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プロローグ 孤独な魔女
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「観念しなさい、死の森の魔女。ここで終わりよ」
シスター服の金髪碧眼の聖女様が、お連れを引き連れて私に向かい言い放った。私を五年に渡り追い続けた、健気で無邪気な、勘違いの思い込みで無意識に人を傷つける、優しい優しい彼女が。
「私を殺すの?」
「当たり前でしょう。あなたのような悪い魔女は、わたしたちで退治しなければなりませんから」
彼女らの瞳の中にある色は、憎しみと怒りと軽蔑と――
昔から見慣れた色だった。
もう、だいぶ生きた。死のうとして、死ねなかった。何百年とずっと独りで、苦しかった。
悪いことなんて何もしてないのに、どうして憎まれないといけないのだろう。少し、長く生きただけだと言うのに。
「じゃあ、殺すというのなら、最期にこれだけは誓って言うわ」
聖女の手から、一振りの白銀の剣を奪い取る。聖女の剣と呼ばれるそれは、じゅわ、と肉の焼ける匂いと、じくじくと引きつるような痛みを私に与える。私を持ち主と認めていない反発から生まれるものだ。不快感に眉を顰めながら、自らの鳩尾にそれを突き立てた。
「は……? 何を、」
「私は何もしていない」
「私は誰も、誰一人、殺していない……っ!」
力が抜けていくのが分かった。熱い熱い血がどくどくと流れ落ちていっている。口の中は血の味に満ちている。視界は段々と狭まっていく。刻々と近づいてくる死の予感。怖さもあったが、それ以上に安心感が大きかった。もう、苦しまないで済むのだから。やっと、開放されるのだ。独りから。
最期に、力を振り絞って自らを魔法の炎で包んだ。
せめて死に様は美しく在りたい。きっと、ここで死んだら研究材料にされる。そんな酷い一生にはしたくないのだ。
それならいっそ、全て焼き尽くしてしまおう。
そう、考えたからだ。
轟々と燃え盛る赤色が目の前に広がって、私の視界を覆い尽くしたところで、安心したからだろうか。目の前がすぅっとブラックアウトしていく。
……あぁ、次はどうか、独りではないように。誰かが私を愛して、見てくれますように。
小さな小さな、数百年生きたはずの大魔女には似つかわしくないほど健気な願い事を一つ、胸の中に抱いて、忌み嫌われた死の森の魔女の、長かった生はここで幕を閉じた。
ただ一人、彼女の本当の名を知る弟子を残して。
シスター服の金髪碧眼の聖女様が、お連れを引き連れて私に向かい言い放った。私を五年に渡り追い続けた、健気で無邪気な、勘違いの思い込みで無意識に人を傷つける、優しい優しい彼女が。
「私を殺すの?」
「当たり前でしょう。あなたのような悪い魔女は、わたしたちで退治しなければなりませんから」
彼女らの瞳の中にある色は、憎しみと怒りと軽蔑と――
昔から見慣れた色だった。
もう、だいぶ生きた。死のうとして、死ねなかった。何百年とずっと独りで、苦しかった。
悪いことなんて何もしてないのに、どうして憎まれないといけないのだろう。少し、長く生きただけだと言うのに。
「じゃあ、殺すというのなら、最期にこれだけは誓って言うわ」
聖女の手から、一振りの白銀の剣を奪い取る。聖女の剣と呼ばれるそれは、じゅわ、と肉の焼ける匂いと、じくじくと引きつるような痛みを私に与える。私を持ち主と認めていない反発から生まれるものだ。不快感に眉を顰めながら、自らの鳩尾にそれを突き立てた。
「は……? 何を、」
「私は何もしていない」
「私は誰も、誰一人、殺していない……っ!」
力が抜けていくのが分かった。熱い熱い血がどくどくと流れ落ちていっている。口の中は血の味に満ちている。視界は段々と狭まっていく。刻々と近づいてくる死の予感。怖さもあったが、それ以上に安心感が大きかった。もう、苦しまないで済むのだから。やっと、開放されるのだ。独りから。
最期に、力を振り絞って自らを魔法の炎で包んだ。
せめて死に様は美しく在りたい。きっと、ここで死んだら研究材料にされる。そんな酷い一生にはしたくないのだ。
それならいっそ、全て焼き尽くしてしまおう。
そう、考えたからだ。
轟々と燃え盛る赤色が目の前に広がって、私の視界を覆い尽くしたところで、安心したからだろうか。目の前がすぅっとブラックアウトしていく。
……あぁ、次はどうか、独りではないように。誰かが私を愛して、見てくれますように。
小さな小さな、数百年生きたはずの大魔女には似つかわしくないほど健気な願い事を一つ、胸の中に抱いて、忌み嫌われた死の森の魔女の、長かった生はここで幕を閉じた。
ただ一人、彼女の本当の名を知る弟子を残して。
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