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第1章 王城の悪徳卿 編

第18話 決着の後・・・

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スラム街での戦闘。戦局が一気に傾く。
というより、勝敗を決したと言っても過言ではない状況となる。

ソールは、シェスタにナイフを突きつけながら、馬車の中のトーマスにも外に出るよう命じた。
馬車の小さな窓では、全体を窺うことはできないが、人質となったシェスタの青ざめた表情だけは視認できる。トーマスは観念して、外に出る支度を始めた。

「でかしたぞ、ソール」

ビルメスはそう褒めるが、ソールは複雑な表情を露わにする。先ほど、呪いをかけられたことを、簡単に忘れることなどできはしないのだ。

だが、今は仲違いしている場合ではない。
とりあえず、組織から与えられた任務を遂行する。それだけを考えるよう、頭を切り替える事にした。

トーマスとクロウが馬車から出ると、想像よりも最悪の状況に愕然とする。
頼りとなるレイヴンはカーリィの白い紐を巻きつけられ、スキルを封じられていた。

しかも、カーリィの『無効インバルド』はスキルだけではなく、生命力まで奪うような虚脱感も与える。
黒髪緋眼くろかみひのめの青年には、抵抗する力も残っていないように見えた。

一方、『星屑スターダスト』のメンバーはというと、こちらも武装を解除され、一箇所にまとめられている。反撃に移れるような状態には見えなかった。
この惨憺さんたんたる状況にトーマスは目を覆い、クロウは兄の窮地に叫びたくなる衝動を必死に堪える。

「まずは、散々苦しめられた、この黒髪から始末してやる」

ビルメスが呪文を唱え、『呪いの玉カースボール』が直撃すると、レイヴンから苦悶の声が漏れた。歯を食いしばって、苦しみに耐える姿は見ていられない。

捕まっているシェスタは、そんなレイヴンから目を逸らし、涙を溢れさせていた。
今からでも、自分が死ねば、『星屑スターダスト』の仲間が、どうにかしてくれるかもしれない。
そう考えた時、ナイフの刃に自分から首筋を当てにいくのだった。

「おい、待て。早まるな!・・・こんなくそ呪いなんか、すぐに解除してみせるから、お前は大人しく捕まっていろ」

苦しみながらも、シェスタの不穏な動きを察知したレイヴンが自制を指示する。
明らかな強がりだが、この言葉はソールの方にも注意を促す結果となった。
人質としての役割が終わるまで、彼女の自裁など許す訳がない。

「くそ呪いだと!もう、一発喰らってみるか?」

挑発を受けたビルメスはレイヴンに向けて、二発目の『呪いの玉カースボール』を放った。
単純に倍以上の激痛が体の内部から全身へと行き渡る。

動かすことができない手足に自然と力が入り、目や鼻、口から血が流れ始めた。
さすがにこのままでは、レイヴンが絶命してしまう。そう思われた時、馬車の近くから、熱風が吹き出し、明るい光が辺りを覆った。

「兄さんを苛めるな!」

その熱源、光源となっているのは、黒い鳥。いや、先ほどまで黒かったクロウである。
今は、全身の羽が赤い炎に包まれ、そこから激しい熱風も生じているのだった。

黒い輪がある足以外、全身が燃え上がり、クロウは高く舞い上がる。その際、炎に包まれた羽根がソールの顔を襲った。
思わず、シェスタを離し、地面をのたうち回る。

高く舞い上がっていたクロウは、一気に急降下。そのまま、レイヴンの元へと向かう。
クロウの炎は、カーリィの白い紐を焼き切って、『無効インバルド』の呪縛から兄を開放するのだった。

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すかさず解呪を行ったレイヴンは、そのまま、残った体力を使って、カーリィに向かって全力で走り出す。
それを紐で迎え撃とうとするカーリィなのだが、クロウの炎が纏わりつき、思うように操ることが出来なかった。

