ロスムエルトスの報復〜ライター月島楓の事件簿2

加来 史吾兎

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第四章 亡霊の記憶

第11話 事情聴取

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「じゃあ、そのヨーイチって動画配信者を追ってここに来たってわけね」

 T県警の堀内ほりうち刑事が手帳に書き込みながら言った。五十代の神経質そうな顔つきの刑事だ。

 廃村の土の中から男性の遺体が二体発見された。

 一体は昨日フロントですれ違った男だった。たしか、清水と言っていたか。もう一体の身元は不明だが、おそらく太田洋一のものと思われる。
 服装が動画に一瞬映っていたものと似ていた。二人とも苦悶の表情を浮かべていて、思わず目を背けたくなった。

 死体の身元の一人が招待客だったこともあり、楓と小野瀬は潮汐へ戻って聴取をされた。おそらくこれから社長の黒田やスタッフも聞き取りを受けるだろう。

 聴取がひと段落し、楓は坪川へ電話をした。小野瀬も職場の弓槻へ連絡するという。
「おう。どうだ、リゾートは?」
「それが……」
 楓は坪川へ事の経緯を説明した。

「二体も死体を見つけた? そりゃまた大変なことになっちまったな」
「まだ確認は取れてないんですが、一人は太田洋一さんじゃないかと思うんです。少し見えた服装が動画の中で映り込んでいたものと似てましたから」
「廃村に行ってから連絡が取れなくなったんだし、十分考えられるな。だが、訳が判らないことばかりだ」

 二人はなぜ殺されて埋められたのだろうか。
「それにしても。悪かったな。せっかくのリゾートだったのに」
「いえ……」

 リゾートも廃村も坪川からきた話なので、何とも答えづらい。
 ただ、確認のため死体を見たことのショックは大きかった。

 それに。楓は刑事から伝わってきた疑惑の目を思い出す。人の来ない廃村で見つかった死体と、そこに連日行った第一発見者の男女。
 いくら理由があろうと、警察が疑うのは無理もない。スコップには小野瀬の指紋も付いている。

 他の宿泊客は帰ったが、楓たちはまだ聴取が残っているということで、残ることとなった。黒田が取り計らってくれて、もうしばらく潮汐に滞在できることとなった。しかし、今は到底リゾートの気分にはなれない。

 部屋に戻ってきた。
「小野瀬さん。ごめんなさい。私のせいで」
 小野瀬に向かって、消えそうな声で呟いた。
「月島さんのせいじゃありませんよ」
「でも、私が小野瀬さんを廃村に連れてったから……それに私が財布を落とさなければこんなことにならなかったのに。小野瀬さんにたくさん迷惑を掛けてしまって、私……」

 いつの間にか涙が溢れていた。小野瀬の前で泣いてばかりな気がした。
 小野瀬を想うほど、うまくいかない自分の不甲斐なさを感じてしまう。
 その時、小野瀬がそっと楓を肩に手を置いた。

「月島さんのせいじゃありません。一緒に行くと言ったのは僕です。それがあったから死体が早期に見つかることになったんですし。それに……」
 小野瀬は一度言葉を呑んだ。
「それに、悪いのは犯人です。こんな酷い事をした犯人を、赦せません」


 時計の針だけが動いていた。
 椅子に座っているうちに、泣き腫らした目も少し治まってきた。
 部屋の電話が鳴り、小野瀬が出た。
「どうやら、身元が判明したみたいで、改めて話をしたいということでした」
 受話器を置きながら小野瀬は言った。

 ロビーへ戻る。社長の黒田やスタッフの佐久間と立花もいた。
「遺体のポケットに入っていた財布の中の身分証から、二人の身元が判明しました」
 堀内が説明を続けた。
「一人は清水義人さん、年齢は五十六歳。こちらの宿泊客だったそうですね」
「はい、間違いありません」
 黒田が答える。「職業は飲食店の経営者ということですね」という問いにも「はい」と答えた。

