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爆音のした方を見ると、木立の間から校舎が見えた。どうやら高校の裏手の山の中らしい。校舎の奥で小さな煙が上っているのが辛うじて分かる。
「あいつらミサイルまで持ち出してきたのかよ……」
何だろう。風邪を引いた時のような寒気が全身に走った。
と、佐竹の体がぶるっと震え、彼の体から光に包まれた人形が前に倒れ出た。あの女神だ。彼女は四つん這いになり、大きく背中で息をしている。
「あんた、大丈夫か?」
「え、ええ。少し力を使い過ぎました。こちらの世界ではどうも消耗が激しいようです」
「しかし本当に女神なんだな」
「信じてなかったんですか?」
「当然だろう? 今だって異世界転生したっていう奴ら、ただ殺されただけだと思ってる」
「どうしてそこまで異世界に対して否定的なんですか?」
女神はようやく落ち着いたのか、ぺたりと足を開いて座り込むと、少し口を尖らせて佐竹を見た。
「小学生の時だ。俺の隣の席に座ってた奴が、山田っていうんだけど、その山田がさ、明日から異世界に転生しますって言われたんだ。当然、その頃は異世界っていったら何となくみんなのヒーロー感があてさ、他のやつらは喜んでたさ。けど山田は別に嬉しそうでもなく、学校が終わってから俺にこんなこと漏らしたんだよ……親が異世界に自分を売りつけたんだって。自分はいらない子だから、大金もらって厄介払いされただけなんだって。それも聞いたらその転生先さ、ドラゴンやら何やらがわんさかいる中をサバイバル生活しなきゃならないって言ってて、どう考えても小学生にやらせる内容じゃないだろと。それ以来、俺は異世界ってのにはあまりいい思いがない」
「それは残念かも知れないけれど、でも考えようによっては自分を大切に思わない両親を離れて人生をやり直せるってことで、転生したその山田君は案外楽しんでいたかもよ?」
「そうならいいんだけどな」
佐竹は女神に背を向けてそう返すと、一人で歩き始めた。
「どこに行くの?」
「転生はしないと言った。あんたともここでお別れだ」
そう言い放った彼に、女神は何も言ってこなかった。
しばらく山道を歩いて下りていく。途中何度か振り返ったが、彼女は佐竹の後についてこなかったようだ。姿は見えなかった。
道路に出て、車が走っている日常を目にすると、ややほっとした心地になる。トラックは自分を襲ってこない。もう奴らは諦めたのだろうか。
道なりにぐるりと半周し、佐竹は高校の校門前へとやってきた。既に生徒の姿はなく、静けさがグラウンドの上に漂っている。
「いや、何かおかしい」
節電でも停電もあるまい。校舎の建物は全くといっていいほどどの部屋にも明かりが灯っていなかった。授業中だろうと多少の声は聞こえるものだ。それすらない。
カチャリ、という金属音が背後で聞こえ、佐竹は歩みを止める。
「佐竹慎太郎」
名を呼ばれた佐竹は条件反射的に両腕を挙げていた。声は女のものだ。あのスキンヘッドではない。
「イセダイ、とかいうところか?」
「そいつはうちじゃないね。あたしは異世界転生管理協会っていうところから個人的に仕事を請け負っているだけさ」
「管理協会? それじゃあ味方か?」
「味方? 何を言ってるんだい?」
ここぞとばかりに佐竹は振り返り、相手の顔を見た。日本人だ、と思える黒髪のショートヘアの女性はレザーのライダースーツで、胸元を少し開けていた。その右手に握られていたのは黒光りする拳銃だ。流石に玩具じゃないだろう。
「佐竹慎太郎。君は異世界転生管理法第六条二項、異世界・甲との契約が締結されたにもかかわらず別の異世界・乙との契約を結んだということで逮捕される。いいね?」
「どういう、こと?」
「端的に言えば、二重契約になっているから、これは違法なので、一旦こちらに君の管理権限が移ったということ。それじゃあ」
ライダースーツの女は言うが早いか、佐竹の挙げた両手のうち、右手首へと手錠をかけ、もう片方を自分の左手首へと嵌めた。
「いや、俺、その話知らないっす。あの女神も自分たちが先に契約したって言ってたし」
「詳しい事情は知らない。私は管理協会に君を引き渡せばいいだけだから。とにかく来てもらう」
ひょっとしたら助かるのだろうか。そんな考えが過ぎり、佐竹は大人しく彼女に従った。
校門前へと戻っていく。
いや、戻ろうとした。
だが頭上に騒音が降ってきた。見上げるとヘリが急降下してくる。しかも足元に長物を装着していて、それがヘリを離れた。煙を吐いてこちらに向かってくる。
「しまった」
女は駆け出したが、佐竹と繋がっていた為に反応が遅れ、二人の上にミサイルが降り注いだ。
人が死ぬ瞬間というのは、こんなにも世界の時間が歪むものなのかも知れない。
やってくる巨大な鉄の棒。その先端はどう考えても素通りする気はない。一方で逃げようとするライダースーツの女は自分の左手が引っ張られ、ゆっくりと佐竹の方を振り返っている。駆け出そうとしたのだがバランスを崩し、足だけが前に出て倒れようとしていた。佐竹は右腕が引っ張られたものの、咄嗟のことで動けず、上半身が女の方へと倒れ込んでいるが、顔だけはしっかりとミサイル正面を向いていた。
そのミサイルの弾頭が突如ひしゃげた。まだ何にも衝突していないのに、大きく凹み、続いて爆発が起こる。
それを見て佐竹は声を出そうとするのだがその意思だけで、彼の体は動いてくれない。
