悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます

水無瀬流那

文字の大きさ
上 下
3 / 6

2

しおりを挟む
そして翌朝。この10歳の体はたぶん弱っちいかと思われるので、昨晩は動き回るのは断念してごはんだけ食べて早く寝たのだ。ちなみに怪我で倒れていたせいでそこまで美味しくもない病院食みたいなおかゆもどきが出てきた。泣きたい。それも味付けは一切なかった。とてもとても梅干しが恋しくなった。死亡エンドさえ回避できたら絶対にふりかけとお茶漬けを作ってやると決心した。なるほど、転生者がご飯ばっかり改革していくのも分かったわ、他の何より耐えられないからだ。まぁ、それはともかく、私にはやるべきことがまだまだ山積みだ。


「とりあえず探索だよねこういうのは」


やるべきことは3つ。一つはもちろんヒロインの特定。近寄らない、会ったときは友好的に、そして絶対にいじめない。悪役令嬢転生の三ヶ条だと個人的には思っている。これで処刑されたらどんな原作補正だよって話でしょ。そしてもう一つは攻略対象の方の特定。これも大事。関わるが最後罪をなすりつけられるんだよ。知ってる、定番だよね。


 そしてなにより今の最優先はこれ。フラグ破壊レベル∞とかいう意味不スキルの内容特定だ。そしてこれはこの部屋の中でじっとしていても始まらない。実際、昨日色々寝る前に試してみたけど(手を振ってみたり、スキル名を唱えてみたり)何も起こらなかった。だからこそ探索なのだ。


「よぉし」


そしてドアノブに手をかけて外に出た。頭に包帯をつけているので外で掃除をしていたメイドには目を丸くさせて驚かれたが、何も気づいていない無邪気な遊び盛りの幼女のふりをしてぱたぱたと走って逃げた。確信犯である。うん、申し訳ないけど背に腹は代えられないんだ。


「……ぜんっぜん何も見つからないんだけど」


ステータスボードに関しては昨日寝る前に軽く試したところ、出てこい、消えろ、とか頭の中で意識して唱えると出したり消したりできた。なるほど、最初に出てきたのはあのムカつく神の多少のリップサービスといったところか。


 と、いうことは、このフラグスキル、ステータスボードと同じでなにか発動条件があるとか? ……ん? そうだったらだいぶ無理ゲーじゃない? いやもともとそうだったけども。使えないスキルとか意味なさすぎるじゃん。


「おねーさま?」


と、毒づいていたところで後ろから鈴を転がしたような舌っ足らずの可愛らしい声が。弟だ。


「あぁ、カイル。少しお散歩に行っていたの。怪我したからそのリハビリってところよ」


ふわっふわの栗色の髪がくるくるぴょんぴょん跳ねていて、目は私よりも深い青で宝石みたいにキラキラしている。え、私の弟マジ可愛い。2歳違うだけでこうも変わるかってくらい可愛い。ショタが前の世界で人気だった理由が分かった気がする。これはかわいい。世界を救えるくらいにはかわいい。前世を思い出す前はこの子があまりに可愛がられていてすごく嫉妬していて毛嫌いしていたみたいだけど全然そんなこと欠片も思うことなくとにかく可愛い。貢ぎたいくらい。そりゃ両親も可愛がるわ、かわいいもん。ちょっと転生してきて良かったかもって思えたくらいに嬉しい。……ん? それにしてもなんで毛嫌いするところまでいったんだろ。


 と、考えたところで一つの考えに至る。


「あー、やっぱり……」

「どうしたの、おねーさま?」

「なんでもないのよ、少し思い出したことがあっただけ」


ステータスボードを確認したら分かったことがある。思ったとおりだった。……なるほど血が繋がってなかったのか。うん納得。義理の弟だってこと知らされてなかったけど、ある日それを知っていじめに繋がって断罪ルートってところか。ありがちだね。


「おねーさまと一緒にお散歩行ってもいい?」

「もちろんいいわよ」


そう言ったところで、ピコン、と電子音が頭の中で鳴った。……え? ふと周りを見回すと、弟の頭の上に黄色いフラグが。ちっちゃい三角のカラーガードみたいなやつ。……ん? フラグ!?


