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フィティア10歳・領地立て直し編
私は悪役令嬢らしい
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「ジオルド・ソーネチア第一王子から婚約の申し出があったんだ。フィティア、どうだ、受けてみないか」
ある日のこと。お父様が言いにくそうな表情で、私に釣書を差し出した。私は無言ではらりと三つ折りにされたそれを捲って開く。ジオルド殿下の姿絵に、趣味や色々が書き綴られたもの。それを見た途端に、私の頭の中に記憶が溢れ出した。私のものじゃない、誰かの一生分の記憶が。
病弱で、肺炎をこじらして亡くなった、一人の女子大生、一之瀬泉。私はおそらく、私の前世である彼女の二十年の記憶をジオルド殿下の姿見がきっかけで思い出したのだ。
あぁ、たくさんの情報が流れ込んできたせいで妙に頭がぼんやりして熱い気がする。
「フィティア!? どうしたんだ!」
ふらり、と椅子の背もたれに倒れ込む。ほわほわする意識はだんだん遠のいていった。
頭が痛い。
ガンガンとする頭の痛みで目が覚めた。誰かが部屋まで運んでくれたらしい。思い出した二十年分もの一之瀬泉の前世の記憶によって、頭がショートしてしまったのだ。
「そうだ、誰かに知らせないと」
多分突然ぶっ倒れた私のことをお父様は相当に心配している。普段が健康優良児なのも余計それをヒートアップさせているに違いない。
私はベッドからひょいと飛び降りて出る。そして、見た目を整えるために鏡を見た。
「嘘ぉ……!?」
思わずへたりこんで叫んでしまったのも仕方ないと思う。
どうか、誰か、嘘だと言ってほしい。
フィティア・ヴィヴィテール。彼女は前世の私、一之瀬泉が書いた小説「光の乙女は幸せを願う」の主人公を苛める悪役令嬢だ。この夜の闇のようとよく例えられるまっ黒い髪に、気が強そうで猫みたいな吊り目、ヴィヴィテール家の象徴である翡翠色の宝石みたいな瞳。
それに、確かに私の名前はフィティア・ヴィヴィテールなのだ。同姓同名の別人だと信じたいが、ここまで見た目が一致しているともう否定のしようがない。
光の乙女は幸せを願う、のストーリーはこうだ。
まず物語は、カシミール伯爵領で「光の乙女」という、いわば回復や治癒、浄化に特化した光魔法を自在に使うことのできる、100年に一度だけ現れる存在が発見されるところから始まる。それが主人公、アリシアだ。
彼女は特別に王家に養子として迎え入れられ、貴族の通う王立学園に入学するが、もちろん周りからは平民だと蔑視されて苛められる。
それを知った、義理の兄であるジオルドに守られながら、段々アリシアは学園に馴染んでいき、ジオルドとの仲を深めていく。それに嫉妬したジオルドの婚約者、フィティアはアリシアにきつい言葉を投げるようになる。
ある日、フィティアはジオルドにそのことがばれ、ひどく責められる。そのせいで弱った心に、封印が解けてしまった魔王がつけこみ、操ってしまう。フィティアは復活したばかりで力が完全に戻っていない魔王の傀儡と成り果ててしまい、魔物を連れて人間を滅ぼそうと動き出した。
それを止めようと、ジオルドとアリシア、その他色々の登場人物がフィティア及び魔王の討伐に乗り出すのだ。誰もがフィティアを殺すことで魔王を一瞬でも弱めようとしたが、アリシアだけがそれを止め、フィティアの心に巣食う魔を光魔法で浄化することによってフィティアを救ったのだ。
しかし、それでは物語は終わらない。魔王は、フィティアを操っている間にフィティアの魔力を取り込み完全復活をすでに遂げてしまっていたのだ。そして魔王は天敵である光の魔法を使うアリシアを殺そうとする。が、フィティアは自らの命を以って自分を見捨てなかったアリシアを庇い、亡くなってしまうのだ。その怒りと悲しみによってアリシアの力は完全解放される。そして、魔王はアリシアに浄化されて消えてしまった。
そしてそのあと、アリシアはジオルドに告白して成功し、婚約することになる。見事ハッピーエンド、で話は終了だ。
つまり、だ。私、フィティア・ヴィヴィテールは主人公の力を完全解放するための当て馬として、物語の途中で亡くなってしまうのだ。
「ちょっと待って、え、このままいったら私死んじゃうってこと?」
このまま王子と婚約なんてしたら破滅ルートまっしぐらだ。今私は10歳だから、あと6年ほどで死んでしまう。どうすればいいのだろう。
うわぁ……と私は頭を抱えてその場でうずくまる。……なんでよりによって悪役令嬢なの、私……
ある日のこと。お父様が言いにくそうな表情で、私に釣書を差し出した。私は無言ではらりと三つ折りにされたそれを捲って開く。ジオルド殿下の姿絵に、趣味や色々が書き綴られたもの。それを見た途端に、私の頭の中に記憶が溢れ出した。私のものじゃない、誰かの一生分の記憶が。
病弱で、肺炎をこじらして亡くなった、一人の女子大生、一之瀬泉。私はおそらく、私の前世である彼女の二十年の記憶をジオルド殿下の姿見がきっかけで思い出したのだ。
あぁ、たくさんの情報が流れ込んできたせいで妙に頭がぼんやりして熱い気がする。
「フィティア!? どうしたんだ!」
ふらり、と椅子の背もたれに倒れ込む。ほわほわする意識はだんだん遠のいていった。
頭が痛い。
ガンガンとする頭の痛みで目が覚めた。誰かが部屋まで運んでくれたらしい。思い出した二十年分もの一之瀬泉の前世の記憶によって、頭がショートしてしまったのだ。
「そうだ、誰かに知らせないと」
多分突然ぶっ倒れた私のことをお父様は相当に心配している。普段が健康優良児なのも余計それをヒートアップさせているに違いない。
私はベッドからひょいと飛び降りて出る。そして、見た目を整えるために鏡を見た。
「嘘ぉ……!?」
思わずへたりこんで叫んでしまったのも仕方ないと思う。
どうか、誰か、嘘だと言ってほしい。
フィティア・ヴィヴィテール。彼女は前世の私、一之瀬泉が書いた小説「光の乙女は幸せを願う」の主人公を苛める悪役令嬢だ。この夜の闇のようとよく例えられるまっ黒い髪に、気が強そうで猫みたいな吊り目、ヴィヴィテール家の象徴である翡翠色の宝石みたいな瞳。
それに、確かに私の名前はフィティア・ヴィヴィテールなのだ。同姓同名の別人だと信じたいが、ここまで見た目が一致しているともう否定のしようがない。
光の乙女は幸せを願う、のストーリーはこうだ。
まず物語は、カシミール伯爵領で「光の乙女」という、いわば回復や治癒、浄化に特化した光魔法を自在に使うことのできる、100年に一度だけ現れる存在が発見されるところから始まる。それが主人公、アリシアだ。
彼女は特別に王家に養子として迎え入れられ、貴族の通う王立学園に入学するが、もちろん周りからは平民だと蔑視されて苛められる。
それを知った、義理の兄であるジオルドに守られながら、段々アリシアは学園に馴染んでいき、ジオルドとの仲を深めていく。それに嫉妬したジオルドの婚約者、フィティアはアリシアにきつい言葉を投げるようになる。
ある日、フィティアはジオルドにそのことがばれ、ひどく責められる。そのせいで弱った心に、封印が解けてしまった魔王がつけこみ、操ってしまう。フィティアは復活したばかりで力が完全に戻っていない魔王の傀儡と成り果ててしまい、魔物を連れて人間を滅ぼそうと動き出した。
それを止めようと、ジオルドとアリシア、その他色々の登場人物がフィティア及び魔王の討伐に乗り出すのだ。誰もがフィティアを殺すことで魔王を一瞬でも弱めようとしたが、アリシアだけがそれを止め、フィティアの心に巣食う魔を光魔法で浄化することによってフィティアを救ったのだ。
しかし、それでは物語は終わらない。魔王は、フィティアを操っている間にフィティアの魔力を取り込み完全復活をすでに遂げてしまっていたのだ。そして魔王は天敵である光の魔法を使うアリシアを殺そうとする。が、フィティアは自らの命を以って自分を見捨てなかったアリシアを庇い、亡くなってしまうのだ。その怒りと悲しみによってアリシアの力は完全解放される。そして、魔王はアリシアに浄化されて消えてしまった。
そしてそのあと、アリシアはジオルドに告白して成功し、婚約することになる。見事ハッピーエンド、で話は終了だ。
つまり、だ。私、フィティア・ヴィヴィテールは主人公の力を完全解放するための当て馬として、物語の途中で亡くなってしまうのだ。
「ちょっと待って、え、このままいったら私死んじゃうってこと?」
このまま王子と婚約なんてしたら破滅ルートまっしぐらだ。今私は10歳だから、あと6年ほどで死んでしまう。どうすればいいのだろう。
うわぁ……と私は頭を抱えてその場でうずくまる。……なんでよりによって悪役令嬢なの、私……
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