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フェルシア王国・陰謀編

領主の家

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「ようこそいらっしゃいました、本日はごゆるりと旅の疲れをお癒やしください」

「突然の訪問にもかかわらず、このように歓待してもらえて助かったよ。グリマルシェ侯爵」

領主の男が冷や汗をかきながらトールに深く頭を下げて、部屋へと案内してくれた。

 急遽のことだったのでこの人数分の宿は取れなかったらしく、その代わりに領主の館に泊めてもらうことになったそう。白塗りの壁に青い屋根、高級感の溢れる石の床、そして極めつけには天井にそれはそれは豪華なシャンデリア。肥沃な土地のおかげで農業が盛んであるグリマルシェの領主が建てたというだけあって、これでもかというほどに贅沢に装飾品を飾り付けられているこの美しい館は、見た目だけなら城に匹敵するほどだろう。

 が、今のこの状況ではそれらを見ても全くもって心は弾まなかった。

 例の黒い魔石を抱えトールの一歩後ろを歩く私。その隣でフードをぐっと深く被って俯いているアリア。明らかに作り物の貼り付けた笑みで領主と話すトール。

 あの襲撃のときから全く変わらぬそのぴりついた空気にグリマルシェ侯爵はひくついた笑みになってしまうほど。

 流石に悪いと思った私達は、案内された木の扉に辿り着いてからすぐさま、空気を読んで部屋の中へ早々に入ってくれたトールに続いて中へ入り、彼が最も信用している腹心のロイだけがその後に中へ入ってきたのを見届けてから、侯爵に挨拶をして他のお付き達の案内を頼み、扉を閉めた。

「ロイ、扉の前へ立っていてくれ。他の人に聞かれるわけにはいかないからな」

「了解しました、お任せください」

彼はその返事を聞いてから私達を手招きし、玄関と繋がった部屋にあるテーブルを囲んで座らせる。

「あっち、右側の部屋を二人で使って。グリマルシェ侯爵がそっちが寝室だって言ってたから。たぶんベッドも2人なら寝れるくらいの大きさはあるだろうしね」

「トールと護衛の彼はどうするの? 寝室ってそこだけなんじゃ……」

「左隣の部屋が居間らしくてね、ソファーはあるらしいからそこで寝ようかな」

結構大きいのを置いてるって言ってたし、大丈夫だから安心して、とのことらしい。外聞的にもそうするのが最善だ、と言われてしまったので、大人しく彼の言うことを聞くことにした。彼も疲れているだろうし、ベッドを使ってほしかったのだけれど。別の部屋を取ったらどうか、と提案はしてみたが、それはこれから話す事情的によくないらしい。せめて出入り口が同じで、ある程度近くにいてもらえないと困るんだと。

「風よ、我らを囲む壁を作り音を遮れ」

素早い詠唱をして彼は盗聴防止をしてしまう。話の本腰に入ろう、ということだろう。私とアリアはぴんと背筋を伸ばす。

「さて、じゃあ夕食の時間までに話し終えたいからね。そろそろ話そうか」

「ええ、分かった」

「うん、何でも聞くよ」

彼はそれからぽつり、ぽつりと話し始めた。

 彼が命を狙われる、その理由を。


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