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一章 転生と魔女
1-4 死の森の魔女
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フィオナと名乗る猫はくるりとその場で一回転をして、妖しげな紫のきらきらした煙に包まれる。
しばらくすると煙はすうっと引いていき、猫がいたはずのところには紫の瞳が印象的な小さな女の子。
「……誰?」
『フィオナよ!』
「え、うっそだぁ」
『はぁ………… これだから………… ほんとあんた、癪に障るわよね。あーもういいわ、埒があかないからラピスに丸投げしちゃいましょ』
ほら、行くわよ、と少女は私の手を引いて、埃っぽい部屋を出た。
廊下もさっきの部屋と同じく蜘蛛の巣だらけでどことなく埃っぽい。なにより足元に気をつけて足を持ち上げずに引きずるように歩かないとと転びそうなくらいに暗い。さっきの部屋より暗い。
「あの、暗くないですか……?」
『文句が多いわね。節電よ節電! 光魔法は有限なの! 【光】の魔石は高いの!』
魔石、魔物の体の中から採れる魔力結晶のことだ。……あー、確かにそうだったね。ただでさえ危険な魔物を倒さないと採れない品など、確かに中々手に入れられない。
「……すいません」
そうこうしているうちに、階段を降りてドアの前へ。ドアは立て付けが悪いのか、きちんと閉めてあらずに少し隙間が空いている。
『この中よ』
フィオナはギギィ、とドアを押して、私に中に入るよう指さして指示する。言われたとおりに私は打って変わって明るく整って綺麗な部屋の中に入った。
「ご苦労さん、フィオナ。少し休むといい」
『じゃあお言葉に甘えて』
くるり、とまた一回転をし、紫の煙とともに、今度は猫に戻った。
「さて、とお嬢さん。そこに座っていいよ。少しお話をしようじゃないか。まずは自己紹介といこう。――私はラピス、ここの家主さ。巷では死の森の魔女とかと呼ばれてる」
……死の森の魔女ですと? それって、作中でルティアナが呼ばれていた仇名じゃないか。
……どういうこと?
そうこう考えているうちに、私に話が回ってくる。
「じゃあ次はお嬢さんの番だ」
「……ルティアナです。ルティでも、ティアでも。好きなように呼んでください。事情があって、故郷を出て、森に迷い込んだようで…… ラピスさんが助けてくださったんですよね、ありがとうございました」
礼儀正しく、ただそれを心がけて、前世で看護師さんと話していたときのにこにこ顔で、ルティアナの記憶を総動員してそれっぽく話す。
すっと一瞬、ラピスさんの青い目が細められて、訝しげに私を見つめた。……早口すぎた? なにか不自然だった?
目の圧に負けそうになって、つい肩がびくりと揺れそうになったがテーブルクロスの下に隠れる自分の左手を右手で押さえつけるようにして握りしめてどうにか耐えた。
なんとか数秒で目線は外され、にこりとまた屈託のない笑みを浮かべられる。
「なるほど。――君、リムル村の子かい」
「え、なんで」
「……やっぱりか。噂になってるよ、全属性の天才児が入学前に逃げ出したと。捜索隊が大量に出されたところだそうだよ」
妙に魔力が強い子だなぁーとは思ったんだけど、全属性とはすごいねぇーと呑気な声をラピスさんは上げて紅茶を一口啜るが、私はそんなどころではない。
……捜索隊って絶対やばいよね。貴族に逆らったってことで、罰されたりするとか全然ありえる気がする。どうしよう。
すーっと血の気が引いて、嫌な冷たい汗が背中を伝った。
「どう、しましょう」
「ま、厳罰はあるだろうね、全属性の子は稀だし貴重だから殺しはしないだろうが……」
酷かったら鞭打ちなんかもありうるね、今の王短気らしいし。というやはり呑気な口調で発された言葉に、冷や汗どころではなく、指先の震えが止まらない。
「そこで、ティア。君に提案だ。――うちの子になる気はある?」
「……はい?」
にっとイイ笑顔を浮かべ、人差し指を立て、いーこと考えちゃった、と呟くラピスさん。……え、怖。
「おっと、言葉足らずだったかい? 私の弟子にならないかってことだよ。魔女にとって、自分の名を残し轟かせることは非常に名誉。だからその準備をしようとしてるってこと。――どうだい、悪くないだろ。君は罰されたくないから戻りたくない。私は弟子が欲しい。ウィンウィンだ」
……悪くない。右も左も分からないこの世界、この賭けに乗ってみるのもアリだ。どうせ、ここを出たら罰されるし、そうでなくても野垂れ死にそうだし。
「お願いします!」
「ふふ、じゃあこれからよろしくね」
魔女の弟子になる、ということは、魔法を教えてもらえるということ。魔法が使えたら、何かあったときに身を守れるようになる。これは強い。
