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第2章 炎の砂漠 編

第24話 密航者?

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豪華客船は、快適にミードル川を遡行そこうし、優雅なクルーズ旅行は順調に進んだ。
目的地である川港町トルワンに間もなく到着するということで、船員が積み荷の点検を始める。

客室の下に船倉があり、船員は手元のリストと照らし合わせながら、順番に荷物を確認していたのだが、その動きが途中で止まった。
何か異変を感じて、周囲を見回すのである。

「・・・ううう・・」

やはり、どこかから呻き声のような音が聞こえるのだ。初めは幻聴と思い、気にせず仕事を続けようとしたが、気にしないようにすればするほど、却って気になってしまう。

これでは仕事にならないと、散々迷ったが挙句、船員はその音が出ている原因を探すことにした。
うす暗い船倉の中、手に持つランプの灯りを頼りに隈なく探す。
すると大きな箱の前に行き着いた。

船員が、その箱に顔を近づけ耳を澄ますと、「・・・ううう・・」と、やはり呻き声のようなものが聞こえる。
音の発生源は分かった。後は開ける勇気だけ。船員は、大きな箱の前を三往復した後、意を決して、その箱に手をかける。

そして、施錠を解除した瞬間だった。箱の蓋が大きく飛び跳ねる。中から、何かが飛び出して来たのだ。
船員は、思わず尻餅をつくと、そのまま、腰を抜かす。

「で、出た・・・えっ、何?」

驚きながらもよく見ると、フードを被った人の姿に見えた。足元がおぼつかないのは、きっと、長い間、箱の中で無理な体勢でいたのだろう。
体の節々に痛み、もしくは痺れを感じているのだと思われた。

船員は、その人物の健康状態が気になり、声をかけようとする。また、心配する反面、この人はどうして、箱の中に入っていたのだろうかという疑問が湧き上がるのだ。

間違って、入ってしまったのか?
いや・・・

「き、君、もしかして密航者か?」

問いかけられた人間の反応は、実に分かり易かった。あれほど、足元がふらついた状態だというのに、船倉から逃げだしたのである。
ただ、船員も腰を抜かしたままで、すぐには起き上がることが出来なかった。

追いかけるのは無理だったため、壁伝いに何とか立ち上がると、船員は船倉の中にある伝声管で、操舵室にいる船長に侵入者がいる事を告げる。

万が一、あの者が乗客を傷つけるようなことがあれば、船の信用にかかわるのだ。
事の重要性から、船長は緊急連絡用の魔法道具マジックアイテムを使用して、船内の客に注意喚起を促す。

「ただいま、この船内に不審者らしき人物を見かけました。お客さまにおかれましては、安全の確認がとれるまでは、くれぐれも自室の中で待機をお願いいたします。ご迷惑をおかけいたしますが、ご協力をお願い申し上げます」

明け方に近い時間だが、この放送が三度も鳴らされれば、どんな人間も起きたことだろう。
レイヴンもその口である。

寝ぼけ眼でリビングに向かうと、女性陣、二人が既に起きていたのだが・・・
そこには半裸に近い状態のカーリィとミラがいたのだ。

「お、お前らっ」
「あ、ごめんなさい」

二人は、慌て自分の寝室へと戻って行く。しかし、何という格好で寝ているのだろうか?
今のラッキー?で完全にレイヴンは、目が覚めてしまった。
無理矢理起こされて、多少、不機嫌だった彼も、「まぁ、よしとしよう」と寛容な心を持つようになったのである。


そんなロイヤルスイートの一室から、二階層ほど下の階の部屋には、よしとはできない夫婦がいた。
それは、レイヴンが受付窓口で順番を譲ってあげた、見るからに成金といった、感じの悪い夫婦。

名をピッツとネアロといった。
今、夫のピッツの方が、部屋の中のあちこちをひっくり返し、何かを探している。

「儂の宝石がないぞ」
「えっ、まさか、今、放送にあった不審者の仕業かしら?」

ないと言って探しているのは、ネックレスにして胸元で光っていた宝石のことだ。
受付で並んでいた時にウォルトが指摘しただけあって、相当大きな代物である。あれがどこかに紛れ込むとは、到底考えにくい。

ピッツも、段々、妻のネアロが指摘したように不審者が部屋の中に侵入し、盗んで行ったのではないかと考えるようになった。

まだ、おそらく捕まっていないことは、先ほどのアナウンスで分かる。
どんな凶悪な相手が分からない以上、部屋の外に出るのは得策とは思えなかった。

そこでピッツは、手持ちのベルを鳴らす事にする。これと対になるものを、常時、執事の男に持たせており、日頃から、呼び出しに使用していたのだ。
しかし、いくら鳴らそうとも、何をしようとも、あの執事がやって来る気配がない。

「何をしておるのだ、モックの奴」

モックが朝に弱いところを、一度も見せたことがなかった。
いつも屋敷の中で、誰よりも早く起きては、朝の準備をしていたのである。

そのモックが呼んでも来ないことに、何かあったのではないかと心配するような、心優しい主人たちではなかった。逆に、さぼっているのだろうと決めつけるのである。

ウォルトに大変だなと言われた時、モックはさぞかし心の中で同意していたことだろう。
いずれにせよ、来ない者をいくら待っていても仕方がなかった。
業を煮やしたピッツは、客室係の者を捕まえようと廊下に出る。

「あなた、危ないわよ」
「なに、不審者を船の者が探しているのなら、誰か彼かは廊下にいるだろう。そいつを捕まえて、事情を説明するだけだ」

ピッツが必死になるのは、あの宝石を購入するために費やした費用が、非常に高かったため。
ある遺跡から発掘されたという触れ込みで、白金貨100枚もしたのだ。
他の宝石ならともかく、あれを失う訳にはいかない。

慎重に歩くピッツは、廊下の角を曲がった拍子に誰かに当たって、すっ転んでしまった。
それは相手も同様で、同じ高さで目が合う。次の瞬間、相手の方は視線を外して、立ち上がると、すぐに走って行った。

ピッツには、フードを被った女の子のように見えたが・・・
やや遅れて、成金男がある事を察した。

『今のが、きっと不審者だ!』

太った体を何とか立ち上がらせると、ピッツは大声で叫ぶ。

「不審者を見つけたぞ!宝石泥棒だ!今、上の方に上がって行ったぞ」

船員がピッツの所に駆け付けるまで、彼は同じ事を叫び続けた。

「分かりましたから、どうか、お静かに」

そう窘められて、ピッツは初めて気づく。廊下のドアから覗く顔、全てが自分に対して冷たい視線を送っている事を・・・

「・・・いや、儂は悪くないぞ」

憤慨するピッツに船員が、再び注意を促す。

「廊下ではお静かにお願いします」

指さされた先の張り紙に、船員が話した事とまったく同じ事が書かれており、ピッツはシュンとするのだった
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