 つい声が出てしまいそうになったのを手で抑える。……もしかしてこれ? フラグ破壊レベル∞って……


 じいっと見つめていると、フラグがぽわぽわ上下に揺れ動き、ピコン、と再び軽快な音を立てた。そして今度はステータスボードの仲間のような文字の書かれた薄い板がフラグの上に更に現れる。――え、階段から転げ落ちて全治1ヶ月の大怪我? この可愛い可愛い弟に? 大怪我? そんなのさせてたまるか。


「ちょ、カイル、動かないでね」

「ん、わかった。でもなんで?」

「なんでも。ごめんね、ちょっと待ってね」


でもこのフラグってどうやったら取り除けるの? 私が抱き上げて階段を降りるとか? フラグ破壊っていうくらいだからなにかできるとは思うんだけど。


 うーん、と腕組みで考え込むけど結論は出ず。とりあえず、フラグに触れた。そう、つんと。人差し指で軽く触れた。


「うわぉ」


すると漫画さながらのエフェクトとともに、フラグが散り散りに砕け散った。砕けたというより爆散と言ったほうが正しいかもしれない。……え、破壊って物理? 物理的に壊すってことだったの?


 転生者が貰うスキルの割に常識外れで意味がわからない、役立つかもわからないスキルだな。それも物理的破壊ってゴリラかよ。純粋な身体強化とかの実質的ゴリラのほうがマシだったかもしれないと思うくらい使い道が謎だ。


 そんなやさぐれた気持ちで心のなかで毒を吐きつつ、弟の手を取って玄関へと一緒に歩いていく。


「なんだったの、おねーさま?」

「……んーと、あーっとね、そう! 虫! 虫が頭についてたのよ!」

「なぁんだ、虫ぐらいなら自分でとったのに。でもありがと、おねーさま」


……まぁ、可愛い弟の笑顔が見れたならよしとするか。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】みそっかす転生王女の婚活

佐倉えび
恋愛
私は幼い頃の言動から変わり者と蔑まれ、他国からも自国からも結婚の申し込みのない、みそっかす王女と呼ばれている。旨味のない小国の第二王女であり、見目もイマイチな上にすでに十九歳という王女としては行き遅れ。残り物感が半端ない。自分のことながらペットショップで売れ残っている仔犬という名の成犬を見たときのような気分になる。 兄はそんな私を厄介払いとばかりに嫁がせようと、今日も婚活パーティーを主催する(適当に) もう、この国での婚活なんて無理じゃないのかと思い始めたとき、私の目の前に現れたのは―― ※小説家になろう様でも掲載しています。

その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。

ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい! …確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!? *小説家になろう様でも投稿しています

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

悪役令嬢、魔法使いになる

Na20
恋愛
前世で病弱だった私は死んだ。 私は死ぬ間際に願った。 もしも生まれ変われるのなら、健康で丈夫な身体がほしいと。それに魔法が使えたらいいのにと。 そしてその願いは叶えられた。 小説に登場する悪役令嬢として。 本来婚約者になる王子などこれっぽっちも興味はない。せっかく手に入れた二度目の人生。私は好きなように生きるのだ。 私、魔法使いになります! ※ご都合主義、設定ゆるいです ※小説家になろう様にも掲載しています

婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される

白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?

【短編】転生悪役令嬢は、負けヒーローを勝たせたい!

夕立悠理
恋愛
シアノ・メルシャン公爵令嬢には、前世の記憶がある。前世の記憶によると、この世界はロマンス小説の世界で、シアノは悪役令嬢だった。 そんなシアノは、婚約者兼、最推しの負けヒーローであるイグニス殿下を勝ちヒーローにするべく、奮闘するが……。 ※心の声がうるさい転生悪役令嬢×彼女に恋した王子様 ※小説家になろう様にも掲載しています

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

処理中です...