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学園編

もうひとりの転生者?

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 森の中をただひたすらに駆け回る。魔法で加速しながら走っているのに、あの覆面の白いやつは未だに追ってくる。昨日、それなりの雨が降っていたせいか、地面の土はとてもぬかるんでいて、何度も足を取られて転びかけた。……あぁ、もうっ。いい加減に諦めてくれたらいいのに。後ろからペチャペチャと泥を弾いて走る音が相変わらず追ってきているせいで、止まれない。少しだけでも止まっていてくれたらその間に逃げるのに。できることなら、転移の魔法で逃げたいが、私はネロに教わっているといっても魔法に関してはまだまだひよっこ。転移のような難しめの魔法を発動するにはある程度時間がかかってしまうし、何より集中が要る。少なくともこんなに全力疾走してたら無理。空を飛んで逃げようとしたとしても、相手も同じように飛んできてしまうし、私のコントロール能力は試してみたところ相手よりおそらくだいぶ低い。まだこうして走っている方が、捕まってしまうリスクは低い。……まぁ、このまま逃げ続けてもおそらくいつかは捕まってしまうだろうけど。

 あのSOSに誰かが気づいてくれていればな……

「ねえねえそこのお嬢さん」

突然だった。空から、というより一本の木の上の方から、声が降ってきたのだ。この緊迫した状況とはあまりにも不釣り合いな間延びした声。結構高めだけれど、女にしては低いのでおそらく男。

 まあ、構っている暇はないので一旦無視だ。この声の人は恐らく知らないし、相手の差し金って可能性もなくはない。私は足を止めずに走り続けたが、声はいまだに追ってくる。木の上を私と同じくらいのスピードで移動しているらしい。

「……ん!? ちょっと待ってよ! ね、助けてあげよーか? 逃げてるんでしょ」

何も返さない私に驚いたようにして、その声はそう返してきた。……どうせこのまま逃げ続けても、捕まるだけなんだし、ここで助けてもらうのもありかもしれない。嘘かもしれないけど、賭けてみる価値はある。

「じゃ、話しかけてくる前に助けてくださいません!?」

「それもそーか。いいよ」

木の葉が擦れて、ざわざわと鳴る。それとともに、黒い人影が上から落ちてくる。 その人は驚くほど俊敏で、こっちに向かってきた白いやつの目の前に立ちふさがり、勢いで突っ込んできた相手を軽々と受け止め、首元にトンと手刀を入れて一瞬で落としてしまった。

「これでいい?」

その人が私の方を振り向く。黒髪に、緑色の瞳。これまた顔の造詣が整っていて、一言で言うとイケメン。彼はにこりと微笑み、白いやつを地面に落としてこっちに近づいてきた。

「はぁ……」

「ミカエル・フィレネーゼ公爵令嬢でしょ? 僕はリュゼ・セレナーデ。災難だったね。君がおそらくストーリーと違う行動をあまりにも取ってるせいで色々と狂ってるせいかな? これは続編の予定だったんだけれど……」

……「ストーリー」? 「続編」? いくら考えても彼の言葉は、ラブマジを知っているとしか思えない。そもそも、続編ってなんなんだ? あの話は、攻略対象のだれかまたは複数と結ばれて終わるはずなのに。

 ――つまり、こうとしか考えられない。このリュゼ・セレナーデという男は、私はソフィと同じ転生者だとしか。

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