死亡フラグなんてもの、ここにいる間に取り除けばいい。あくまであれは物語内の出来事なんだから、きっと小さな行動一つでどうにでも変わる。
どうせ、あるはずのないと思っていた二度目の人生なんだ。自分のために生きてやる。
しばらくすると煙はすうっと引いていき、猫がいたはずのところには紫の瞳が印象的な小さな女の子。
「……誰?」
『フィオナよ!』
「え、うっそだぁ」
『はぁ………… これだから………… ほんとあんた、癪に障るわよね。あーもういいわ、埒があかないからラピスに丸投げしちゃいましょ』
ほら、行くわよ、と少女は私の手を引いて、埃っぽい部屋を出た。
廊下もさっきの部屋と同じく蜘蛛の巣だらけでどことなく埃っぽい。なにより足元に気をつけて足を持ち上げずに引きずるように歩かないとと転びそうなくらいに暗い。さっきの部屋より暗い。
「あの、暗くないですか……?」
『文句が多いわね。節電よ節電! 光魔法は有限なの! 【光】の魔石は高いの!』
魔石、魔物の体の中から採れる魔力結晶のことだ。……あー、確かにそうだったね。ただでさえ危険な魔物を倒さないと採れない品など、確かに中々手に入れられない。
「……すいません」
そうこうしているうちに、階段を降りてドアの前へ。ドアは立て付けが悪いのか、きちんと閉めてあらずに少し隙間が空いている。
『この中よ』
フィオナはギギィ、とドアを押して、私に中に入るよう指さして指示する。言われたとおりに私は打って変わって明るく整って綺麗な部屋の中に入った。
「ご苦労さん、フィオナ。少し休むといい」
『じゃあお言葉に甘えて』
くるり、とまた一回転をし、紫の煙とともに、今度は猫に戻った。
「さて、とお嬢さん。そこに座っていいよ。少しお話をしようじゃないか。まずは自己紹介といこう。――私はラピス、ここの家主さ。巷では死の森の魔女とかと呼ばれてる」
……死の森の魔女ですと? それって、作中でルティアナが呼ばれていた仇名じゃないか。
……どういうこと?
そうこう考えているうちに、私に話が回ってくる。
「じゃあ次はお嬢さんの番だ」
「……ルティアナです。ルティでも、ティアでも。好きなように呼んでください。事情があって、故郷を出て、森に迷い込んだようで…… ラピスさんが助けてくださったんですよね、ありがとうございました」
礼儀正しく、ただそれを心がけて、前世で看護師さんと話していたときのにこにこ顔で、ルティアナの記憶を総動員してそれっぽく話す。
すっと一瞬、ラピスさんの青い目が細められて、訝しげに私を見つめた。……早口すぎた? なにか不自然だった?
目の圧に負けそうになって、つい肩がびくりと揺れそうになったがテーブルクロスの下に隠れる自分の左手を右手で押さえつけるようにして握りしめてどうにか耐えた。
なんとか数秒で目線は外され、にこりとまた屈託のない笑みを浮かべられる。
「なるほど。――君、リムル村の子かい」
「え、なんで」
「……やっぱりか。噂になってるよ、全属性の天才児が入学前に逃げ出したと。捜索隊が大量に出されたところだそうだよ」
妙に魔力が強い子だなぁーとは思ったんだけど、全属性とはすごいねぇーと呑気な声をラピスさんは上げて紅茶を一口啜るが、私はそんなどころではない。
……捜索隊って絶対やばいよね。貴族に逆らったってことで、罰されたりするとか全然ありえる気がする。どうしよう。
すーっと血の気が引いて、嫌な冷たい汗が背中を伝った。
「どう、しましょう」
「ま、厳罰はあるだろうね、全属性の子は稀だし貴重だから殺しはしないだろうが……」
酷かったら鞭打ちなんかもありうるね、今の王短気らしいし。というやはり呑気な口調で発された言葉に、冷や汗どころではなく、指先の震えが止まらない。
「そこで、ティア。君に提案だ。――うちの子になる気はある?」
「……はい?」
にっとイイ笑顔を浮かべ、人差し指を立て、いーこと考えちゃった、と呟くラピスさん。……え、怖。
「おっと、言葉足らずだったかい? 私の弟子にならないかってことだよ。魔女にとって、自分の名を残し轟かせることは非常に名誉。だからその準備をしようとしてるってこと。――どうだい、悪くないだろ。君は罰されたくないから戻りたくない。私は弟子が欲しい。ウィンウィンだ」
……悪くない。右も左も分からないこの世界、この賭けに乗ってみるのもアリだ。どうせ、ここを出たら罰されるし、そうでなくても野垂れ死にそうだし。
「お願いします!」
「ふふ、じゃあこれからよろしくね」
魔女の弟子になる、ということは、魔法を教えてもらえるということ。魔法が使えたら、何かあったときに身を守れるようになる。これは強い。
死亡フラグなんてもの、ここにいる間に取り除けばいい。あくまであれは物語内の出来事なんだから、きっと小さな行動一つでどうにでも変わる。
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