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フェルシア王国・陰謀編

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「一人じゃないー? 何それ、解析ミス?」

「……だったらよかったんだけどね。他の情報は全て鮮明。製作者だけなのよ、おかしいのはね」

そう話しながらも、私はなんともいえない奇妙さに包まれていた。背筋に冷たいものを当てられるような、それなのに振り向いても何もなかったみたいな。そんな恐怖を纏った気持ち悪さ。何が起こっているのか、てんで全く分からない。

 ……一体、どういうことなの。

 魔石を複数人で作るなんて、不可能だ。魔力同士が魔石の中で反発を起こして、最後には魔石自体が崩れて消えてしまう。

 そのはずなのに。

 流れ込んできた情報のうち、製作者のところにあった名前はディアナ・フェルシアだけではなかった。もう一人、何かがいる。それも、上からぐちゃぐちゃに塗りつぶされたみたいに名前があることは分かってもそれが誰なのかは分からない。こんな事例、見たことも聞いたこともない。

「……とりあえず、製作者以外を纏めていこっか」

「そう、ね。じゃあ、言っていくわね。……製作日は今日からちょうど3日前。一応、属性は分かってるだろうけど闇。術式の発動条件は規定の詠唱をすることで、魔力がなくても使えるようにしてあるみたい」

「規定の詠唱は?」

「『我らの敵に制裁を』。……こういうのって普通は魔法の詠唱を流用するものだけれど、平民でも覚えられるように、メモしても目的が分からないようにしたかったんでしょうね」

クーデターなどの際によく使われる手法だ。確実に相手を、だれがやったのか分からずじまいに仕留めたいときに使う方法の一つである。

 ……一体ディアナ様は何がしたいの? 調べれば調べるほど、なぜ彼女があんな紋章を刻んだのかが尚更謎になってくる。

「自分が殺したと露見するような状態でトールを、その……やっぱり本当に殺そうとした、って何か、その……」

「違和感があるわよね。権力争いなら暗殺が定石でしょうに、なんでこんな簡単に自分が犯人だと匂わせるようなことをするのかが分からないもの」

……考えられるとしたら、もう一人の魔石製作者がディアナ様と違う目的を持って行動しているという可能性、か。

 ……そんなことをして得をする人って誰?

 ディアナ様の実家は確実に違うから、あり得るとしたら他の家。ディアナ様を蹴落として彼女の家を落とさんとする他の公爵家なんかならあり得る。

 ……けれど、闇属性の持ち主、それもこんな魔石の作成に関われるほどの、そしてそのうえにたくさんの魔導書を読み漁ってきた私とアリアすらも知らないような魔法が使える人間がそう都合よくいるだろうか。

「真相は闇の中、か」

「まぁ、今は保留にするしかないでしょうね。……とりあえず、もう寝ましょうか」

これ以上考えてわかることはないだろう。なら、明日正妃に会うのに備える方がよほど賢明だろう。

「そうだね……」

おやすみ、とアリアが自分のベッドに潜り込んだのを確認して、部屋の光魔法を解除する。そして、自分もベッドに倒れ込んで、すっかり冴えてしまった目をぐっと閉じ、あの奇妙な魔石と正妃のことを頭から追い出すように枕に顔をうずめた。


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