低利貸屋 レイヴン ~ 錬金?いや、絶対秘密だが増金だ 

おーぷにんぐ☆あうと

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第4章 呪われた森 編

第112話 侵入者

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ファヌス大森林の中にあって、一際、存在感を放つ『森の神殿』が目の前にそびえ立つ。
数年前にも、同じこの場所を訪れたことがある男女一組は、以前と違う様相に驚きつつも、それ以上の感情を持たなかった。

自分たちが、『風の宝石ブリーズエメラルド』を精霊の遺跡から持ち出さなければ、こんな事にならなかったとは結び付けない。

ファヌス大森林を覆う瘴気は、まったく別の話なのだ。
例え、元『アウル』の一員が行った事だろうと・・・

そもそもファヌス大森林の管理責任は、彼らの元にはない。
全ては森の民の能力不足が招いた結果だと、結論付けていた。
結局、弱い者が悪い。この男女は、そういう世界に身を寄せて生きて来たのだ。

ペアの片割れ、男性の方が野性味を帯びたその顔を歪めながら、鼻を抑える。

「しかし、この瘴気の臭いは、何とかならねぇのかよ」
「無茶を言わないの。僅かに残った資料で、この瘴気を無効にする技術を作り上げただけでも、大変だったのよ」

そう言って、たしなめたのは、男性とは対照的に知的な雰囲気を醸し出している女性。
二人は『アウル』のメンバーで、常にコンビを組んでいるウォルトとパメラだった。

お互いの指にはめられている指輪が輝いているのが、瘴気を無効にする魔法道具マジックアイテムが動作している証拠である。
ウォルトは、自分の指を見ながらつぶやいた。

「『獣人化アンスロ』を使えば、こんな瘴気、余裕で耐えられるのにな」
「じゃあ、やってみたら、どう?」

パメラが、からかう様に話すと茶髪の野生児は、そっぽを向く。

「やる訳ねぇだろ」

ただでさえ、瘴気の臭いに参っているウォルトだ。『狼男ウェアウルフ』になって、嗅覚を何倍にも上げれば、気が狂ってしまうかもしれない。

「そんな拗ねないで。あなたの、その鼻を頼りに、ここまで来られたのよ」

別名『迷いの森』とも呼ばれるファヌス大森林に、案内人もなしに『森の神殿』まで辿り着けたのは、まさにウォルトのおかげだった。
数年前、『森の神殿』で嗅いだ臭いを頼りに、ここまでやって来たのである。

「へいへい」

ウォルトが野獣なら、さしずめパメラは野獣使いと言ったところか。
つまるところ、二人はいいコンビなのだ。

女性の方は手にした杖で枝葉をかき分け、男性の方は両手をポケットに入れたまま、『森の神殿』へと近づいて行く。

遺跡の手前に薄い壁のようなものが見えるが、これは結界だと事前に知らされていた。
ただ、情報からは上書きされている状態で、今は風の精霊シルフだけではなく、炎の精霊サラマンドラ、水の精霊ウンディーネの力も加わっており、より強固なものになっている。

但し、この結界はあくまでも瘴気やアンデット系モンスターを防ぐものだった。
人の侵入に対しては作用しないため、ウォルトとパメラは難なく、再び神殿の中に足を踏み入れる。

彼らからすると、誰の手による結界かは、大して重要な問題ではなかったのだ。

「さぁて、レイヴンちゃんたちが出て行った後で、ちょいと気が引けるが、さっさと仕事を終わらせようぜ」

二人がここにやって来たのは、『水の宝石アクアサファイア』の回収である。
この『森の神殿』の中に戦闘能力を持つ者が、出払っていると推察しての行動だった。

ウォルトとしては、やや不満の残る作戦だが、組織の命令であれば仕方ない。
割り切って、任務を全うするだけだ。

神殿の中に二人が入ると、見知らぬ不審者に怯えた目を向ける森の民たち。
その中、ウォルトとパメラの事を覚えている者がいた。
それは当時、人質となった当人のソフィアである。

