113 / 117
第4章 呪われた森 編
第113話 封じられた記憶
しおりを挟む
『森の神殿』、最深部の精霊の間に飾られている精霊具は3点。
炎の精霊の加護がある『ヘッドティカ』。
水の精霊の加護がある『籠手』
そして、風の精霊の加護がある『鉄笛』だ。
この精霊具は強い光で結ばれている。これは『森の神殿』をアンデット系モンスターや瘴気から守るための結界を維持している証拠だった。
つまり、精霊具を失う事は、その結界の弱体化を意味する。もしかしたら、崩壊にまで至るかもしれない。
しかし、風の精霊シルフはそんな危険よりも、目の前にある悪から、森の民たちを護るという苦渋の決断を下したのだ。
「この輝いている道具を持って行って、いいのかしら?」
パメラの質問に大精霊からの返答はない。この煮え切らない態度に彼女は溜息をつく。
続いて、精霊具の一つである『ヘッドティカ』に手をかけようとした時、無理矢理、後方に引っ張られた。
「どうしたの?」
「よく見ろよ」
抱えられたパメラの近くには、相棒ウォルトの顔がある。彼の視線が捕らえているのは、先ほど、触れようとした『ヘッドティカ』が赤く燃え上がっている姿だった。
あのまま、精霊具に手を出していたら、大やけどをしていたかもしれない。
「姑息ね。罠に嵌めようとしたの?」
パメラがそう詰ると、『ヘッドティカ』から具現化された精霊が姿を現した。
「シルフが許しても、我の精霊具に所有者以外、触れることは許さぬ」
サラマンドラの顕現に、『梟』の二人は身構える。四大精霊の中で、一番の攻撃力を持つと言われる炎の精霊を警戒したのだ。
だが、すぐに本体ではないことに気づき、肩の力を抜く。
二人が『砂漠の神殿』で感じたサラマンドラの霊力は、こんなものではなかった。
察するに、この場でのサラマンドラの力では、『ヘッドティカ』に触れさせないようにするのが精一杯のようである。
『・・・この様子だと・・・』
案の定、『籠手』からも水の精霊ウンディーネが顕現すると、精霊具を守るように立ちはだかった。
「これは、無理できねぇな」
「その『鉄笛』は持って行って、いいのでしょうね?」
残る精霊具は風の精霊が加護する『鉄笛』だけ。パメラは、当然の要求をした。
「・・・ええ、構いません。この精霊具を持って、即刻、この『森の神殿』から立ち去るのです」
シルフの承認を得られたので、パメラは、堂々と炎の精霊と水の精霊の間を進む。
二体の大精霊の威圧にも動じないのは、さすがだと相棒のウォルトは口笛を吹いた。
『鉄笛』の前に立ったパメラは、ジッと精霊具を眺める。
これは、あのアンナという少女が大切にしていた道具。
確かにこれだけでも取引の価値は、十分あると踏んだ。
最低でもレイヴンたちに動揺は与えることができるだろう。
その隙さえ生まれれば、自分達なら、どうにかできると算段したのだ。
「それじゃあ、遠慮なくもらっていくわ」
『鉄笛』が台の上からなくなると、これまでトライアングルを形成していた光の線が、『ヘッドティカ』と『籠手』を結ぶだけの1本の線となる。
明らかに『森の神殿』の中の雰囲気が変わるのだった。
これは、結界の力が弱くなったためだと思われる。
幸いなのは、瘴気が入り込んでいる様子がない事だった。
「モンスターは、多分、やって来ねぇから、安心しな」
「あなたに、どうして、そのような事が分かるのです?」
「そりゃ、今頃、レイヴンの野郎が『死霊魔術師』を追い詰めているだろうからさ」
ウォルトの言葉を信用していいかどうか、シルフには判断できない。しかし、いずれにせよ、アンデット系モンスターが襲ってこないことを祈ることしかできなかった。
「むむむ。小僧が解決するのを待つしかあるまい。それまでウンディーネよ。我らで何とかするぞ」
「ええ。あの若者なら、きっと期待に応えてくれるでしょう」
二体の大精霊が同調することで、『ヘッドティカ』と『籠手』を結ぶ光が強くなる。
一度、不安定になった結界が、何とか持ち直したのだ。
