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第十話 クラウド、唐揚げを食う紫龍に欲情する!
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◇ ◇ ◇
「おう、お帰り―、初出勤どうだったよ」
キッチンではクラウドが、
三角巾とエプロンを着用の上、
夕飯の支度に忙しく立ち働いていた。
「なんかすげぇいい職場でさあ、
すっかりみんなと打ち解けちまったよ」
そして紫龍はじっとテーブルの上に置かれた、
から揚げの皿を物欲しげに見つめた。
成り行きとはいえ、部下二百人を今日一日で絞めたのだ。
気分は最高とはいえ、かなりのエネルギーを消費し、
腹がマックス状態に空いていたのである。
「つまみ食いはだめだぞ。もうちょっとで夕飯だからな」
そういって皿を持っていこうとした、
クラウドを紫龍が切なく見つめた。
(ひとつだけ、ちょうだい……くぅ~ん♡)
とでも言いた気な愛玩動物のごとき、愛くるしい視線に、
クラウドはすでに持病となりつつある不整脈を起こした。
「ほ……欲しいの?」
クラウドの問いに、紫龍はこくんと頷いた。
「ちっ、しゃあねえな、一つだけだぞ?」
「やったー」
クラウドが指でつまんで紫龍の口元に唐揚げを持っていくと、
紫龍はぱくりとクラウドの指を口に含んだ。
「ひっ……」
柔らかな紫龍の唇の感触に
クラウドの全身を電流が走った。
(こ……こいつ、エロっ……)
身体に込み上げる衝動を振り切るように、
クラウドは紫龍に背を向けた。
「夕飯先に食っといて……、俺、疲れたからちょっと休む」
そう言い置いて二階の寝室に向かうクラウドを見送る紫龍の顔が、
不安気に曇った。
(俺、何かあいつの気に障るようなことをしたんだろうか?)
クラウドとの同居が始まってから、
ときどきこんなふうに、クラウドはふいに席を外すことがあった。
そんなとき、クラウドは決まって思いつめたような暗い表情をする。
それがなんだか自分の所為であるかのような気がして、
紫龍はひどく不安になるのである。
心配して様子を見に行っても、
クラウドは寝室に鍵をかけて閉じこもったまま決して出てこようとはしない。
紫龍は重い気のままに、唐揚げをつついた。
(うまい……)
考え事をしていたせいか、
紫龍はうっかりとクラウドの分も、から揚げを平らげてしまっていた。
(やっべ……)
焦った紫龍はクラウドの為に何かを作ろうと冷蔵庫を開けた。
◇ ◇ ◇
クラウドはカーテンを引いた薄暗い部屋のベッドの片隅に蹲っていた。
どこから入ったのか、
羽虫が間接照明のライトの周りを微かな羽音を立てて飛んでいた。
羽虫が自身の命も顧みず、ただ一途に光に向かって飛ぶさまを、
クラウドはなんだか哀れに思った。どんなに光に恋い焦がれようと、
決して羽虫は光を掴むことはできずに、切なさの中に死んでいく。
そんな羽虫にクラウドは自身を重ねた。
(こんなのは、単なる生理現象だ。気にする必要ねぇし)
必死に自分に言い聞かせてみるが、
それでも息が弾んだ。
報われぬ衝動の虚しさに、熱い涙が零れて仕方なかった。
「ふっ……紫……龍……好き……だ。し…りゅ……」
張りつめたそこに手を伸ばすと、
どこか白けた視界の向こうに、プライドも理性も溶けてゆき、
解放を求める強烈な欲求にすべてを呑みこまれてしまう。
嗚咽交じりに何度もその名を呼んで、クラウドは果てた。
のぼりつめた欲求の高みから、いきなり放り出されて、
クラウドはしばらくの間、浮かされた熱の余韻の狭間を漂った。
吐き出されたその残骸を拭いながら、
性とは限りなく死に近い行為なのかもしれないとクラウドは思った。
一度の射精で何億という自身の分身が死んでゆくのだ。
愛する人に受け入れられることもなく、その想いに気づかれることもなく。
