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第十乃段
大樹
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風が水面を撫でていく様が、眼下に延々と広がっていた。惑星を覆う液体という意味では「海」と呼べるが、成分が海水に近いものかどうかは不明だ。アリサは飛空艇を自動操縦に切り替え、今一度端末を確認した。
――地球型惑星RP53における生命反応の確認について調査されたし。
日々この広大な宇宙に点在する様々な惑星について、探査ドローンが虫のように放たれている。それらが逐一送ってくるレポートに基づき、詳細調査が必要なものはアリサたちのような調査隊が実際に現地に赴いて資料を回収してくるということになっていた。
母星に海は存在しない。人工のプールはあるが、そういったものを利用できるのはごく一部の高級取りだけだった。
飛空艇を海上二百メートルほどの低空で飛ばしながら、アリサは生命反応と思しき熱源をサーチする。
遥か昔に生命は海より生まれたという説がある。地球を離れた今となってもまだ定説がないその生命誕生の謎を、アリサはいつか解き明かしたいと思っていたが、やっていることはゴミ回収業と変わりない。
同じ調査官のミゾグチに一度話したことがある。
かつては海で生活する生き物を閉じ込めて展示していた水族館というものがあり、そこは恋人たちのデートスポットにもなっていたと。現在のような太古の生命の復元レプリカや、映像模型などではなく、本物の魚たちが巨大な水槽の中を悠々と泳ぎ、海月が大量にたゆたう空間は壮観で、水棲生物たちに芸を仕込んだショウも披露されていた。
もう諦めて母艦に帰ろうかと思った時だった。
「何?」
それは巨大な影だった。こちらに向かって真っ直ぐに伸びている。どうやら生命反応らしき熱源というのは、あれのことらしい。
目視でも分かる巨大な樹だ。それは天を覆うほどに枝葉を茂らせ、海のただ中に立っていた。
サーモカメラの数値が心臓の鼓動のように変化し、そいつが生きていることが分かる。
どうしてここにそんなものが生えているのか、誰も知る人間はいないだろう。ただアリサは思ったのだ。原初の生命は、こんな奇跡的な出会いから生まれたのだろうと。
カメラで見れば小さな四足の生き物が、その根本で寝息を立てていた。
その姿を端末で撮影しようとした時、メッセージが届いているのが分かった。画面には『蒔島アリサ様』という書き出しで、彼からのプロポーズの品が届いたことが通知されていた。それでようやく今日が自分の誕生日なのだと、アリサは思い出した。
――地球型惑星RP53における生命反応の確認について調査されたし。
日々この広大な宇宙に点在する様々な惑星について、探査ドローンが虫のように放たれている。それらが逐一送ってくるレポートに基づき、詳細調査が必要なものはアリサたちのような調査隊が実際に現地に赴いて資料を回収してくるということになっていた。
母星に海は存在しない。人工のプールはあるが、そういったものを利用できるのはごく一部の高級取りだけだった。
飛空艇を海上二百メートルほどの低空で飛ばしながら、アリサは生命反応と思しき熱源をサーチする。
遥か昔に生命は海より生まれたという説がある。地球を離れた今となってもまだ定説がないその生命誕生の謎を、アリサはいつか解き明かしたいと思っていたが、やっていることはゴミ回収業と変わりない。
同じ調査官のミゾグチに一度話したことがある。
かつては海で生活する生き物を閉じ込めて展示していた水族館というものがあり、そこは恋人たちのデートスポットにもなっていたと。現在のような太古の生命の復元レプリカや、映像模型などではなく、本物の魚たちが巨大な水槽の中を悠々と泳ぎ、海月が大量にたゆたう空間は壮観で、水棲生物たちに芸を仕込んだショウも披露されていた。
もう諦めて母艦に帰ろうかと思った時だった。
「何?」
それは巨大な影だった。こちらに向かって真っ直ぐに伸びている。どうやら生命反応らしき熱源というのは、あれのことらしい。
目視でも分かる巨大な樹だ。それは天を覆うほどに枝葉を茂らせ、海のただ中に立っていた。
サーモカメラの数値が心臓の鼓動のように変化し、そいつが生きていることが分かる。
どうしてここにそんなものが生えているのか、誰も知る人間はいないだろう。ただアリサは思ったのだ。原初の生命は、こんな奇跡的な出会いから生まれたのだろうと。
カメラで見れば小さな四足の生き物が、その根本で寝息を立てていた。
その姿を端末で撮影しようとした時、メッセージが届いているのが分かった。画面には『蒔島アリサ様』という書き出しで、彼からのプロポーズの品が届いたことが通知されていた。それでようやく今日が自分の誕生日なのだと、アリサは思い出した。
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