レイヴンは走りながら、『金庫セーフ』からある物を取り出す。
そして、大きな声で渾身の呪文を唱えた。

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光りがカーリィの全身を包むと、虚ろだった瞳にセルリアンブルーの輝きが戻る。
それはビルメスの支配から、解放された証拠だった。

一息つく間もなく、レイヴンは地面の上に横たわるクロウの元へ駆け寄る。
今は全身の炎は消え、いつもの黒い羽根に戻っていた。

「大丈夫か?・・・まったく、無茶しやがって」
「僕は大丈夫だよ・・・今は、ちょっと力が入らないけど」

レイヴンは、力の加減に注意しながら弟を抱きしめる。
その後ろで声をかける人物がいた。

「約束通り、助けてくれたのね。・・・本当にありがとう」

それは、正常に戻ったカーリィだった。その瞳は、レイヴンが抱えるクロウを心配そうに見つめている。
自分のせいで、こうなったと頭の中に、薄っすらとした記憶が残っていたのだ。

「ちょっと、今は能力を使っただけで大丈夫。それより、カーリィの方に怪我はないか?」
「私は大丈夫だけど・・・でも、どうやって、私を救ってくれたの?」

それは、あまりの展開に呆然としていたビルメスも同様。
何が起こっているのか、理解が追い付かなかった。

「その娘の『無効インバルド』は本物だ。お前の妙なスキルだって通用しないはず」
「これで、無効のスキルを使えなくしたのさ」

そう言ってレイヴンが見せたのは、手枷である。但し、ただの手枷ではなく、スキル持ちの囚人に使う特殊な物だった。
それは先日、レイヴンが王城で捕まった時に、買い取った物。

つまり、この手枷をカーリィに嵌めて、スキルを封じた後、奴隷であるカーリィを買い取ったのである。
カーリィが奴隷であることに変わりはないが、所有権がレイヴンに移ったのだ。

「そんな馬鹿な・・・」

嘆くビルメスに白い紐が伸びて巻き付く。もう主人マスターではないフード男に、カーリィは攻撃が可能となったのだ。
動揺するビルメスは、あっけなく捕まり、これで身動きを封じられる。

もう一人のソールも目をやられており、戦闘不能に陥っているところ、『星屑スターダスト』の面々に制圧されていた。

これで、本当にギリギリではあったが、何とか望む形での決着がつく。
レイヴンたちは、薄氷の勝利を拾う事ができたのだった。

戦闘後、捕らえたビルメスに、レイヴンが訊問をする。
それは、彼を一定のレベル以上の呪術師と見込んでのことだ。

「ミューズ・・・ミューズ・キテラって名前の呪術師を知っているか?」
「・・・どこで、その名を聞いた?」

この返答で、ビルメスが何らかの情報を持っていることが明らかとなる。ただ、レイヴンが聞きたいのは、その先のことだ。

「ミューズは、今、どこにいる?」
「・・・彼女は、我らの組織のリーダー。・・・居場所など、末端の私が知る訳ないだろう」

・・・組織?・・・こいつが末端?

情報が一気に増えて、処理に手こずる。これほどの戦闘員を揃え、ビルメスのような呪術師が末端とは、一体、どんな組織なのだろうか?

「その組織ってのは、一体、何なんだ?」
「我らの組織は『アウル』。この世に・・・」

話している途中で、ビルメスの表情が急に醜く歪みだした。口元から、血を溢れ出すとそのまま首が力なく前に折れる。
どう見ても息絶えたことが分かった。

「その組織に、始末されたのか?」

カーリィによって、ビルメスのスキルが封じられている事から、彼自らが何かしたとは思えない。
その『アウル』について、話そうとしたため、殺されたと考えるのが自然だ。

しかし・・・
辺りには、それらしき人物は見当たらない。

事前に、何かしらの制約をかけ、自動で始末したとすれば、相当な能力の持ち主が、組織にいると思われる。
ビルメスが語った『アウル』という組織に、レイヴンは戦慄を覚えるのだった。
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