「それじゃあ、もう用事はない。俺たちはずらかるぜ」
『梟』二人の退場に、大精霊たちは反応しない。彼らに構っている余裕がないのだ。
精霊の間を出たウォルトとパメラは、悠々と森の民たちがいる大広間を通り過ぎる。
女性の方の手に『鉄笛』がある事に気がつくと、多くの者たちの口から不安の声が漏れるのだった。
結界を形成するために、必要な精霊具だという事が広まっている。『森の神殿』の安全性を心配したのだ。
ソフィアも、そんな一人で、彼女は非常に落ち着かない
先ほどから長であるウィードを探しているのだが、その姿が見つからないことが、余計、拍車をかけた。
『このままじゃ、みんなに合わせる顔がないわ』
彼女は数年前、自分が犯した過ちを振り返る。何もしないで、黙って見ているのだけは止めようと、奮い立った。
自分に何ができるか分からない。だが、ウォルトとパメラの後を追う事が、使命のように感じたのだ。
ところが・・・
『森の神殿』を出た途端、あることを想い出す。
今、ファヌス大森は瘴気で覆いつくされているのだ。
しかも、以前まで身につけていたガンダーンダのお守りは、アンナに託して身につけていない。
意図せず、瘴気を吸い込んでしまったソフィアの足は、次第に重くなっていった。そして、ついに両ひざから落ちて、その場に崩れ去る。
『うっううう』
端正な顔立ちに苦悶の表情が浮かび続けた。これが、自分に課せられた罰なのか・・・
そんな思いが、一層、彼女の心を弱くする。
『・・・もう、だめね』
そう覚悟を決めた時、急にその苦しさが和らいでいった。
突然、ソフィアの体に変化が現れ始めたのである。
そして、彼女自身、封じられていた記憶が蘇っていくのだった。
炎の精霊の加護がある『ヘッドティカ』。
水の精霊の加護がある『籠手』
そして、風の精霊の加護がある『鉄笛』だ。
この精霊具は強い光で結ばれている。これは『森の神殿』をアンデット系モンスターや瘴気から守るための結界を維持している証拠だった。
つまり、精霊具を失う事は、その結界の弱体化を意味する。もしかしたら、崩壊にまで至るかもしれない。
しかし、風の精霊シルフはそんな危険よりも、目の前にある悪から、森の民たちを護るという苦渋の決断を下したのだ。
「この輝いている道具を持って行って、いいのかしら?」
パメラの質問に大精霊からの返答はない。この煮え切らない態度に彼女は溜息をつく。
続いて、精霊具の一つである『ヘッドティカ』に手をかけようとした時、無理矢理、後方に引っ張られた。
「どうしたの?」
「よく見ろよ」
抱えられたパメラの近くには、相棒ウォルトの顔がある。彼の視線が捕らえているのは、先ほど、触れようとした『ヘッドティカ』が赤く燃え上がっている姿だった。
あのまま、精霊具に手を出していたら、大やけどをしていたかもしれない。
「姑息ね。罠に嵌めようとしたの?」
パメラがそう詰ると、『ヘッドティカ』から具現化された精霊が姿を現した。
「シルフが許しても、我の精霊具に所有者以外、触れることは許さぬ」
サラマンドラの顕現に、『梟』の二人は身構える。四大精霊の中で、一番の攻撃力を持つと言われる炎の精霊を警戒したのだ。
だが、すぐに本体ではないことに気づき、肩の力を抜く。
二人が『砂漠の神殿』で感じたサラマンドラの霊力は、こんなものではなかった。
察するに、この場でのサラマンドラの力では、『ヘッドティカ』に触れさせないようにするのが精一杯のようである。
『・・・この様子だと・・・』
案の定、『籠手』からも水の精霊ウンディーネが顕現すると、精霊具を守るように立ちはだかった。
「これは、無理できねぇな」
「その『鉄笛』は持って行って、いいのでしょうね?」
残る精霊具は風の精霊が加護する『鉄笛』だけ。パメラは、当然の要求をした。
「・・・ええ、構いません。この精霊具を持って、即刻、この『森の神殿』から立ち去るのです」
シルフの承認を得られたので、パメラは、堂々と炎の精霊と水の精霊の間を進む。
