77 / 100
第八乃段
レプリカントの死
しおりを挟む
寝室のベッドの上で、女性が倒れたまま動かなくなっていた。よく見れば首を切断しようとした痕が見える。ただ使用した包丁の刃は人工皮膚を突破したものの、その下の保護樹脂を五センチほど切ったところで止まっていた。
調査官のルークはそれを見て家主の男性に尋ねる。
「これはあなたのレプリカントですか?」
「目覚めたらこのザマだよ。本当にどうかしてる。おたくの商品は一体どうなってるんだ?」
ルークは「すみません」とひとまず謝罪の言葉を述べ、作業スタッフに彼女を部屋から運び出させる。
「買ってまだ三ヶ月だぞ。保証期間だから当然新品に替えてくれるんだろうな?」
「確認したところ確かに保証期間内ですので、調査が終わり次第新しいレプリカントを派遣するという手順になると思います。ただ調査でお客様の方に原因があると分かった場合には、商品を故意に破損したということで、保証は無効となりますので、その点だけご注意下さい」
レプリカントは人間そっくりの外見で、思考AIにその人のデータを用いれば言動もよく似せられるというので、特に亡くなった恋人の代用品としての需要が高かった。
だが最近、そのレプリカントが謎の死を遂げるという事件が頻発していて、今回も調査官のルークはその一連の事件との関連を疑っていた。
「蒔島博士。回収したデータはどうでしたか?」
「今までと同じだ。何もおかしなデータは見つからない。彼女は彼女として正しい行動をしたという結果しか出てこなかった」
当然男性の方の素行調査も行われていた。調査書には、男はコンピュータエンジニアとして会社では真面目な勤務態度だったと書かれている。レプリカントを購入したのは彼女が亡くなって半年経った頃だった。
机の上にはもう一つ封筒が置かれていた。それは博士の助手である鈴木という女性研究者が五分ほど前に置いていったものだ。どうやら男の亡くなった彼女について調べたもののようで、報告の冒頭から目を惹かれる内容だった。
報告によれば彼女は警察に男性からのDV被害を訴えていた。彼女の死は自殺として処理されていたものの、前日に彼女は病院で酷い鬱病だと診断を受けていた。
更に後日、男性が別の会社のレプリカントでも同じ事件を起こしていたことが分かった。
ルークは会社への報告書の最後にこう書き記した。
『何度やっても彼は彼女を上手く愛せなかった。それは彼が愛だと思っていたものが愛ではなかったからと推測される』
調査官のルークはそれを見て家主の男性に尋ねる。
「これはあなたのレプリカントですか?」
「目覚めたらこのザマだよ。本当にどうかしてる。おたくの商品は一体どうなってるんだ?」
ルークは「すみません」とひとまず謝罪の言葉を述べ、作業スタッフに彼女を部屋から運び出させる。
「買ってまだ三ヶ月だぞ。保証期間だから当然新品に替えてくれるんだろうな?」
「確認したところ確かに保証期間内ですので、調査が終わり次第新しいレプリカントを派遣するという手順になると思います。ただ調査でお客様の方に原因があると分かった場合には、商品を故意に破損したということで、保証は無効となりますので、その点だけご注意下さい」
レプリカントは人間そっくりの外見で、思考AIにその人のデータを用いれば言動もよく似せられるというので、特に亡くなった恋人の代用品としての需要が高かった。
だが最近、そのレプリカントが謎の死を遂げるという事件が頻発していて、今回も調査官のルークはその一連の事件との関連を疑っていた。
「蒔島博士。回収したデータはどうでしたか?」
「今までと同じだ。何もおかしなデータは見つからない。彼女は彼女として正しい行動をしたという結果しか出てこなかった」
当然男性の方の素行調査も行われていた。調査書には、男はコンピュータエンジニアとして会社では真面目な勤務態度だったと書かれている。レプリカントを購入したのは彼女が亡くなって半年経った頃だった。
机の上にはもう一つ封筒が置かれていた。それは博士の助手である鈴木という女性研究者が五分ほど前に置いていったものだ。どうやら男の亡くなった彼女について調べたもののようで、報告の冒頭から目を惹かれる内容だった。
報告によれば彼女は警察に男性からのDV被害を訴えていた。彼女の死は自殺として処理されていたものの、前日に彼女は病院で酷い鬱病だと診断を受けていた。
更に後日、男性が別の会社のレプリカントでも同じ事件を起こしていたことが分かった。
ルークは会社への報告書の最後にこう書き記した。
『何度やっても彼は彼女を上手く愛せなかった。それは彼が愛だと思っていたものが愛ではなかったからと推測される』
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
シングルパパ
谷川流慕
現代文学
妻に出て行かれ、子育てにてわやわんやの上村寿人。ところが子供を預けている保育園のユリカ先生に、仄かな恋心を抱いてしまう。ある日ユリカ先生が〝おはなし〟があると言って近づいてきた。上村は舞い上がったが、そのおはなしというのは、長男がお片付けをしないことに対する、やんわりとした苦言だった。上村はユリカ先生の迷惑にならないよう、子どもたちの躾を決意するのだが、言うことをきかない子どもたちにやがて辟易してしまう。
【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました
鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。
ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。
失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。
主人公が本当の愛を手に入れる話。
独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。
さくっと読める短編です。
※完結しました。ありがとうございました。
閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。
(次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)
薔薇は暁に香る
蒲公英
現代文学
虐げられた女に、救いの手を差し伸べる男。愛は生まれて育まれていくだろうか。
架空の国のお話ですが、ファンタジー要素はありません。
表紙絵はコマさん(@watagashi4)からお借りしました。
★【完結】鳳仙花(作品241112)
菊池昭仁
現代文学
池尻都と小説家、嵐山光三郎60才はお互いに結婚を考え始めていた。
だが、あれほどセックスに貪欲だった彼女が嵐山との性交渉に積極性がなくなり、いつの間にかふたりはセックスレスになってしまう。
嵐山にはその理由が気がかりだった。
セックスがなくても男女の恋愛は継続出来るものなのだろうか? 真実の愛とは?
春秋花壇
春秋花壇
現代文学
小さな頃、家族で短歌を作ってよく遊んだ。とても、楽しいひと時だった。
春秋花壇
春の風に吹かれて舞う花々
色とりどりの花が咲き誇る庭園
陽光が優しく差し込み
心を温かく包む
秋の日差しに照らされて
花々はしおれることなく咲き続ける
紅葉が風に舞い
季節の移ろいを告げる
春の息吹と秋の彩りが
花壇に織りなす詩のよう
時を超えて美しく輝き
永遠の庭園を彩る
甘夏と青年
宮下
現代文学
病気が発覚し、仕事と恋人を失い人生に失望した日々を送る女性、律。
深い傷を抱え、田舎を訪れ己の正解を求める少年、智明。
そして二人と交わる、全てが謎に包まれた『マキ』と名乗る青年。
これは、海の見える土地で、ひと夏を全力で生きた、彼女彼らの物語。
太陽と龍の追憶
ダイナマイト・キッド
現代文学
昔、バンドを組んでいた時に作詞したものや、新しく書いたものも含め
こちらにて公開しております。
歌ってくれる人、使ってくれる人募集中です
詳しくはメッセージか、ツイッターのDMでお尋ねくださいませ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる