低利貸屋 レイヴン ~ 錬金?いや、絶対秘密だが増金だ 

おーぷにんぐ☆あうと

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第4章 呪われた森 編

第111話 残念な申告

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森の民の集落にある物見櫓を昇りきったレイヴンの眼前に立つのは、白髪を肩まで下ろす初老の男だった。
この距離では、見間違えるわけもなく、その人物は森の民の長。名前はウィード。

二日前の早朝、レイヴン一行が『森の神殿』を出発した際、出口近くまで見送りに来ていた彼が、どうして集落の中にいるのか?

しかも、冷淡な視線を自分に向けている理由が分からない。
レイヴンは、先ほどの質問をもう一度、繰り返した。

「ウィード、あんた、ここで何をしているんだ?」

二度目の質問で、短い嘆息を漏らしたところ、質問の意図は伝わっている様子。
そして、右の口角だけを上げて、軽く笑うのだった。

「何をしているとは、また、呑気な質問ですね」

この小馬鹿にしたような返答には、初対面の時に見せた人当たりの良さ。その面影は、まったくない。
目の前にいる人物が、レイヴンからの救援物資を受け取り、感激に涙を滲ませていた人物と同じとは、到底思えなかった。

それほど、ウィードの表情は様変わりしており、彼の視線は、どこまでも冷たい。
肩に乗っていたクロウが、思わず兄の背中に隠れるほどの豹変ぶりだった。

『監視者は、この男か・・・』

決して友好的とは言えないウィードの態度が、レイヴンに確信を抱かせる。
だが・・・、監視者=『死霊魔術師ネクロマンサー

頭の中に浮かぶ等式が成立するとは思いたくなかった。また、この答えに到達するためには、いくつかの疑問も残る。

「あんた、本物のウィードか?それとも・・・」
「アンデットを疑っているのであれば、もちろん、その答えはで間違いない。そして、・・・」

森の民の長は、突如、胸を抑えて口を閉ざした。苦悶ともとれる険しい表情を数秒見せた後、すぐに仮面を被ったような冷たい顔に戻る。

「そして、森の民の長、名はウィード」

彼の言葉を信じるならば、白髪初老の男が『死人ゾンビ』という事はなさそうだ。
まだ、引っかかる点はあるが、レイヴンは別の質問を投げかける。

「それじゃあ、あんたが『死霊魔術ネクロマンシー』を使っているというのか?」
「最初から、その質問をすればいいのに・・・私はまどろっこしいのは苦手でね。まさしく、その通りだよ」

レイヴンは、苛立ちを覚えた。ウィードが真実を話しているならば、森の民を統べる長が、慕う民たちに向かって、『死霊魔術ネクロマンシー』をかけている事になる。
心理的に、おぞましいという感情が湧き上がるのだ。

正義感という言葉を安易に動機として使いたくない。それでも、これだけは聞いておかなければ気がすまなかった。

「どうして、守るべき森の民、同胞を傷つけようとするんだ?」
「何を言っているのかな。私は、長として民たちを新たな世界へと導こうとしているのだよ」

思想の違いか、見解の相違か。
いずれにせよ、いくら話しても駄目なパターンだと、レイヴンは気付いた。

自分が正しいと信じて疑わない妄想家には、何を言っても無駄なのである。
ならば、アンナや他の森の民たちがこの事実を知る前に、人知れずこの場で決着をつけるべきだと、レイヴンは腹を括った。

「望んでもいない世界に、勝手に導かれるのも迷惑な話だな」
「・・・いずれ、私の正しさが証明されますよ」
「無理だね。あんたの野望は、ここで俺が断つ」

戦闘態勢に入る黒髪緋眼くろかみひのめの青年をあざ笑うウィード。
その余裕の表情が気に入らないが、その根拠はすぐに知ることとなった。

「レイヴン!」

不意に物見櫓の下の方から、呼ぶ声が耳に届く。覗き見ると、仲間たちがアンデット系モンスターに囲まれているのだ。
一見、窮地のようだが、戦力としてモアナにライもいる。簡単に後れを取るとは思えないが・・・

「どうします。助けにいきますか?・・・それとも、宣言通り、この場で決着をつけますか?」

レイヴンは、ウィードの挑発に、まだ何か隠し持っている能力を勘ぐる。
先に『死霊魔術師ネクロマンサー』を討つという方法がベストのはずだが、それが罠である可能性も考慮するのだ。

