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番外編(この章は、これより上の本編とは繋がっていない短編集です)

これは、ゲームではなく本当の世界 4(ソフィ視点)

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 すこし荒い画質ではあるが、はっきりと映った画面の向こう。そこにいるのは、勿論兄のネロ・ルートヴェングとミカエル・フィレネーゼだ。ただ、私の目が行ったのは、そこではない。彼らの手元。

「あれって、『大福』よな……?」

白い粉が表面に付いた、真っ白な玉が、彼らの手元に置かれた皿の上に乗っていた。

 ミカエル・フィレネーゼがナイフをすっと真ん中に入れてちょうど半分に切る。中身には、茶色い餡とイチゴと思われし赤い果物。……うわぁ、絶対あれイチゴ大福でしょ。

 なんで、これがここに? と思いながら私はじっと画面を見つめる。一挙一動絶対に見落とさないように、血眼で。

『これ、新作?』

『はい、イチゴ大福っていって…… 試作なので、まだ出すつもりはないんですけど、ネロにはお世話になっているので』

新作、ということは彼女が作ったということか。イチゴは確かに元々この国にあったけど、もちろん小豆をあんことして使う人はいなかったし、和菓子なんてなかった。……って、ことは彼女も転生者?

『嬉しいよ、ありがたくいただくね』

兄はそっとナイフを入れて、イチゴ大福を口にする。そして、あ、おいしい、とぼそっと呟いた。……いいなぁ、私も食べたいよ。和菓子。

「でも、転生者っていっても危険な可能性は全然あるよな」

一瞬気を抜きかけたが、まだ駄目だ。もし、本当に転生者だったとして、ストーリーを知っている人だったら? ここで出会うはずのないネロと既に出会っているのは、この乙女ゲームを知っているから故かもしれない。もしかしたら、ネロも含めて全員逆ハーエンドとかを狙っているのかもっ……! だってうちの兄、顔いいし。なんで攻略対象じゃないのって声も各方面から上がってたし。

『……はぁ、推しが尊い』

そうして考え込みながらモニターから流れている内容を聞き流ししていたら、突如そんな小さな声を耳が拾った。この声はミカエル・フィレネーゼだ。……推し……?

 何を言っているんだとモニターを注視する。

『どうかしたの?』

『いえ、何も』

……うーん、どうやら彼女の独り言を拾ってしまったらしい。内緒話なんかをされたときでも聞き取れるように相当高性能にしたからなぁ……

 なんだか、推しが尊いなんていかにもオタクらしい言葉を聞いて毒気も抜けてしまったし彼女が悪い人には余計思えなくなってしまった…… 自分もオタクだったし、むしろなんだかこんなことをしているという罪悪感がっ……

「うぅ、もうこうなったら会いに行くしかないやん……」

本当に悪い人じゃないのか確かめたい。そのために、会いに行こう。私は兄が帰ってきたら頼み込んで明日は連れて行ってもらうことにした。



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