低利貸屋 レイヴン ~ 錬金?いや、絶対秘密だが増金だ 

おーぷにんぐ☆あうと

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第4章 呪われた森 編

第113話 封じられた記憶

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『森の神殿』、最深部の精霊の間に飾られている精霊具は3点。

炎の精霊の加護がある『ヘッドティカ』。
水の精霊の加護がある『籠手』
そして、風の精霊の加護がある『鉄笛』だ。

この精霊具は強い光で結ばれている。これは『森の神殿』をアンデット系モンスターや瘴気から守るための結界を維持している証拠だった。

つまり、精霊具を失う事は、その結界の弱体化を意味する。もしかしたら、崩壊にまで至るかもしれない。
しかし、風の精霊シルフはそんな危険よりも、目の前にある悪から、森の民たちを護るという苦渋の決断を下したのだ。

「この輝いている道具を持って行って、いいのかしら?」

パメラの質問に大精霊からの返答はない。この煮え切らない態度に彼女は溜息をつく。
続いて、精霊具の一つである『ヘッドティカ』に手をかけようとした時、無理矢理、後方に引っ張られた。

「どうしたの?」
「よく見ろよ」

抱えられたパメラの近くには、相棒ウォルトの顔がある。彼の視線が捕らえているのは、先ほど、触れようとした『ヘッドティカ』が赤く燃え上がっている姿だった。

あのまま、精霊具に手を出していたら、大やけどをしていたかもしれない。

「姑息ね。罠に嵌めようとしたの?」

パメラがそうなじると、『ヘッドティカ』から具現化された精霊が姿を現した。

「シルフが許しても、我の精霊具に所有者以外、触れることは許さぬ」

サラマンドラの顕現に、『アウル』の二人は身構える。四大精霊の中で、一番の攻撃力を持つと言われる炎の精霊を警戒したのだ。

だが、すぐに本体ではないことに気づき、肩の力を抜く。
二人が『砂漠の神殿』で感じたサラマンドラの霊力は、こんなものではなかった。

察するに、この場でのサラマンドラの力では、『ヘッドティカ』に触れさせないようにするのが精一杯のようである。

『・・・この様子だと・・・』

案の定、『籠手』からも水の精霊ウンディーネが顕現すると、精霊具を守るように立ちはだかった。

「これは、無理できねぇな」
「その『鉄笛』は持って行って、いいのでしょうね?」

残る精霊具は風の精霊が加護する『鉄笛』だけ。パメラは、当然の要求をした。

「・・・ええ、構いません。この精霊具を持って、即刻、この『森の神殿』から立ち去るのです」

シルフの承認を得られたので、パメラは、堂々と炎の精霊と水の精霊の間を進む。
二体の大精霊の威圧にも動じないのは、さすがだと相棒のウォルトは口笛を吹いた。

『鉄笛』の前に立ったパメラは、ジッと精霊具を眺める。
これは、あのアンナという少女が大切にしていた道具。

確かにこれだけでも取引の価値は、十分あると踏んだ。
最低でもレイヴンたちに動揺は与えることができるだろう。
その隙さえ生まれれば、自分達なら、どうにかできると算段したのだ。

「それじゃあ、遠慮なくもらっていくわ」

『鉄笛』が台の上からなくなると、これまでトライアングルを形成していた光の線が、『ヘッドティカ』と『籠手』を結ぶだけの1本の線となる。
明らかに『森の神殿』の中の雰囲気が変わるのだった。

これは、結界の力が弱くなったためだと思われる。
幸いなのは、瘴気が入り込んでいる様子がない事だった。

「モンスターは、多分、やって来ねぇから、安心しな」
「あなたに、どうして、そのような事が分かるのです?」
「そりゃ、今頃、レイヴンの野郎が『死霊魔術師ネクロマンサー』を追い詰めているだろうからさ」

ウォルトの言葉を信用していいかどうか、シルフには判断できない。しかし、いずれにせよ、アンデット系モンスターが襲ってこないことを祈ることしかできなかった。

「むむむ。小僧が解決するのを待つしかあるまい。それまでウンディーネよ。我らで何とかするぞ」
「ええ。あの若者なら、きっと期待に応えてくれるでしょう」

二体の大精霊が同調することで、『ヘッドティカ』と『籠手』を結ぶ光が強くなる。
一度、不安定になった結界が、何とか持ち直したのだ。

「それじゃあ、もう用事はない。俺たちはずらかるぜ」

アウル』二人の退場に、大精霊たちは反応しない。彼らに構っている余裕がないのだ。
精霊の間を出たウォルトとパメラは、悠々と森の民たちがいる大広間を通り過ぎる。

女性の方の手に『鉄笛』がある事に気がつくと、多くの者たちの口から不安の声が漏れるのだった。
結界を形成するために、必要な精霊具だという事が広まっている。『森の神殿』の安全性を心配したのだ。

ソフィアも、そんな一人で、彼女は非常に落ち着かない
先ほどから長であるウィードを探しているのだが、その姿が見つからないことが、余計、拍車をかけた。

『このままじゃ、みんなに合わせる顔がないわ』

彼女は数年前、自分が犯した過ちを振り返る。何もしないで、黙って見ているのだけは止めようと、奮い立った。
自分に何ができるか分からない。だが、ウォルトとパメラの後を追う事が、使命のように感じたのだ。

ところが・・・

『森の神殿』を出た途端、あることを想い出す。
今、ファヌス大森は瘴気で覆いつくされているのだ。

しかも、以前まで身につけていたガンダーンダのお守りは、アンナに託して身につけていない。
意図せず、瘴気を吸い込んでしまったソフィアの足は、次第に重くなっていった。そして、ついに両ひざから落ちて、その場に崩れ去る。

『うっううう』

端正な顔立ちに苦悶の表情が浮かび続けた。これが、自分に課せられた罰なのか・・・
そんな思いが、一層、彼女の心を弱くする。

『・・・もう、だめね』

そう覚悟を決めた時、急にその苦しさが和らいでいった。
突然、ソフィアの体に変化が現れ始めたのである。
そして、彼女自身、封じられていた記憶が蘇っていくのだった。
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