「あなたたち、何をしに来たの?神殿から『風の宝石ブリーズエメラルド』を奪って、もう満足でしょ」

一人、気を吐いて侵入者を咎めるが、力の差は歴然だった。
凄みを利かせたパメラに睨まれると、勢いを削がれてしまう。

「おお、あの時の姉ちゃんか!ちょうどいい、『水の宝石アクアサファイア』を設置している場所まで案内してくれよ」

女性に対しての記憶力だけはいいウォルトが、気軽にソフィアに話しかけてきたが、簡単に頷ける内容ではなかった。
それに、精霊の秘宝は、すでにライに預けている。

「残念だけど、ここに『水の宝石アクアサファイア』はないわ。とっくにレイヴンさんに返しているのよ」

事実を伝えて、一矢報いた気になるソフィアだったが、逆にウォルトは喜びの表情を見せた。

「お、そのパターンか。じゃあ、あいつの所に行って、奪うしかねぇな」

この方が彼の好みなのは言うまでもない。一方、そう単純ではないパメラは考え込んだ。
レイヴンの事を、かなりの強敵と認めており、失敗するリスクを心配する。

「この女を人質にしようかしら」
「外は瘴気で、いっぱいだぜ」
「・・・」

珍しく、パメラがやり込められた。ウォルトが言うように、無理に外に連れ出してもレイヴンと会う頃には、人質として意味がなさない状態になっているかもしれない。
彼女は仕方なく、別の方法を模索した。

「何か人質の代わりになるような物はないの?・・・例えば、大切な宝物とかあるでしょ」

パメラの質問にソフィアは黙り込む。
瞬間的に、神殿の奥の部屋。祭壇に設置している精霊具が頭に浮かんだのだが、それを教える訳にはいかなかった。
しかし、そんなソフィアの心理をパメラは見抜く。

「何かあるのね。今すぐ、教えなさい」
「そんな事、言う・・・・」

振り絞った勇気はパメラのスキルによって、無情にも砕け散る。
ソフィアの周囲に風の渦が巻き起こり、動きを封じた上で、彼女の体を宙に浮かせたのだ。

「あなたたちに拒否権はないの。・・・それに、ここには人質になりそうな人がいっぱいいるわ。そんな態度をとって、いいのかしら?」

非情な言葉に涙が出そうになるのをぐっと堪えた。
スキルが・・・、力がないだけで、ここまで理不尽に扱われていいのだろうか・・・
ソフィアの中に軽い絶望感が生まれた。

そんな彼女を救う声が、『森の神殿』の中に響く。
そして、ソフィアを拘束していた風も消滅したのだ。

「私の名はシルフ。この神殿の中で、風属性のスキルを簡単に使用できると思わないで下さい」

そう大精霊が彼女を助けたのである。言われた通り、パメラがいくら呪文を唱えようと、『旋風ワールウィンド』のスキルは使えなくなっていた。

森の民たちは、一様にシルフの助けに感謝し手を合わせる。
だが、パメラは軽い嘆息をするだけで、困った様子はなかった。

彼女は、一人でここに来ているわけではない。
ただ、相方の方を一瞥するだけで、済む話なのだ。ウォルトは、一瞬、嫌な顔を示すが、こうなったら仕方がない。

「いたずらに女性を傷つけるのは趣味じゃないんだが、こっちも任務なんでね」

ウォルトが『獣人化アンスロ』のスキルを使用して、その姿を『狼男ウェアウルフ』に変えた。
その恐ろしい異形の姿に、『森の神殿』の中に森の民たちの悲鳴がこだまする。

大きな鋭い爪が、いつでも無抵抗の民たちに届くことが可能だと悟ると、シルフは諦めるのだった。
精霊の声が、『アウル』の二人を、祭壇まで案内する。

「私の指示通り、神殿の中を進みなさい。その代わり森の民に手を出す事は禁じます」
「わかったわ」

その条件を飲んだウォルトとパメラは、風の精霊シルフが祀られた像がある間に到着した。
目の前には、『水の宝石アクアサファイア』はなかったが、代わりに結界を形成するための精霊具が置かれている。

「これは何かしら?」
「精霊の秘宝ではありませんが、それに準じる精霊具です」

説明を受けて、パメラは納得するのだった。
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