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リリーシェ王国・婚約編
相談
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「アイミヤのことがね、怖いのよ」
「あぁ、あの妹さんね…… トールのことも取るんじゃないかってこと?」
「ええ……」
考えれば考えるほど、もやもやして、恐怖が増大していく。アイミヤが私のものを奪っていくところがフラッシュバックして脳裏に張り付いて離れてくれない。だから、ますますどうすればいいのか分からなくなっていく。まるでそれは、終わりのない真っ暗な迷路を彷徨っているかのよう。
そんな私のことを、アリアは呆れたように軽く笑った。
「なーんだ。ちゃんと好きなんじゃない」
「……え? なにが……」
「トールのこと」
意味が分からずに目を瞬かせた私に、アリアはずいと近寄ってきて、言い聞かせるように言葉を続けた。
「だって、取られなくないんでしょ?」
それは、好きだってことじゃないの? とアリアは私に問う。
「それは……」
「私、知ってるよ。ティアが、あの子に何を取られても、何も言わなくなったこと。好きなものをなくしていったこと。初めは、駄目とか嫌とか言ってるの見てたけど、最近は全く言わなくなったよね」
「まぁ、どうせ取られちゃうしね……」
言ったって無駄で、どうしようもないから、好きなものを作らないようにしただけだ。
「なのに、そんな中で取られるのが怖いって思うってことは、トールのことが好きなんじゃないのかな」
「違うわよ、今諦めてしまえば何も起こらずに済むから…… それだけ、それだけよ……」
好きになる前に、予防線を引こうとしているだけだ。
まだ。まだ、好きじゃない。
そのはずだから。
「嘘だ。じゃあ考えてみてよ。トールと妹さんが手を繋いで、仲良さそうにしているところを」
言われた通りに、思い浮かべた。あの、優しい瞳がアイミヤを見つめているところを。好きだよ、と囁いているところを。
「……やだ」
意図していないのに、言葉が勝手に零れてしまう。
あぁ、好きなんだ、と気づくのと、それは同時だった。
押し込めて、なかったことにして、まだ好きじゃないと言い聞かせていた恋心を、はっきりと知覚した。
きっと、ずっと好きだったのだ。気づいていなかっただけで。優しくしてくれたトールが好きだったのだ。
気づけば手をきつく握りしめて、手のひらに爪の跡がくっきりと残ってしまうくらい、想像だけで嫉妬してしまうほどには。
「ほら、分かったでしょー」
「……分かっちゃったら、諦められなくなっちゃうじゃないの」
「諦める必要なんてないでしょ。それに、婚約者がいる相手を諦めきれないほどの一途なトールならきっと妹さんを好きになることはないと思うしー?」
もしそんなことしたら私がトールのことを殴って説教してきてあげるよ、とにっこり笑うアリア。つい女の子らしい見た目に反した言動に笑ってしまう。
「吹っ切れた? というか、腹は括れた?」
「ええ。ありがとう。もう、たぶん、大丈夫よ」
伝えよう。私も好きだと。
そう決めたら、心は驚くほど羽のように軽くなって、不安と恐怖は消えはしなかったもののすごく小さくなっていた。
「あぁ、あの妹さんね…… トールのことも取るんじゃないかってこと?」
「ええ……」
考えれば考えるほど、もやもやして、恐怖が増大していく。アイミヤが私のものを奪っていくところがフラッシュバックして脳裏に張り付いて離れてくれない。だから、ますますどうすればいいのか分からなくなっていく。まるでそれは、終わりのない真っ暗な迷路を彷徨っているかのよう。
そんな私のことを、アリアは呆れたように軽く笑った。
「なーんだ。ちゃんと好きなんじゃない」
「……え? なにが……」
「トールのこと」
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「だって、取られなくないんでしょ?」
それは、好きだってことじゃないの? とアリアは私に問う。
「それは……」
「私、知ってるよ。ティアが、あの子に何を取られても、何も言わなくなったこと。好きなものをなくしていったこと。初めは、駄目とか嫌とか言ってるの見てたけど、最近は全く言わなくなったよね」
「まぁ、どうせ取られちゃうしね……」
言ったって無駄で、どうしようもないから、好きなものを作らないようにしただけだ。
「なのに、そんな中で取られるのが怖いって思うってことは、トールのことが好きなんじゃないのかな」
「違うわよ、今諦めてしまえば何も起こらずに済むから…… それだけ、それだけよ……」
好きになる前に、予防線を引こうとしているだけだ。
まだ。まだ、好きじゃない。
そのはずだから。
「嘘だ。じゃあ考えてみてよ。トールと妹さんが手を繋いで、仲良さそうにしているところを」
言われた通りに、思い浮かべた。あの、優しい瞳がアイミヤを見つめているところを。好きだよ、と囁いているところを。
「……やだ」
意図していないのに、言葉が勝手に零れてしまう。
あぁ、好きなんだ、と気づくのと、それは同時だった。
押し込めて、なかったことにして、まだ好きじゃないと言い聞かせていた恋心を、はっきりと知覚した。
きっと、ずっと好きだったのだ。気づいていなかっただけで。優しくしてくれたトールが好きだったのだ。
気づけば手をきつく握りしめて、手のひらに爪の跡がくっきりと残ってしまうくらい、想像だけで嫉妬してしまうほどには。
「ほら、分かったでしょー」
「……分かっちゃったら、諦められなくなっちゃうじゃないの」
「諦める必要なんてないでしょ。それに、婚約者がいる相手を諦めきれないほどの一途なトールならきっと妹さんを好きになることはないと思うしー?」
もしそんなことしたら私がトールのことを殴って説教してきてあげるよ、とにっこり笑うアリア。つい女の子らしい見た目に反した言動に笑ってしまう。
「吹っ切れた? というか、腹は括れた?」
「ええ。ありがとう。もう、たぶん、大丈夫よ」
伝えよう。私も好きだと。
そう決めたら、心は驚くほど羽のように軽くなって、不安と恐怖は消えはしなかったもののすごく小さくなっていた。
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