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第四章 「ひび割れた白熱球」

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 待ち合わせ場所は喫茶店でもファミレスでもなく、新宿の駅前だった。
 鳥井君はブルーストライプのシャツにジーンズというシンプルな格好なのに、私はロングスカートの上に肩や胸元が開いた白地に黒のライン模様が入れられた、アラフィフの自分がしてもいいのだろうかと迷うようなものだった。
 彼に余計な気を遣わせていないかと思ったが、特に気にした様子はなく、

「あの、実は今日、ちょっと浅野さんに付き合ってもらいたいことがあって」

 と、太陽みたいなハニカミを浮かべて言った。

「何でもいいけど、何?」
灯里ともりさんから、なんか告白から一月記念に互いにプレゼントを用意しようとか言われてしまって」

 娘が言い出しそうなことだ、と思った。

「適当にデパート回って何か買おうかと思ったんですけど」
「あの子そういうのは見飽きてるから、もうちょっと工夫した方が喜ぶと思う。例えば、そうね。手作りするとか」
「そうなんですか? 俺の知り合いからは手作りはやめとけ、無難に有名なところで買った方がいいって言われたんですけど」
「そういうの、付き合う人によるんですって。友理恵ゆりえから教わったんだけど、換金できるものの方が良い人はそれくらいの付き合いで、相手の気持ちが大事な人なら手作りでも何でも嬉しいって」

 たぶんそれだって友理恵が読んでいる雑誌なんかの受け売りなんだろうけれど、灯里も同じような感覚を持っていた。全く同じということはないだろうけど、雑誌やテレビ、ネットなんかの評判をあれこれ気にしている。

「鳥井君ならそれこそ、自作のキャンドルとか、勉強しているアロマ系のものとか、いいんじゃないかな? 女性ってそういうもの、結構好きだし。いくつあっても困らないし」
「浅野さんも、欲しいですか?」

 彼の目が、私を真っ直ぐに見ていた。

「……えっと、プレゼントされるなら、ってこと?」
「ええ。そうですよ。自分がプレゼントされる側だったら、そういうものが良いのかなって」
「私は一緒に居てくれるのが一番嬉しいけど……でも、うん、そうね。鳥井君のハンドメイドなら、欲しいと思う」

 私はその表情を伺うようにじっと、彼を観察していた。
 鳥井君は少し考えてから、何か思いついたように目を大きくすると、こう続けた。

「あの、今から俺んち、来ませんか?」
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