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 それからごたごたしているうちに、入学から早くも半年が経った。普通に課題も授業も多いし、やっぱり学生は楽じゃないなと思わされる半年間だった。前世の記憶は大して役立たないのが非常に腹立たしい。魔法理論から導き出される詠唱魔法展開の速度上昇に関する講義とか、歴史的観点から学ぶ神と人間の関係に関する講義とかだともはやなんの役にも立たない。カケラも分からない。ごめんよ、前世で物理とか意味分からんって言って。魔法理論の方が全然無理だったわ。まぁ、算学などでは確かに役立たないこともないが、なんせこの世界、算学の限界が二次方程式なのだからあまりに簡単すぎてそれはそれで授業が眠くて仕方ないのだ。今更掛け算やらされてるの本当に意味がわからない。ご都合主義の飛び級制度が切実にほしい。


 ちなみにそうして学生生活を送っているうちにヒロインと残りの攻略対象も発見した。ヒロインはリリィ・オズワール男爵令嬢。ステータスを見るまでもなく分かった、キラキラエフェクトが見えそうなくらいヒロイン感が強い激かわガールだった。話しかけたら「ずっと前から話してみたかったんですっ!」とにこにこ笑顔で手を握ってくれた。うーんかわいい。優勝。弟といい勝負するくらいかわいい。


 攻略対象はあと一人だけだったらしい。これから転入生とかで増える可能性はなくもないが、一旦は全部で4人だということにしている。


「……噂をすれば、か」


しゅっ、とかひゅっ、とかいう素振りの音。ふらふらしているうちに彼を見つけてしまったらしい。中庭になんて行かなきゃよかったな、なんて言っても後の祭りだ。うーん辛い。


「あ! ジャネット様!」


向こうも気づいたらしく、ぽいっと木刀を置いて彼は私の方に駆けてきた。……全然来ないでいただいていいんですけれど。攻略キャラに関わると死亡フラグ立つんで。気づかなくていいんですけど。なんて思っていても仕方がないのでとりあえずお淑やかに手を振り返す。偉いぞ私。


「ご機嫌よう、オズワルト様。稽古をしていらしたところに邪魔をしてしまいましたね」

「そんなことないよ、久しぶりだもん! 最近全然会わないから寂しかったし!」

「そう言っていただけると嬉しいですね」


……まぁ会わないように避けてましたからね。むしろ私は会いたくなかったよ。私じゃなくてリリィ様に絡みに行きな? 私は弟以外ノーセンキューな悪役令嬢予定だったモブなので。


「もうっ、お世辞じゃないって。 それに、家名じゃなくて名前のアリステアって呼んでって言ったのに!」

「すみません、異性をそのように下の名前で呼ぶ機会が少ないので……」


このワンコ系騎士志望からどうやって自然に離れようかなどと考えていると、ピコンピコンピコンピコンと連続して、もはや耳慣れた電子音が鳴った。フラグの通知だ。妙にうるさいな、と彼の方を見れば、頭の上に黒いフラグが。


「えっ、黒?」

「黒? 何が黒いの?」

「あっ、すいません独り言です」


……うん、やっぱり黒い。なんならおどろおどろしい黒霧のエフェクトまでついてる。なによこれ。初めて見たんですけど。赤通り越してどす黒いフラグとか絶対厄介じゃんかこれ。


 まぁ危険だということが分かっていても見たくなるのが人というもので、それは私もそうだった。……まー、このままじゃ絶対彼も危ないしね! いくら避けたい相手だからといってこれから割と危ない目に合うということが分かっているのに放っておくのは流石に寝覚めが悪いしね。ということで内容を見る。


 ……ほぉ? 重大イベント? これはもしかしなくても乙女ゲー関係のやつだ。続きに書いてあったのはこうだ、ヒロインが条件を満たした場合、アリステア・オズワルトは聖女の祈りにより一命を取り留める。条件を満たさなかった場合、このあと招集される討伐任務で皆を庇って亡くなる。【条件】アリステア・オズワルトの好感度が72%を超えていること。…………いやどんな乙女ゲームだよ。攻略対象をイベントで殺していくってとんだバッドエンドだな。フラレるとかじゃないのかよ。そもそも好感度が72%って結構きつくないだろうか。まだ物語の中盤くらいだろうに。これを見る限り私のデッドエンド(予定)も全然標準だったのかもしれない。まじふざけんな運営連中。死ネタ好きの集まりが作っただろこのゲーム。

「すみません、オズワルト様。髪にゴミがついていらっしゃるのでしゃがんでいただけませんか?」

「うん」


こんな重大そうなフラグも折れるのかな、まぁ∞って書いてあったからできそうだけども、とそれを鷲掴めば、やっぱり手の中で粉々に砕けた。バリン、と鈍い音がしたので間違いない。すごいなフラグ破壊∞。重大イベントすら壊せちゃうのね。まあこれでもう大丈夫だろう。今までフラグ破壊に成功した人でフラグ通りの悲惨な目にあってしまった人は知っている限りではいなかった。


「取れました」

「ほんと? ありがとっ」


では、用事があるので……とそこですすっとお暇させていただいた。向こうで別の騎士候補生が彼を呼んでいたのでちょうどいい感じで別れられた。グッジョブ、誰か知らないけど。

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