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転生編
私と「私」
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「送ってくださってありがとうございました」
ネロは私をあのブラックな仕事部屋の前まで送り届けてくれた。優しい。好き。流石私の推しだ。
「じゃあ、気をつけて」
ああ、残念。帰ってしまうのか。彼とは公式の場でそんなに関わりがないのでこれからしばらく会うことができない。辛い。これから生きていけるだろうか。そんな私の切実な思いは届くことなく、彼は帰っていってしまった。
「お嬢様、お帰りなさいませ。旦那様がお仕事を終えられたので帰りましょう」
アンナが近くに寄ってきて言う。……待って、まだ推しの後ろ姿を拝んでいたい。
まあそんなことを正直に言えるはずもないのだが。
「ええ、帰りましょうか」
お父様に手を引かれ、城を出て馬車に乗り込む。ふと城の方を振り向くと、バルコニーから何かが出てきていた。目を凝らすとぼんやりと見えたのは青い髪、つまりネロだ。手を振ってくれている。……やっぱりイケメンだわ。叫びだしそう。ゴロゴロ地面に転がって悶えたい。
「はぁ……」
かといってお父様の手前叫ぶわけにはいかないので、憂いを込めてため息をつく。お父様とアンナが変な目で見てきていたが気にしないことにした。
「三人共! おかえりなさーい」
お母様が外に出て待ってくれていた。ご飯は既に用意できていると言っている。ハイスペだな。帰ってくる時間帯を予測、そして帰ってきたタイミングで美味しく温かいご飯を食べれるように用意しておくとは。主婦の|鑑(かがみ)だ。私には無理である。
「ただいま、アリシア」
その後お母様に言われた通りの席に着きご飯を食べる。この世界の料理はフランスとかイギリスみたいな感じのパンが主食の料理なのである。初めの日や二日目くらいならまだ美味しく感じたが、今となっては和食が恋しい。異世界に来た主人公が和食を作ろうとする理由がよく分かった。結局、珍しい異国の料理よりも故郷の料理が一番ということである。
「ご馳走様でした」
手を合わせて小声で言う。この世界にはそんな文化は無いが、ついやってしまう。前世からの習慣である。
しばらくお父様とお母様が話しているのを聞いていると、可笑しいくらい猛烈な眠気に襲われた。頭がこっくりこっくり揺れる。
「ミカエルちゃん、そろそろ寝ましょうか。疲れてるんでしょう? アンナ、ミカエルちゃんを連れて行ってくれる?」
「承知いたしました」
話し声がどんどん遠くなってゆく。どうやら「私」自体は疲れていなくてもミカエルの体力は限界らしい。ふわっと誰か――アンナだろう――に抱きかかえられるような感覚がして、私の意識は落ちた。
桜の花弁がはらはらと舞っている坂道。そこに私は「此処」を私は知っている。日本の小さな町の憩いの場。「私」の地元だ。
「何でっ……」
自らの髪を見てみる。前世の黒…… ではなくミカエルの髪色である白銀のウェーブ。
『驚いた?』
目の前に佇む少女。地味でも派手でもなく、可愛いわけでも可愛くないわけでもないくらいの見た目。口元には笑みを浮かべている。でも、目は今にも泣き出しそうなくらい悲しそう。そんな彼女を私はよく知っている。だって彼女は――「私」だったから。
ネロは私をあのブラックな仕事部屋の前まで送り届けてくれた。優しい。好き。流石私の推しだ。
「じゃあ、気をつけて」
ああ、残念。帰ってしまうのか。彼とは公式の場でそんなに関わりがないのでこれからしばらく会うことができない。辛い。これから生きていけるだろうか。そんな私の切実な思いは届くことなく、彼は帰っていってしまった。
「お嬢様、お帰りなさいませ。旦那様がお仕事を終えられたので帰りましょう」
アンナが近くに寄ってきて言う。……待って、まだ推しの後ろ姿を拝んでいたい。
まあそんなことを正直に言えるはずもないのだが。
「ええ、帰りましょうか」
お父様に手を引かれ、城を出て馬車に乗り込む。ふと城の方を振り向くと、バルコニーから何かが出てきていた。目を凝らすとぼんやりと見えたのは青い髪、つまりネロだ。手を振ってくれている。……やっぱりイケメンだわ。叫びだしそう。ゴロゴロ地面に転がって悶えたい。
「はぁ……」
かといってお父様の手前叫ぶわけにはいかないので、憂いを込めてため息をつく。お父様とアンナが変な目で見てきていたが気にしないことにした。
「三人共! おかえりなさーい」
お母様が外に出て待ってくれていた。ご飯は既に用意できていると言っている。ハイスペだな。帰ってくる時間帯を予測、そして帰ってきたタイミングで美味しく温かいご飯を食べれるように用意しておくとは。主婦の|鑑(かがみ)だ。私には無理である。
「ただいま、アリシア」
その後お母様に言われた通りの席に着きご飯を食べる。この世界の料理はフランスとかイギリスみたいな感じのパンが主食の料理なのである。初めの日や二日目くらいならまだ美味しく感じたが、今となっては和食が恋しい。異世界に来た主人公が和食を作ろうとする理由がよく分かった。結局、珍しい異国の料理よりも故郷の料理が一番ということである。
「ご馳走様でした」
手を合わせて小声で言う。この世界にはそんな文化は無いが、ついやってしまう。前世からの習慣である。
しばらくお父様とお母様が話しているのを聞いていると、可笑しいくらい猛烈な眠気に襲われた。頭がこっくりこっくり揺れる。
「ミカエルちゃん、そろそろ寝ましょうか。疲れてるんでしょう? アンナ、ミカエルちゃんを連れて行ってくれる?」
「承知いたしました」
話し声がどんどん遠くなってゆく。どうやら「私」自体は疲れていなくてもミカエルの体力は限界らしい。ふわっと誰か――アンナだろう――に抱きかかえられるような感覚がして、私の意識は落ちた。
桜の花弁がはらはらと舞っている坂道。そこに私は「此処」を私は知っている。日本の小さな町の憩いの場。「私」の地元だ。
「何でっ……」
自らの髪を見てみる。前世の黒…… ではなくミカエルの髪色である白銀のウェーブ。
『驚いた?』
目の前に佇む少女。地味でも派手でもなく、可愛いわけでも可愛くないわけでもないくらいの見た目。口元には笑みを浮かべている。でも、目は今にも泣き出しそうなくらい悲しそう。そんな彼女を私はよく知っている。だって彼女は――「私」だったから。
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