(なんか俺、かなり煮詰まってる……)
クラウドは頼りなく、膝を抱えた。
「おう、お帰り―、初出勤どうだったよ」
キッチンではクラウドが、
三角巾とエプロンを着用の上、
夕飯の支度に忙しく立ち働いていた。
「なんかすげぇいい職場でさあ、
すっかりみんなと打ち解けちまったよ」
そして紫龍はじっとテーブルの上に置かれた、
から揚げの皿を物欲しげに見つめた。
成り行きとはいえ、部下二百人を今日一日で絞めたのだ。
気分は最高とはいえ、かなりのエネルギーを消費し、
腹がマックス状態に空いていたのである。
「つまみ食いはだめだぞ。もうちょっとで夕飯だからな」
そういって皿を持っていこうとした、
クラウドを紫龍が切なく見つめた。
(ひとつだけ、ちょうだい……くぅ~ん♡)
とでも言いた気な愛玩動物のごとき、愛くるしい視線に、
クラウドはすでに持病となりつつある不整脈を起こした。
「ほ……欲しいの?」
クラウドの問いに、紫龍はこくんと頷いた。
「ちっ、しゃあねえな、一つだけだぞ?」
「やったー」
クラウドが指でつまんで紫龍の口元に唐揚げを持っていくと、
紫龍はぱくりとクラウドの指を口に含んだ。
「ひっ……」
柔らかな紫龍の唇の感触に
クラウドの全身を電流が走った。
(こ……こいつ、エロっ……)
身体に込み上げる衝動を振り切るように、
クラウドは紫龍に背を向けた。
「夕飯先に食っといて……、俺、疲れたからちょっと休む」
そう言い置いて二階の寝室に向かうクラウドを見送る紫龍の顔が、
不安気に曇った。
(俺、何かあいつの気に障るようなことをしたんだろうか?)
クラウドとの同居が始まってから、
ときどきこんなふうに、クラウドはふいに席を外すことがあった。
そんなとき、クラウドは決まって思いつめたような暗い表情をする。
それがなんだか自分の所為であるかのような気がして、
紫龍はひどく不安になるのである。
心配して様子を見に行っても、
クラウドは寝室に鍵をかけて閉じこもったまま決して出てこようとはしない。
紫龍は重い気のままに、唐揚げをつついた。
(うまい……)
考え事をしていたせいか、
紫龍はうっかりとクラウドの分も、から揚げを平らげてしまっていた。
(やっべ……)
焦った紫龍はクラウドの為に何かを作ろうと冷蔵庫を開けた。
◇ ◇ ◇
クラウドはカーテンを引いた薄暗い部屋のベッドの片隅に蹲っていた。
どこから入ったのか、
羽虫が間接照明のライトの周りを微かな羽音を立てて飛んでいた。
羽虫が自身の命も顧みず、ただ一途に光に向かって飛ぶさまを、
クラウドはなんだか哀れに思った。どんなに光に恋い焦がれようと、
決して羽虫は光を掴むことはできずに、切なさの中に死んでいく。
そんな羽虫にクラウドは自身を重ねた。
(こんなのは、単なる生理現象だ。気にする必要ねぇし)
必死に自分に言い聞かせてみるが、
それでも息が弾んだ。
報われぬ衝動の虚しさに、熱い涙が零れて仕方なかった。
「ふっ……紫……龍……好き……だ。し…りゅ……」
張りつめたそこに手を伸ばすと、
どこか白けた視界の向こうに、プライドも理性も溶けてゆき、
解放を求める強烈な欲求にすべてを呑みこまれてしまう。
嗚咽交じりに何度もその名を呼んで、クラウドは果てた。
のぼりつめた欲求の高みから、いきなり放り出されて、
クラウドはしばらくの間、浮かされた熱の余韻の狭間を漂った。
吐き出されたその残骸を拭いながら、
性とは限りなく死に近い行為なのかもしれないとクラウドは思った。
一度の射精で何億という自身の分身が死んでゆくのだ。
愛する人に受け入れられることもなく、その想いに気づかれることもなく。
(なんか俺、かなり煮詰まってる……)
クラウドは頼りなく、膝を抱えた。
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