千文字小説百物騙

凪司工房

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第九乃段

生命のドラム

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 貧乏ゆすりのようにバスドラムを小刻みに鳴らし、タクは一人、バンド仲間を待っていた。
 時間は既に約束の二時半を回っている。練習用の貸しスタジオ代はまた自分が全額払うことになるのだろうか。こんなことならもっと他の、プロを本気で目指している奴らとバンドを組んだ方がマシだ。
 タクはそんな苛立いらだちをぶつけるようにシンバルを鳴らす。右手のスティックをくるりと回し、バスドラムでリズムを刻みながら、スネア、タム、フロアタムと順に調子を見ていく。その手がクラッシュシンバルに届こうとした時だった。

「何だ?」

 がくん、という大きな地響きを聞いた次の瞬間、世界が歪んだ。

 気づくと暗闇の中にいた。スマートフォンの電源は入るが電波が届いていない。圏外だ。
 タクは自分が無事なことを確かめ、充電が心もとないスマホの光で周囲を確認する。
 地震があったのだろう。入口のドアは歪んで開かなくなっていた。

「誰か、聞こえますか?」

 声を出してから気づく。防音がしっかりしたスタジオを選ばなければ良かったことに。

「くそっ。本当に何から何までついてない」

 外の様子は分からない。ただ自分がここに閉じ込められたことを誰かが通報してくれれば、いつか助けが来るだろう。
 でもそれはいつだ?
 本当に来るのか?
 思えばいつも待ってばかりだった。
 タクは転んだドラムセットを直し、椅子に座る。足元に置いたスマホは一分ほどで消えてしまった。それでも構わない、とスティックを握り締める。
 シンバル。鳴る。バスドラ、響く。
 まだ、ここで音は生きている。
 最期じゃ無いよな。苦笑して暗闇の中、自分の経験と勘を頼りにスティックを動かし始める。
 ハイハットの小刻みな息遣い。
 そこからのクラッシュ。
 そして、バスドラの鼓動。
 助走から跳躍し、サビから畳み掛ける。スネアの掠れた音がボーカルのアユのハスキーボイスを思わせる。フォービートのフィルフィン。タムは連打され、Aメロは疾走する。
 情緒的なBメロでは、優しいリズムにスネアとクラッシュが傷を作る。バスドラは脈打ち、再び豪雨のようなサビ。
 熱く、悲しい。けれどそれは本気で駆け抜ける為の前振りに過ぎない。
 転調。そこから一気に雷のようなシンバルの世界へ。
 駆け抜けろ。
 この闇を駆け抜けろ。
 どこまでも強く、
 てっぺんまで!
 届け!

 その時だった。壁が崩れ、一筋の光が差した。

「届いたぜ! お前の熱いドラム」

 現れたのはリュージ、アユ、マッスー。バンドの仲間たちだった。
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