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リリーシェ王国・婚約編

起死回生

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 あれからどれほど経っただろうか。アイミヤが部屋に戻ってくることはなく、私は依然としてくだんの黒い鳥籠の中にいる。

 こうして魔力が封じられてさえいなければ、余裕でこの黒い鳥籠からは出れるのだけれど。……困ったことだ。

 黒い鳥籠は高純度の闇属性の魔石から作られたものらしいので、闇属性を破ることのできる光属性の魔法でぶち壊すことができる。騎士みたいな腕力があれば力技でもいけるのだろうけれど、私の腕では無理だった。

「これさえ外せたらね……」

術式の分析を続けているものの、何重にも魔法がかかっているせいで中々腕輪が外せない。解除できないようにするために阻害用の術式が魔力封じの術式の上に15段階ほどで掛けられていた。

 が、魔力がほとんど使えないせいで休み休みでしか作業できないのもあって、数時間経ったのに今さっき3段階目を解除したところだ。これでは解除できる見込みは薄い。段階を突破していくとともに術式も複雑化していくようなのだから。

「防音結界張られてるし、どうしようもないか……」

叫んでも助けを呼ぶことなんてできやしない。

 ここにいても死ぬことはないんだから、奪われるのなんていつものことなんだから、仕方ないんだ。まだましなんだ。……諦めるしかないんだ。そう考えたらじんわりと浮かんできた涙を袖で擦って、とうとう座りこんでしまったときだった。

「……これって、まさか」

床につこうとした手に当たった、歯が欠けてぼろぼろの櫛。先程アイミヤが私に落としてきたものだ。元々は魔石が沢山嵌まった綺麗なものだったそれに一つだけ、爪先ほどの魔石が嵌っていたのだ。

 魔石は高濃度の魔力で精製された魔力結晶の総称だ。普通の宝石よりも美しい見た目をしているので主に装飾品として使われることが多いのだけれど、魔石は魔力結晶というだけあって作られた際に込められた属性の魔力を取り出して使うこともできるのだ。これを使うとものすごく疲れてしまい一時間ほど動けなくなってしまうので、実用性が低いとされてほとんど普及していないが。

 この櫛はお祖母様、私と同じ魔眼の持ち主である彼女から贈られたものだ。護身用、という意味も込められているのもあって、嵌っているこの青い魔石は全属性だ。どの属性の魔法でも使うことができる。

「壊すのは無理、ね」

全属性の優れものだとはいえ、この鳥籠や腕輪が壊せるほどの出力はない。飾り用の小さなものだから、精々一度魔法を使えるかな、といったところだ。

 扉を壊してみる? ……いや、悪手だね。出来なくはないだろうけど、外に誰かいたとして、アイミヤの味方であったら助けてもらえないだろうし、そもそもこの腕輪の魔法を解除してもらうにはそれなりに腕ききの魔術師が要る。

 転移魔法で鳥籠ごとどこかに移動する? ……でも、出力がそこまでいくか怪しいしなぁ…… この屋敷内すら思い通りに移動できるか微妙だな。

「……トールに連絡する、とかなら……」

トールは客室に案内される、という話だったはず。客室は二階の奥にあるから、魔力消費と無駄な動きを最小限に留めれば、発動できなくもないだろう。

 トールなら、魔法を送るだけで異変に気づいてくれるはず。

『風よ、空翔ける鳥のように舞い踊り、トール・フェルシアの元へ行き給え』

魔石から魔力を抽出し、詠唱に乗せて放つ。魔力の塊で出来た風の鳥が部屋を出ていくのが見えた。ぎりぎり魔力が足りたらしい。

 ほっと安心して溜息をつくと、妙な重怠さに襲われた。風邪をひいたときのような異様な感じ。

 あ、駄目だな。

 魔石の魔力を使った影響がもう出たらしい。

 強烈な眠気と疲れに従うがままに、私は床に倒れ込んだ。


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