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第四章 「恋するフォーチュンクッキー」

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 スカイタワー下のフードコートで手持ちのものを食べ終えると、原田貴明はらだたかあきがどこかもっと落ち着いて話せる場所が良いというので、美樹が大学のキャンパスを案内することになった。
 電車移動の際も愛里と美樹は二人でくっついて、あれこれ談笑していたが、原田だけは一人でスーツ姿の男性たちの傍に立って、愛里たちだけじゃなく、女性そのものから距離を置いていた。

「こんなことになるなら、新宿御苑とかで良かった気がする」

 駅を下りて大学に向かう路地を歩きながら、愛里は美樹にそう話しかけた。

「けど、愛里と二人きりで暮らしてる時は大丈夫なんでしょう?」
「そうなのよ。だから全然気づかなかった。でもほんと、ここまで駄目なら先に言っておいて欲しかったわよ。ね、センセ」

 二人の後をついて歩く原田は、少し顔色が良くなっていた。どうやら体調は回復したみたいだ。愛里は少し安心し、笑みを浮かべる。

「いつも言ってるし、君が触ろうとすれば注意していただろう。それより愛里君」
「なに?」
「さっき君はお姉さんの言った通りになった、と言ってたよね」
「そうだけど?」

 愛里の返事に原田は顎に右拳を当てながら何やら考え込んでいる。

「君のお姉さんってさ」
「あー、駄目だよ。うちのお姉ちゃんってそういうことにはほんと冷めてるから」
「まだ何も言ってないだろう」
「そもそもさ、あの人に恋愛なんて無理な話なんだよ」

 そう言った愛里に苦笑を見せた美樹は、見えてきた大学の校門を指差して原田に「あそこです」と声を掛けた。

 愛里は何度か美樹と一緒に学食でお昼を食べたこともあるが、原田はどうだろうか。流石に学生には見えない。原田はサラリーマンには見えないが、かと言って大学生に混ざって違和感がないかと言われると、どうにもそういう若さは感じられない。美樹によれば時々近所のおばさま方の団体を見かけると言っていたので、別に学生以外の外部の人間も大丈夫だと思うと言っていた。

「実は僕、大学は中退していてね。あまり良い思い出がないんだ」
「センセって確か」
「ああ」

 都内の有名私立大学の名を出すと、それに苦笑いしながら原田はうなずく。

「もったいなくない?」

 愛里は家庭のことや姉の病気のこともあり、大学に行くのはあきらめたけれど、勉強が好きとか何かしたいことがある訳ではなかったから、特に後悔はしていなかった。ただ作家を、それも人気恋愛小説を書いている人間が大学を卒業していなかったということに、少しだけ驚きがあった。

「勉強が嫌いだったの?」
「そういう訳じゃないよ。ただね……その当時から人嫌いではあったかな。まあ、それが原因って訳じゃないんだが」

 何か事情がありそうだったが、美樹が大学の敷地内に入ったところで簡単な施設の説明を始めたから、愛里はそれについては何も突っ込まずにおいた。

「ほんとは世田谷の工学部の方が大きくて色々あるんですけど、わたしが通ってる人間科学部はこっちなんで」

 大きくない、と美樹は言うけれどそれでも愛里からしてみれば充分に巨大な施設だった。道路を挟んで三号館まであり、それ以外に中学校や高校が併設されている。その三号館の中に入ると、吹き抜けになった空間に黒と白の丸テーブルのセットが並んでいた。

「何か食べていきます?」
「いや、特にはいらないけど……ゆっくりできるなら」

 外気はまだ冷たくて、愛里も部屋の中の方が良いと言った。

「じゃあ、何か飲み物でも買って中で話しましょうか」

 美樹の提案に愛里も原田も頷いて、彼女に続いた。

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