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転生編
攻略対象に遭遇しました
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「ミカエルちゃーん!」
お父様は登城して仕事、お母様は来週にあるらしい公爵夫人同士のお茶会(という名の情報交換)をするための用意に奔走していたので、私は部屋で大人しくチマチマと針を動かし裁縫をしていた。裁縫は淑女になるためには絶対に必要らしい。不器用な私には厳しい話である。そんな最中、お母様が部屋へ入ってきて私の名を呼んだのだ。
「どうかしたのですか、お母様?」
お母様は書類をどこからか取り出す。そして顔の前に可愛らしく掲げる様子はまさに眼福、目の保養。この人本当にニ十八なの? 十歳くらい詐称してないか、と思ってしまう。
「実はねー、イーサンが今日必要なはずの書類を忘れて行っちゃって。アンナに届けてもらおうと思ったけれど、登城資格があるのは侯爵以上だからアンナだけじゃ入れないの。だからミカエルちゃんについていってもらおうと思って。いい勉強になると思うしねー」
成る程、お父様が書類を忘れたから届けて欲しい、ということか。……登城したら攻略対象に会いそうで心配だな。まあ城といっても広いだろうし、流石にこんなピンポイントで攻略対象にエンカウントすることはないだろう。
「分かりました、お父様の所まで届けてきます」
「ありがとう、助かったわー」
行ってらっしゃい、とお母様は非常に麗しい笑顔で見送ってくれた。
馬車から出来るだけ優雅に降りる。ミカエルが前世の私の意識を持つ前に作法は完璧にマスターしていたらしい、恐ろしいほど丁寧だ。目の前にある城は某夢の国にあるお城とは比べ物にならないほど大きい。……此処に入るの? 思わず尻込みしてしまいそうになった。
「私、ミカエル・フィレネーゼと申します。すいません、お父様、いえ、フィレネーゼ公爵がどこにいるか分かりますか?」
城の中に居た衛兵を捕まえて尋ねる。城の中は見た目から分かるように広かったので、この小さな体ではお父様を見つける前に疲れ果てて倒れてしまう。全く、幼児に転生するというのは不便なものだ。
「……申し訳ございません、存じ上げておりません」
困ったものだ。既に三人ほどに訊いたのだが皆口を揃えて知らないと言うのである。そして、声を掛けると一応ミカエル・フィレネーゼって高位貴族ですので震え上がられてしまう。私の代わりでアンナに話してもらおうとも思ったが、アンナじゃなめられるかもしれないから私が話さなきゃいけないと言われてしまった。
「フィレネーゼ嬢じゃないか。どうしたんだい?」
「第一王子様!」
金髪に碧眼という定番のイケメン。見た目的には十二歳くらいに見える彼は、私と同い年の第一王子、エルンスト・シャルメーテである。……そして、こいつはラブマジの攻略対象でもあるのだ。超絶ドSで攻略が一番ムズかったキャラ。
「エルンスト様、お久しぶりです」
最悪だ。こんなに広いなぜここまでピンポイントで会うんだ。勘弁してくれ。
「フィレネーゼ公爵を探しておりまして。居場所を教えていただけないでしょうか」
にっこりと笑みを浮かべようとはしているが、どうしても頬がピクピクと震えてしまう。関わりたくない。何処か別のところへ行ってくれ。
「前会ったときはもう少しお転婆な感じだったと思ったんだけど。今日は随分と礼儀正しいね」
お転婆なほうが面白かったんだけど、とクスクス笑っている。……ミカエルは何をしでかしたんだ。ミカエルの記憶を手繰っていくと、王宮の一番大きな木で木登りしているビジョンが浮かんだ。なにこの子。お転婆どころじゃない、本当に貴族令嬢か?