二体の大精霊の威圧にも動じないのは、さすがだと相棒のウォルトは口笛を吹いた。
『鉄笛』の前に立ったパメラは、ジッと精霊具を眺める。
これは、あのアンナという少女が大切にしていた道具。
確かにこれだけでも取引の価値は、十分あると踏んだ。
最低でもレイヴンたちに動揺は与えることができるだろう。
その隙さえ生まれれば、自分達なら、どうにかできると算段したのだ。
「それじゃあ、遠慮なくもらっていくわ」
『鉄笛』が台の上からなくなると、これまでトライアングルを形成していた光の線が、『ヘッドティカ』と『籠手』を結ぶだけの1本の線となる。
明らかに『森の神殿』の中の雰囲気が変わるのだった。
これは、結界の力が弱くなったためだと思われる。
幸いなのは、瘴気が入り込んでいる様子がない事だった。
「モンスターは、多分、やって来ねぇから、安心しな」
「あなたに、どうして、そのような事が分かるのです?」
「そりゃ、今頃、レイヴンの野郎が『死霊魔術師』を追い詰めているだろうからさ」
ウォルトの言葉を信用していいかどうか、シルフには判断できない。しかし、いずれにせよ、アンデット系モンスターが襲ってこないことを祈ることしかできなかった。
「むむむ。小僧が解決するのを待つしかあるまい。それまでウンディーネよ。我らで何とかするぞ」
「ええ。あの若者なら、きっと期待に応えてくれるでしょう」
二体の大精霊が同調することで、『ヘッドティカ』と『籠手』を結ぶ光が強くなる。
一度、不安定になった結界が、何とか持ち直したのだ。
「それじゃあ、もう用事はない。俺たちはずらかるぜ」
『梟』二人の退場に、大精霊たちは反応しない。彼らに構っている余裕がないのだ。
精霊の間を出たウォルトとパメラは、悠々と森の民たちがいる大広間を通り過ぎる。
女性の方の手に『鉄笛』がある事に気がつくと、多くの者たちの口から不安の声が漏れるのだった。
結界を形成するために、必要な精霊具だという事が広まっている。『森の神殿』の安全性を心配したのだ。
ソフィアも、そんな一人で、彼女は非常に落ち着かない
先ほどから長であるウィードを探しているのだが、その姿が見つからないことが、余計、拍車をかけた。
『このままじゃ、みんなに合わせる顔がないわ』
彼女は数年前、自分が犯した過ちを振り返る。何もしないで、黙って見ているのだけは止めようと、奮い立った。
自分に何ができるか分からない。だが、ウォルトとパメラの後を追う事が、使命のように感じたのだ。
ところが・・・
『森の神殿』を出た途端、あることを想い出す。
今、ファヌス大森は瘴気で覆いつくされているのだ。
しかも、以前まで身につけていたガンダーンダのお守りは、アンナに託して身につけていない。
意図せず、瘴気を吸い込んでしまったソフィアの足は、次第に重くなっていった。そして、ついに両ひざから落ちて、その場に崩れ去る。
『うっううう』
端正な顔立ちに苦悶の表情が浮かび続けた。これが、自分に課せられた罰なのか・・・
そんな思いが、一層、彼女の心を弱くする。
『・・・もう、だめね』
そう覚悟を決めた時、急にその苦しさが和らいでいった。
突然、ソフィアの体に変化が現れ始めたのである。
そして、彼女自身、封じられていた記憶が蘇っていくのだった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~
中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」
唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。
人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。
目的は一つ。充実した人生を送ること。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる