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フィティア10歳・領地立て直し編
婚約を断るには
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嘆いていても始まらない。考えなければ。そもそも私が悪役令嬢になってしまう発端は、王子と婚約して好きになってしまったこと、だ。なら婚約をせずに領地に引きこもっていたら解決じゃないか、と思うのだが、現実はそう甘くなかった。
……うちの領地は財政難、なのだ。
お父様とお母様は、いつもお金の支出を見て困り果てている。ヴィヴィテール公爵領は、王都から近いという以外に特に特徴のない土地なのだ。冷涼で作物は常に不作。酪農は盛んだけれど、他の土地でもできることだから安価でしか売り出せない。なので稼げない。そして税収も少ない。昔はヴィヴィテールは魔法一家として他国との紛争を止めるのに尽力して相当重宝されていたらしいが、今、ヴィヴィテールが公爵家を名乗れているのはその頃の名残に過ぎないようなもので、戦争の止まっている今の世では役立たず扱いだ。戦争がないに越したことはないので、そのことに家族全員不満はないが。だからヴィヴィテール家ではできるだけお金を使わないように心がけてはいるものの、それでもヴィヴィテール家はほぼ赤字の火の車状態。
そんな状況に舞い込んできた縁談。私がこれを了承すれば、この領地にかかる税はほぼ免除される上に、王太子妃を輩出した家として、王家からお金の援助まで入る。赤字は確実に解消される。両親がずっと悩んでいるのを知っているぶん、断りにくい。
うんうん唸っていると、コンコンとドアを叩く音。
「お嬢様、入っても宜しいでしょうか」
ユリウスだ。彼は私の護衛兼側仕えをしてくれている、私に付く前はどうやら政経担当のお父様の右腕だったらしい、超絶有能な人である。
そんな彼はマナーにも厳しい。私の教育係を兼任しているから余計に。無様な姿は見せられない。いまだ蹲ったままだったので、立ち上がって鏡を見て服装を整える。
「はい、入っても大丈夫です」
失礼します、と彼は律儀に私に声をかけてから部屋のドアをギギィ、と開ける。
「お加減はいかがですか? 先程お倒れになってしまわれたので……」
「あぁ…… 今は大丈夫なので心配無用です! やっぱりお父様とお母様は心配していらっしゃっいましたか?」
「はい、ものすごく。王子との婚約がショックだったのでは、と。もし宜しければ、実際どう思われているのかお聞きしてもよろしいですか? 主の心労を取り除くのも従者の役目ですので」
教えろ、と圧を掛けるように目を合わされて、にこり、と微笑まれる。
(やだ怖い)
「……正直に言うと、婚約はしたくありません」
言ったら怒られるかも、と思いながらも、絶対にバレるので嘘をつくこともできずに正直に白状する。
「そうですか。言い渋っていたのは、領地の財政難を気にしてで合っていますでしょうか」
「まぁ……はい……」
「わたくしは今、あなたの父である領主様ではなく、お嬢様に仕えております。なので、お嬢様の意志を最優先にしたアドバイスをさせていただきます」
ユリウスは目を細めて、企むように黒い笑顔を浮かべる。
「なぜ、この領地の乳製品――牛乳やチーズは売れないと思いますか?」
「ありきたりだから、ですよね。どこの領地でも真似できるから、価格がどうしても低くなってしまうのが原因だとこの前習いました」
「ええ、そうです。では、そんなヴィヴィテール領の売れない乳製品とは反対に、売れるものにはどんな特徴があると思いますか?」
(そういうことか……)
ユリウスの言いたいことが分かった。市場価値の高いものを開発して、独占し売ればお金は稼げるということだ。そして、この領をそれで黒字にすれば婚約の必要はなくなると。
「特別な、需要が高く手に入らない市場価値が高いものですね。――ありがとうございます、分かった気がします」
「ま、そこからが一番難しいんですけどね。新しいものを創り出さなければなりませんから。ただ、これが婚約しなくてもやっていける唯一の方法かと。さて、わたくしめが教えて差し上げることができるのはこのくらいでしょうか。お嬢様には期待していますよ。最近は藁にも縋る思いでメイドにも手伝いを頼んでいるくらいですからね……」
では、領主様たちに様子をお知らせしてきますね、とユリウスは部屋を出ていった。
うん、見えてきた気がする。
ユリウスのおかげでどうすれば良いかなんとなく方針を立てられた。前世の知識でなにかを作り出し、稼ぎ、その後は領地に引きこもり、いわゆるスローライフを満喫する。これで破滅エンドは完璧回避だ。
目の前の道が開けた気がする。まだまだ先は遠いけれど、頑張るしかない。
私は頑張るぞ、の意を込めて部屋で一人、パチンと両頬を手のひらで叩いて気合を入れ直した。
……うちの領地は財政難、なのだ。
お父様とお母様は、いつもお金の支出を見て困り果てている。ヴィヴィテール公爵領は、王都から近いという以外に特に特徴のない土地なのだ。冷涼で作物は常に不作。酪農は盛んだけれど、他の土地でもできることだから安価でしか売り出せない。なので稼げない。そして税収も少ない。昔はヴィヴィテールは魔法一家として他国との紛争を止めるのに尽力して相当重宝されていたらしいが、今、ヴィヴィテールが公爵家を名乗れているのはその頃の名残に過ぎないようなもので、戦争の止まっている今の世では役立たず扱いだ。戦争がないに越したことはないので、そのことに家族全員不満はないが。だからヴィヴィテール家ではできるだけお金を使わないように心がけてはいるものの、それでもヴィヴィテール家はほぼ赤字の火の車状態。
そんな状況に舞い込んできた縁談。私がこれを了承すれば、この領地にかかる税はほぼ免除される上に、王太子妃を輩出した家として、王家からお金の援助まで入る。赤字は確実に解消される。両親がずっと悩んでいるのを知っているぶん、断りにくい。
うんうん唸っていると、コンコンとドアを叩く音。
「お嬢様、入っても宜しいでしょうか」
ユリウスだ。彼は私の護衛兼側仕えをしてくれている、私に付く前はどうやら政経担当のお父様の右腕だったらしい、超絶有能な人である。
そんな彼はマナーにも厳しい。私の教育係を兼任しているから余計に。無様な姿は見せられない。いまだ蹲ったままだったので、立ち上がって鏡を見て服装を整える。
「はい、入っても大丈夫です」
失礼します、と彼は律儀に私に声をかけてから部屋のドアをギギィ、と開ける。
「お加減はいかがですか? 先程お倒れになってしまわれたので……」
「あぁ…… 今は大丈夫なので心配無用です! やっぱりお父様とお母様は心配していらっしゃっいましたか?」
「はい、ものすごく。王子との婚約がショックだったのでは、と。もし宜しければ、実際どう思われているのかお聞きしてもよろしいですか? 主の心労を取り除くのも従者の役目ですので」
教えろ、と圧を掛けるように目を合わされて、にこり、と微笑まれる。
(やだ怖い)
「……正直に言うと、婚約はしたくありません」
言ったら怒られるかも、と思いながらも、絶対にバレるので嘘をつくこともできずに正直に白状する。
「そうですか。言い渋っていたのは、領地の財政難を気にしてで合っていますでしょうか」
「まぁ……はい……」
「わたくしは今、あなたの父である領主様ではなく、お嬢様に仕えております。なので、お嬢様の意志を最優先にしたアドバイスをさせていただきます」
ユリウスは目を細めて、企むように黒い笑顔を浮かべる。
「なぜ、この領地の乳製品――牛乳やチーズは売れないと思いますか?」
「ありきたりだから、ですよね。どこの領地でも真似できるから、価格がどうしても低くなってしまうのが原因だとこの前習いました」
「ええ、そうです。では、そんなヴィヴィテール領の売れない乳製品とは反対に、売れるものにはどんな特徴があると思いますか?」
(そういうことか……)
ユリウスの言いたいことが分かった。市場価値の高いものを開発して、独占し売ればお金は稼げるということだ。そして、この領をそれで黒字にすれば婚約の必要はなくなると。
「特別な、需要が高く手に入らない市場価値が高いものですね。――ありがとうございます、分かった気がします」
「ま、そこからが一番難しいんですけどね。新しいものを創り出さなければなりませんから。ただ、これが婚約しなくてもやっていける唯一の方法かと。さて、わたくしめが教えて差し上げることができるのはこのくらいでしょうか。お嬢様には期待していますよ。最近は藁にも縋る思いでメイドにも手伝いを頼んでいるくらいですからね……」
では、領主様たちに様子をお知らせしてきますね、とユリウスは部屋を出ていった。
うん、見えてきた気がする。
ユリウスのおかげでどうすれば良いかなんとなく方針を立てられた。前世の知識でなにかを作り出し、稼ぎ、その後は領地に引きこもり、いわゆるスローライフを満喫する。これで破滅エンドは完璧回避だ。
目の前の道が開けた気がする。まだまだ先は遠いけれど、頑張るしかない。
私は頑張るぞ、の意を込めて部屋で一人、パチンと両頬を手のひらで叩いて気合を入れ直した。
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