しばらく、逡巡した結果、レイヴンがとった行動は、仲間の救出である。
何の躊躇いもなく、高さ十数mの物見台から飛び降りた。

「勘のいい男ですねぇ」

一人になったウィードが、独り言を呟くと彼もまた、この場から姿を消す。
物見台には、誰もいなくなるのだった。

一方、勢い良く飛び降りたレイヴンは、地面に激突する寸前で、『金庫セーフ』から、マットと大量の緩衝材を取り出して、大地に敷く。

それで、衝撃を緩和して、見事に着地するのだ。
カーリィの横に並んだレイヴンは、大きな声で仲間に叫ぶ。

「みんな、頭を低く下げろ」

意図は掴みかねるが、素直に従うと、『炎の剣フレイムソード』の刃が彼女たちの頭の上を通過した。
レイヴンは炎の精霊の剣を振り回して、自分を中心に一回転することで、周囲に炎の斬撃を飛ばしたのである。

死んでいる者に対して、致命打という表現はおかしいが、これでアンデット系モンスターの大半を壊滅させた。
これに負けまいとモアナとライが、自慢の得物を振るう。

レイヴン一行の総力を持って、突如現れた不死の軍団を打ち払った。
敵の気配がなくなるのを確認し、黒髪緋眼くろかみひのめの青年は、先ほどまで自分がいた場所を見上げる。

「ちっ」

想定通りではあるものの、やはり、視線の先にはウィードの姿はなかった。
隙をついて、この場を離れたのだろう。

「上で何があったの?」
「『死霊魔術師ネクロマンサー』を見つけたが、どうやら、逃げられたようだ」

事情を知らないカーリィたち、特にアンナにこの事実を告げるのには葛藤があるが、隠し通せる話とは思えなかった。
レイヴンは、自らが対峙した相手の事を包み隠さず話す。

死霊魔術師ネクロマンサー』の正体を知った時、誰もが次の言葉が出なくなるのだった。
正直、信じられないという想いが先行する。しかし、レイヴンがこんな嘘をつく訳がないという事も理解していた。

「アンナ、大丈夫?」

森の民の少女を見かねたカーリィが声をかけるが、彼女からの反応はない。
心の中の整理が、まだ、ついていないのは一目瞭然だ。
仲間全員が、彼女の気持ちに同調するように消沈する。

『パン!』

そんな中、気持ちを切り替えるためにレイヴンが手を叩いた。
ここで落ち込んでいても仕方がない。
それは、誰もが分かっている事だ。

「アンナ、今は俺が見た事実しか伝えていない。もしかしたら、その裏には、別の事実が隠れているかもしれない」

ウィードがレイヴンに語ったのが、彼の本心なのかどうかも分からない。
それを確かめるためにも、進まなければならないと諭した。

「・・・そうですね。」

ファヌス大森林を覆う瘴気。アンデット系モンスターが蔓延る集落。
森の民として、解決しなければならない問題は山積みだ。

ウィードの件も、その一つと捉えて、前を向くしかない。
割り切るのは簡単な事ではないと思うが、彼女の心が一歩前進したことを認めると、レイヴンは現状把握に努める事にした。

逃げたとはいえ、ウィードは、まだそんな遠くにまで移動していないはず。
もう一度、物見櫓の上に昇り、痕跡や追跡が可能か確認しようと行動を起こした。

「待って、私も行くわ」

今度はカーリィもアンナのために何かしたいのか、同行を申し出る。
彼女は返事も聞かず、梯子に手をかけるのだった。

無理に追い返すという事はせず、レイヴンは一緒に昇り、物見台に着いた時、弟に話しかける。
視野の広さはメンバー1。クロウの能力に期待したのだ。

「どうだ、分かるか?」
「ちょっと待ってね。今、探すよ」

クロウが首を左右に振り周辺を見渡す。この動作を二往復した後、ある一点を凝視した。

「分かったのか?」
「兄さん、多分、奥の方に移動しているよ」
「やっぱりな」

レイヴンが得心しているのは、ウィードの行動が予想通りだからである。
この森の民の集落の中で、決戦として選ぶ場所は、あそこしかなかった。

「奥には、何があるの?」
「世界樹だろ」

カーリィの質問に、あっさり回答すると彼女も納得する。
確かに最終決戦の場として、これ以上、相応しい場所はないと思えたのだ。

「急いで追いかけよう」

レイヴンの言葉に異論はない。ただ、その方法に問題があり、彼女としては珍しく、ついて来た事を後悔した。
この物見台の高さから飛び降りるのには、さすがのカーリィも尻込みをする。

「さっき、俺がやって見せただろ。大丈夫だ」
「・・・でも」

躊躇いを見せる砂の民の美女をレイヴンは、抱きかかえた。しっかりとしがみつき、カーリィが目を瞑る。

「行くぜ」
「きゃあああ」

覚悟を決めても怖いものは怖い。
今まで気にした事はなかったが、ここでカーリィは、初めて自分が高所恐怖症なのかと疑うのだった。
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