「まあいいや。イーサンの所まで送っていってあげる」
送らなくていい。お父様の居場所を教えてくれたらそれでいいから。
「ありがとうございます」
かと言って王子の申し出を断るわけにはいかない。断ったら不敬罪で最悪の場合処刑エンドもあり得る。シャレにならない。私は王子にばれないように小さくため息をついた。
お父様は登城して仕事、お母様は来週にあるらしい公爵夫人同士のお茶会(という名の情報交換)をするための用意に奔走していたので、私は部屋で大人しくチマチマと針を動かし裁縫をしていた。裁縫は淑女になるためには絶対に必要らしい。不器用な私には厳しい話である。そんな最中、お母様が部屋へ入ってきて私の名を呼んだのだ。
「どうかしたのですか、お母様?」
お母様は書類をどこからか取り出す。そして顔の前に可愛らしく掲げる様子はまさに眼福、目の保養。この人本当にニ十八なの? 十歳くらい詐称してないか、と思ってしまう。
「実はねー、イーサンが今日必要なはずの書類を忘れて行っちゃって。アンナに届けてもらおうと思ったけれど、登城資格があるのは侯爵以上だからアンナだけじゃ入れないの。だからミカエルちゃんについていってもらおうと思って。いい勉強になると思うしねー」
成る程、お父様が書類を忘れたから届けて欲しい、ということか。……登城したら攻略対象に会いそうで心配だな。まあ城といっても広いだろうし、流石にこんなピンポイントで攻略対象にエンカウントすることはないだろう。
「分かりました、お父様の所まで届けてきます」
「ありがとう、助かったわー」
行ってらっしゃい、とお母様は非常に麗しい笑顔で見送ってくれた。
馬車から出来るだけ優雅に降りる。ミカエルが前世の私の意識を持つ前に作法は完璧にマスターしていたらしい、恐ろしいほど丁寧だ。目の前にある城は某夢の国にあるお城とは比べ物にならないほど大きい。……此処に入るの? 思わず尻込みしてしまいそうになった。
「私、ミカエル・フィレネーゼと申します。すいません、お父様、いえ、フィレネーゼ公爵がどこにいるか分かりますか?」
城の中に居た衛兵を捕まえて尋ねる。城の中は見た目から分かるように広かったので、この小さな体ではお父様を見つける前に疲れ果てて倒れてしまう。全く、幼児に転生するというのは不便なものだ。
「……申し訳ございません、存じ上げておりません」
困ったものだ。既に三人ほどに訊いたのだが皆口を揃えて知らないと言うのである。そして、声を掛けると一応ミカエル・フィレネーゼって高位貴族ですので震え上がられてしまう。私の代わりでアンナに話してもらおうとも思ったが、アンナじゃなめられるかもしれないから私が話さなきゃいけないと言われてしまった。
「フィレネーゼ嬢じゃないか。どうしたんだい?」
「第一王子様!」
金髪に碧眼という定番のイケメン。見た目的には十二歳くらいに見える彼は、私と同い年の第一王子、エルンスト・シャルメーテである。……そして、こいつはラブマジの攻略対象でもあるのだ。超絶ドSで攻略が一番ムズかったキャラ。
「エルンスト様、お久しぶりです」
最悪だ。こんなに広いなぜここまでピンポイントで会うんだ。勘弁してくれ。
「フィレネーゼ公爵を探しておりまして。居場所を教えていただけないでしょうか」
にっこりと笑みを浮かべようとはしているが、どうしても頬がピクピクと震えてしまう。関わりたくない。何処か別のところへ行ってくれ。
「前会ったときはもう少しお転婆な感じだったと思ったんだけど。今日は随分と礼儀正しいね」
お転婆なほうが面白かったんだけど、とクスクス笑っている。……ミカエルは何をしでかしたんだ。ミカエルの記憶を手繰っていくと、王宮の一番大きな木で木登りしているビジョンが浮かんだ。なにこの子。お転婆どころじゃない、本当に貴族令嬢か?
「まあいいや。イーサンの所まで送っていってあげる」
送らなくていい。お父様の居場所を教えてくれたらそれでいいから。
「ありがとうございます」
かと言って王子の申し出を断るわけにはいかない。断ったら不敬罪で最悪の場合処刑エンドもあり得る。シャレにならない。私は王子にばれないように小さくため息をついた。
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