「もう一人は太田洋一さん、三十八歳。こちらは第一発見者のお二人によると、職業はトレーダーで、副業でライター業をやっていたということで間違いないですか?」
「はい」
 楓が返事をした。

「飲食店の経営者とトレーダーということで、今のところ二人の接点はまるで判っておりません。この中で彼らと共通の知人という方は、いないですよね」
 誰も答えなかった。

「清水さんの招待を決めたのは、社長の黒田さんで間違いないですか? 彼と面識は」
「直接はありませんでした」
「ではなぜ招待を?」
「清水さんが経営していたダイニングバーをメディアで紹介したことがあるんです。スモークの料理を取り扱ったお店です。それで、清水さんからお礼をいただきまして。なかなかお会いする機会が設けられなかったので、今回のプレオープンイベントに招待させていただきました」

「こちらに来てからはお会いしていなかったんですか」
「清水様がお越しになられた時、私は夜のパーティーの打合せと準備をしておりました。午後三時頃までは館内を行き来してました。スタッフたちがその姿は見ていると思います。フロントにいた佐久間から清水様がお越しになったことも聞いたのですが。その時には部屋にはいらっしゃいませんでした」

「佐久間さん、間違いないですね」
「はい。一時半過ぎだったかと思いますが、清水様は特に何も言わずに外出されました」
「清水さんがここに来たのは?」
「十二時半頃、だったと思います」
「私たちもロビーで清水さんを見かけて、すれ違いました。清水さんが黒田社長に会いたいと言っていたのも聞いてます」
「そうなると、清水さんは到着して一時間ほどで外出したということですね」

 堀内が頭を掻く。
「死体の手足には拘束されたような痕がありました。これから検視を行って正確な死亡推定時刻が出しますが、死亡推定時刻は昨晩の深夜頃ではないかと思われます。

 そうすると亡くなるまでの間、清水さんはどこかに監禁されていたということでしょう。また、遺体の状況から太田さんの方が先に亡くなっていたと思われます」

 犯行の推定時刻が深夜だったため、それぞれのアリバイは確認が取れていないようだ。アリバイが成立したのはフロントの防犯カメラに映っていた佐久間のみであった。
 駐車場など建物内部以外の防犯カメラの設置が業者の都合で遅れているようで、窓から出れば誰でも通用口のカメラに映らずに外に出ることができた状況にあった。

「ちなみに外の防犯カメラの設置が遅れているのを知っているのは?」
「スタッフは皆知っております。正式なオープンには間に合わせる予定でした」

 結局、司法解剖の結果も出ないため、それぞれ連絡先を伝えて帰宅をしても良いという指示が出た。司法解剖の結果を受け、また後日聴取を受ける必要があるだろう。
 帰り支度をまとめて、部屋を出る。

 フロントにはスタッフと黒田の姿があった。
「この度は申し訳ございませんでした」
 黒田とスタッフたちが深々と頭を下げる。
「そんな。謝らないといけないのは私の方です」
 自分が廃村に行って死体を見つけてしまったから、こんな事態になったのだ。

「そんなことはございません。清水様は大切な招待客のお一人でした。それが、こんな事態になってしまい。私の責任です」
「黒田さんのせいじゃ……ないですよ」
「月島さんの言う通りです。悪いのは、清水さんと太田さんをこんな形で殺害した犯人です」

 小野瀬の言葉に黒田は静かに頭を下げた。
 敷地を出て送迎バスに乗り込み、窓から潮汐の建物を見る。

 到着した時は輝いて見えたリゾート施設が、今の楓には暗く影を落とした牢獄に見えていた。


  *


 リゾート施設、潮汐を振り返り《亡霊》は思う。

 ようやく、この場所での計画は終わった。

 予定外の事態も起きたが、まだ止まるわけにはいかない。

 まだ、終わったわけではない。

 罪人はまだ残っている。

 最も赦されざる、あの男が。


  *
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