13 / 100
第弐乃段
ひまなツリー
しおりを挟む
そこは光のほとんど差し込まない狭い部屋だった。彼らは閉じ込められている、いや、監禁されているといってもいい。扉一枚を隔てて、彼らをここに押し込んだ主たちは何やら相談をしているようだ。
「そろそろひな祭りになるけど、今年はどうするの?」
「先に出して飾っておいちゃ駄目?」
「でも育子あれでしょ。どうするの?」
「早く片付けないとお嫁に行けないっていうの迷信だったんでしょ。だったら飾ったままでもいいじゃない」
二人の足音が遠ざかったことに一旦胸を撫で下ろしつつも、今月頭に役目を終えた、角が折れてしまった鬼の面は涙を浮かべて「来年はオレだめかも」と言っている。
「何言ってんだよ。気持ちが折れたら終わりだぞ。また来年がある。いつもそう思ってなけりゃ、儂ら何の為にいるんだ。なあ?」
端に倒れているクリスマスツリーは門松に声を掛けられ、電飾を力なく光らせて頷く。しかしいつも力強く立っている門松も、今年は突風で転んでしまい、竹の一本が大破していた。
「それで雛人形さん。何か黙り込んでますけど、大丈夫ですか?」
ツリーはやっと出番が回ってくるというのに毎年のように浮かれた様子を見せない彼女を見て、思わず声を掛けてしまう。
「さっきの話、聞いてました? 今年はどうするの、ですって。もう駄目なんですよ、きっと。あたしに未来はないの」
その三日後のことだ。雛人形が収められたダンボール箱が謎の青い制服姿の男たちによって押入れから引き出され、外に運び出されていった。明らかに外部の人間の仕業に、物置の誰もが彼女が捨てられたのだと理解した。
雛人形はこの鈴木家の娘が生まれた時、もう三十年も前に購入された物で、彼女がとても大切にしていた。それが捨てられたというのは物置の住人たちにとってはサプライズどころの話ではない。誰もが次は自分の番だと覚悟を決めなければならなかった。
その二週間後、ついにツリーにもその時が訪れた。
――ま、まだやれる。やれるのに!
だが無情にも青い制服の男たちによって運び出されたツリーはトラックのコンテナに押し込まれる。扉が閉められると暗闇が覆い、続く振動でどこかに移送されていくのが分かった。
何時間揺られていただろう。気づくと再び制服姿の男たちに運び出され、見知らぬマンションの中へと持ち込まれた。
「これよ、これ。ツリーは今年もこれを使いたいわ」
そこにはお腹を大きくした娘と知らない男性が、笑顔で彼を待っていた。
「そろそろひな祭りになるけど、今年はどうするの?」
「先に出して飾っておいちゃ駄目?」
「でも育子あれでしょ。どうするの?」
「早く片付けないとお嫁に行けないっていうの迷信だったんでしょ。だったら飾ったままでもいいじゃない」
二人の足音が遠ざかったことに一旦胸を撫で下ろしつつも、今月頭に役目を終えた、角が折れてしまった鬼の面は涙を浮かべて「来年はオレだめかも」と言っている。
「何言ってんだよ。気持ちが折れたら終わりだぞ。また来年がある。いつもそう思ってなけりゃ、儂ら何の為にいるんだ。なあ?」
端に倒れているクリスマスツリーは門松に声を掛けられ、電飾を力なく光らせて頷く。しかしいつも力強く立っている門松も、今年は突風で転んでしまい、竹の一本が大破していた。
「それで雛人形さん。何か黙り込んでますけど、大丈夫ですか?」
ツリーはやっと出番が回ってくるというのに毎年のように浮かれた様子を見せない彼女を見て、思わず声を掛けてしまう。
「さっきの話、聞いてました? 今年はどうするの、ですって。もう駄目なんですよ、きっと。あたしに未来はないの」
その三日後のことだ。雛人形が収められたダンボール箱が謎の青い制服姿の男たちによって押入れから引き出され、外に運び出されていった。明らかに外部の人間の仕業に、物置の誰もが彼女が捨てられたのだと理解した。
雛人形はこの鈴木家の娘が生まれた時、もう三十年も前に購入された物で、彼女がとても大切にしていた。それが捨てられたというのは物置の住人たちにとってはサプライズどころの話ではない。誰もが次は自分の番だと覚悟を決めなければならなかった。
その二週間後、ついにツリーにもその時が訪れた。
――ま、まだやれる。やれるのに!
だが無情にも青い制服の男たちによって運び出されたツリーはトラックのコンテナに押し込まれる。扉が閉められると暗闇が覆い、続く振動でどこかに移送されていくのが分かった。
何時間揺られていただろう。気づくと再び制服姿の男たちに運び出され、見知らぬマンションの中へと持ち込まれた。
「これよ、これ。ツリーは今年もこれを使いたいわ」
そこにはお腹を大きくした娘と知らない男性が、笑顔で彼を待っていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる