い傾向だ」
そう言ってウォルフは、満足そうに微笑んだ。
そしてベッドに足を延ばし、その膝をポンポンと叩いてみせる。
「ここに来て座れ」
ウォルフの言葉にユウラは赤面し、その場に固まる。
行政府の目と鼻の先にある。
王都の一等地に貴族や富豪が豪奢な居を構える住宅地が広がっており、
その一角にウォルフの屋敷、アルフォード家がある。
アルフォード家の敷地内には本館と別館が、
それぞれ対をなしてモダンでシンメトリーな空間を演出している。
この婚約を機に、ウォルフは今まで生活していた本館を出て、
ユウラと別館で居を構えることになった。
車が別館のエントランスの前の車止めに停まると、
ウォルフはユウラの手を取った。
「ようこそ、我が家へ。
婚約者殿」
そういってユウラを屋敷の中へとエスコートする。
「おかえりなさいませ、ウォルフ様、ユウラ様」
別館付きの使用人たちが、総出で二人を迎えた。
「今夜はもう遅い、両親への挨拶は明日にして、
今日はゆっくりしよう」
ウォルフは伸びをして、屋敷を見回す。
「今日からお前がこの別館の女主だ。
好きに采配を振るえ」
ウォルフはまるでこの日を待ち望んでいたかのように、
満足げにユウラにそう言った。
「采配を振るえと言われても……」
戸惑うユウラに、専属メイドが会釈した。
「それと俺の部屋の隣がお前の部屋だから。
コイツの荷物部屋に運んでやって」
ウォルフが使用人たちにそう指示をする。
エントランスの中央から回り階段を上がると、
ウォルフは部屋の前で、先ほど購入したナイトウェアの包みを
ユウラに渡した。
「お前は入浴が終わったらそれを着て、俺の部屋に来い!
いいな、逃げるなよ?」
ウォルフ・フォン・アルフォードの闇色の瞳が、
野生の光を帯びる。
「にっ……逃げないわよ。
敵前逃亡なんて……卑怯な真似……、
し……しないんだからっ!」
ユウラが赤面して、ウォルフにそう叫ぶと、
背を向けているウォルフが小さくガッツポーズを決めた。
婚約者にナイトウェアという名のユニフォームを手渡され、
ユウラ・エルドレッドの恋の特訓の火ぶたが今、切って落とされた。
「に……逃げたい。
今すぐに全力疾走でこの場所から逃げ出したい」
ウォルフの姿が見えなくなったところで、
ユウラが廊下にへたり込む。
「チートな婚約者の魔王感が半端ないんですけど……」
軽く涙ぐむユウラを専属メイドが支えて
バスルームに連行する。
ユウラはバスタブに身を沈め、考え込む。
「はあ? 特訓て何???」
湯舟には薔薇の花が浮かべられ、
芳香が仄かに浴室に漂う。
その足元にはキャンドルの火がゆらと揺れているが、
ユウラの視界には入ってこない。
「一体何をするの?」
ユウラは頭を抱え込む。
「そもそも、誰かを好きになるって、
特訓をしてどうこうなるわけ?」
ユウラの脳裏に様々な疑問符が過る。
ユウラは恋というものを、今まで経験したことがない。
花も盛りの16歳。
周りの友人たちは恋の話で大いに盛り上がり、
カフェテリアではコーヒー一杯で何時間でも、
そのことについて語り合えるらしいのだが、
ユウラには全く理解ができない。
そのくせ、下手に何かを質問しようものなら、
『ユウラ様には、すでに最高に素敵な
フィアンセがいらっしゃいますのに』
と決まってうっとりとした眼差しで、
こちらを見つめてくる。
「まったく意味が分からないんですけどぉぉぉ?」
ユウラがバスタブで雄たけびを上げるのを、
専属メイドたちが微笑ましく見守っている。
『どうやらお前の頭は6歳児のまんま、
ちっとも成長しとらんらしいな』
先刻ウォルフに言われたことが、ユウラの脳裏に過る。
「失礼なっ!」
ユウラのこめかみに青筋が走る。
ユウラは瞳を閉じて、ウォルフを思い浮かべた。
(ただ、さっきはちょっとドキドキしちゃったかも……)
少し長めの前髪から覗く、あの闇色の双眸に見つめられると、
なぜだか胸が騒めく。
「ないないないないないない」
ユウラは自身の危険思想を打ち消すために、
ブンブンと頭を横に振る。
「思い出せ! 私っ!
あいつは魔王だぞ? しっかりするんだっ!」
ユウラは自分で自分の頭を叩く。
しかし、追憶はなおも続く。
『ずっとお前のことが好きだった』
ユウラはその言葉とともに降りてきた
ウォルフの口付けを思い出した。
(うっわーーーー!)
ユウラの赤面が最高潮に達している。
そしてその人差し指が、ウォルフの触れた唇をなぞる。
ウォルフの口付けは、その言葉とは裏腹にひどく優しい。
温かで、繊細で、心から溢れてしまった、
たくさんの想いが滴っている。
(頭がボーっとしている)
その口付けに酔わない女性は、きっといないとユウラは思う。
ユウラはウォルフに渡されたナイトウェアを身に着けて、
その部屋のドアを叩いた。
「へえ、可愛いじゃん」
そう言って、ウォルフが微笑んだ。
ウォルフも色違いの自身と同じナイトウェアを身に着けている。
前髪を下ろし、濃紺のギンガムチェックのナイトウェアを着たウォルフに、
ユウラはドギマギとしてしまう。
ユウラは赤面して下を向いた。
「何? ドキドキしてるの?」
ウォルフが耳元に囁いた。
ユウラはナイトウェアの裾をきゅっと握りしめた。
「ほう、良い傾向だ」
そう言ってウォルフは、満足そうに微笑んだ。
そしてベッドに足を延ばし、その膝をポンポンと叩いてみせる。
「ここに来て座れ」
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