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プロローグ

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 ランタンで照らし出された彼女の伸ばした程良い肉付きの右足のすねに、水仕事など全くしたことのないつるりとした綺麗な白い指先が当てられる。彼女の足には今特注の黒く染めた絹のストッキングがかれていて、その上をスケートでもしているかのように滑らかに彼の指が降りていく。

「あぁ」

 と、彼女はわざとらしく声をらしてやった。その吐息に彼は唇を歪め、更に感度を高めようと左側の指もわせる。

「指だけでいいの?」

 そう問うてやると彼は「否」と短くつぶやき、目の前に垂れた金色の前髪を退け、その端正な造形の顔を彼女の足に近づけた。右の脹脛ふくらはぎを手で支え、自身の近くへと黒い光沢に包まれた愛らしい足先を持っていく。ぬらり、と唇が開くと、そこから蛇のような舌が這い出た。ちろ、ちろ、と赤く見えたが、それが何の前戯ぜんぎもなく彼女の親指の爪に触れる。絹の上からでも分かる、その気持ち悪さ。
 この薄暗い部屋でもランタンで照らし出された彼女の表情くらいは見えるだろう。それは彼を見下す軽蔑の眼差しだ。汚物を見るその愛情ゼロの眼差しを、しかし彼はよろこんだ。

「いい」

 それだけ言って舌を這わせる。下ろしたての絹の味しかしないだろうに、ぺろぺろと執拗しつように爪先を舐めていくと、やがてそれだけでは飽き足らなくなったようで、舐めている部位が少しずつ上へ上へと移動していく。爪先、足の甲、足首、くるぶしの部分は特に丁寧に舐め、それからすっと伸びた脛のラインをつつう、と唾液に濡れた舌先でなぞる。

 ――もう二度とこのストッキングは使えないな。

 内心で彼女はそう嘆息し、ぺろぺろ、ぺろぺろと舐め続ける彼の顔をり上げた。

「ぐわ」

 情けない蛙のような声を上げて倒れた彼は後頭部を床に打ち付けるが、その痛みすらも恍惚こうこつなようで表情は苦悶くもんではなく喜悦きえつで歪んでいた。

「ほんと、欲しがりだねえ」

 お決まりの台詞を口にしながら心の中に唾を吐きつけ、彼女はベッドサイドに置かれたむちを取り、揮った。空間を切った音に続き、彼の露出した肉体を心地良い音が叩きつける。

「あぁ」

 叩く度に彼は声を漏らす。

「あぁ! あぁ!」

 それが気持ち良いらしい。
 何度叩いてやっただろう。
 耳をおおう程度の長さの金髪を振り乱しながら、荒い息で床に伸びている彼は小刻みに震えつつも、満足といった表情を浮かべている。おそらくこのまま眠ってしまうのだろう。

 ――何とも良いご身分だ。

 彼女はそう一人ごちると、改めて王子であるその男の恥態を見下ろした。見た目だけなら質の良いブロンドに白磁のような綺麗な肌、涼し気な目元としゅっとした鼻と唇、そしてあごのラインと、美男と呼ぶに相応しい外見だろう。しかしその下にはほぼ何も身に着けていない。裸だ。いや、一応薄い布のパンツを履いている。それだけならまだよく見かける姿だろう。
 けれど彼の体には縄が掛けられていた。それはつい先程まで両腕を縛り付け、身動きできなくしていたものの一部だ。白い肌に赤い縄痕が刻まれており、今は胸元と腹部に巻き付いて、そこから先がだらりと垂れている。
 彼女はこれが一国の王子の本性とも呼ぶべき姿かと思うと、呆れて笑みすら浮かばない。

「何笑ってんのよ」

 唾液でべたべたになったストッキングの足先で何度もその腹や脇を蹴りつける。本人は顔を蹴ってくれとばかりに見上げて顎を突き出すが、そんなことしてやるものかと彼女は臀部を蹴り飛ばす。
 一体この変態王子のどこに惚れるというのだろうか。
 それでも彼女は、この王子とある女性を結婚させなければならない。何故なら――。

「やってやろうじゃないの。あんたをあたしの下僕として育て上げ、この物語をちゃんとした結末ってやつに導いてやるわ」
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