あまりの発光に目を閉じ、彼は死を覚悟した。
「あいつらミサイルまで持ち出してきたのかよ……」
何だろう。風邪を引いた時のような寒気が全身に走った。
と、佐竹の体がぶるっと震え、彼の体から光に包まれた人形が前に倒れ出た。あの女神だ。彼女は四つん這いになり、大きく背中で息をしている。
「あんた、大丈夫か?」
「え、ええ。少し力を使い過ぎました。こちらの世界ではどうも消耗が激しいようです」
「しかし本当に女神なんだな」
「信じてなかったんですか?」
「当然だろう? 今だって異世界転生したっていう奴ら、ただ殺されただけだと思ってる」
「どうしてそこまで異世界に対して否定的なんですか?」
女神はようやく落ち着いたのか、ぺたりと足を開いて座り込むと、少し口を尖らせて佐竹を見た。
「小学生の時だ。俺の隣の席に座ってた奴が、山田っていうんだけど、その山田がさ、明日から異世界に転生しますって言われたんだ。当然、その頃は異世界っていったら何となくみんなのヒーロー感があてさ、他のやつらは喜んでたさ。けど山田は別に嬉しそうでもなく、学校が終わってから俺にこんなこと漏らしたんだよ……親が異世界に自分を売りつけたんだって。自分はいらない子だから、大金もらって厄介払いされただけなんだって。それも聞いたらその転生先さ、ドラゴンやら何やらがわんさかいる中をサバイバル生活しなきゃならないって言ってて、どう考えても小学生にやらせる内容じゃないだろと。それ以来、俺は異世界ってのにはあまりいい思いがない」
「それは残念かも知れないけれど、でも考えようによっては自分を大切に思わない両親を離れて人生をやり直せるってことで、転生したその山田君は案外楽しんでいたかもよ?」
「そうならいいんだけどな」
佐竹は女神に背を向けてそう返すと、一人で歩き始めた。
「どこに行くの?」
「転生はしないと言った。あんたともここでお別れだ」
そう言い放った彼に、女神は何も言ってこなかった。
しばらく山道を歩いて下りていく。途中何度か振り返ったが、彼女は佐竹の後についてこなかったようだ。姿は見えなかった。
道路に出て、車が走っている日常を目にすると、ややほっとした心地になる。トラックは自分を襲ってこない。もう奴らは諦めたのだろうか。
道なりにぐるりと半周し、佐竹は高校の校門前へとやってきた。既に生徒の姿はなく、静けさがグラウンドの上に漂っている。
「いや、何かおかしい」
節電でも停電もあるまい。校舎の建物は全くといっていいほどどの部屋にも明かりが灯っていなかった。授業中だろうと多少の声は聞こえるものだ。それすらない。
カチャリ、という金属音が背後で聞こえ、佐竹は歩みを止める。
「佐竹慎太郎」
名を呼ばれた佐竹は条件反射的に両腕を挙げていた。声は女のものだ。あのスキンヘッドではない。
「イセダイ、とかいうところか?」
「そいつはうちじゃないね。あたしは異世界転生管理協会っていうところから個人的に仕事を請け負っているだけさ」
「管理協会? それじゃあ味方か?」
「味方? 何を言ってるんだい?」
ここぞとばかりに佐竹は振り返り、相手の顔を見た。日本人だ、と思える黒髪のショートヘアの女性はレザーのライダースーツで、胸元を少し開けていた。その右手に握られていたのは黒光りする拳銃だ。流石に玩具じゃないだろう。
「佐竹慎太郎。君は異世界転生管理法第六条二項、異世界・甲との契約が締結されたにもかかわらず別の異世界・乙との契約を結んだということで逮捕される。いいね?」
「どういう、こと?」
「端的に言えば、二重契約になっているから、これは違法なので、一旦こちらに君の管理権限が移ったということ。それじゃあ」
ライダースーツの女は言うが早いか、佐竹の挙げた両手のうち、右手首へと手錠をかけ、もう片方を自分の左手首へと嵌めた。
「いや、俺、その話知らないっす。あの女神も自分たちが先に契約したって言ってたし」
「詳しい事情は知らない。私は管理協会に君を引き渡せばいいだけだから。とにかく来てもらう」
ひょっとしたら助かるのだろうか。そんな考えが過ぎり、佐竹は大人しく彼女に従った。
校門前へと戻っていく。
いや、戻ろうとした。
だが頭上に騒音が降ってきた。見上げるとヘリが急降下してくる。しかも足元に長物を装着していて、それがヘリを離れた。煙を吐いてこちらに向かってくる。
「しまった」
女は駆け出したが、佐竹と繋がっていた為に反応が遅れ、二人の上にミサイルが降り注いだ。
人が死ぬ瞬間というのは、こんなにも世界の時間が歪むものなのかも知れない。
やってくる巨大な鉄の棒。その先端はどう考えても素通りする気はない。一方で逃げようとするライダースーツの女は自分の左手が引っ張られ、ゆっくりと佐竹の方を振り返っている。駆け出そうとしたのだがバランスを崩し、足だけが前に出て倒れようとしていた。佐竹は右腕が引っ張られたものの、咄嗟のことで動けず、上半身が女の方へと倒れ込んでいるが、顔だけはしっかりとミサイル正面を向いていた。
そのミサイルの弾頭が突如ひしゃげた。まだ何にも衝突していないのに、大きく凹み、続いて爆発が起こる。
それを見て佐竹は声を出そうとするのだがその意思だけで、彼の体は動いてくれない。
あまりの発光に目を閉じ、彼は死を覚悟した。
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